第178話 本当の狙い
宇宙歴4264年5月29日、この日、元拠点の島にある屋敷に信者の一人が駆け込んできた。
「メード司祭様、メード司祭様!
見つけました!ようやく見つけましたよ、遺跡を!」
信者のその報告に、椅子から勢いよく立ち上がるメード司祭。
「見つかりましたか!それで、遺跡の様子は!」
「……それが、遺跡は洞窟の中にありましたが何もなかったそうです」
「何もない?そんなはずはありません、遺跡には聖女様が封印されてあるはずです!
すぐに、遺跡の周りを捜索するように……」
そこへ、鎧をつけた騎士たちが乗り込んできた。
「そこまでだ、メード司祭。
遺跡の調査は、我ら聖騎士団が後を引き継ぐ」
騎士たちの中の豪華な鎧に身を包んだ男が、前に出てメード司祭を止めた。
そして、一方的に引継ぎを宣言すると、騎士たちを遺跡へと向かわせるように指示を出した。
「すぐに第一、第二の部隊を遺跡に向かわせろ!
それと、町中の信者たちをどうにかしろ、メード司祭!」
「な、何の権限で私の手柄を横取りするのか!」
しかし、騎士は無視して屋敷を出ようとする。
そこをメード司祭が、騎士の前に立ちふさがる。
「グロウ司教!聖騎士たちを連れて来て、遺跡をどうするおつもりか!」
そう、指揮をしていた豪華な鎧の男は、グロウ司教だった。
グロウ司教は、ニヤリと笑うとメード司祭を見下すように言い放つ。
「アーリー様の指示で、私はここに来たのだ」
「アーリー枢機卿の……指示?
何故、アーリー様が遺跡発見をご存じなのか!」
グロウ司教は、ニヤリと笑うとそのままメード司祭の横を通っていった。
「何故、遺跡発見を知っている?
しかも、発見の報告はさっき信者によってもたらされたばかりだぞ?」
メード司祭は訳が分からず、アーリー枢機卿の恐ろしさだけを実感する。
そして、立ち尽くすメード司祭に、信者の一人が近づく。
「メード司祭様、信者の一部が暴徒と化してこの屋敷に迫っています。
すぐに、この島からの脱出を……」
「だっ……分かりました……」
こうして、メード司祭は、一部の信者と一緒に島を脱出していきました。
▽ ▽
メード司祭がいなくなった後、屋敷は暴徒と化した信者たちに襲われ、火を放たれ、翌日には、火災によって崩れ落ちた屋敷跡が残るのみでした。
その後、信者たちはどうなったのか。
大半の信者は、船を使って宗教国家に帰っていきましたが、一部の者たちは残り、騎士団を襲い返り討ちにあって殺されたようです。
そして、騎士団は、遺跡を今も調べているようですが、何も見つけられず焦っているとか。
『以上が、元拠点のこの七日間の動きですね』
僕の横でロージーが、報告してくれる。
それを、テーブルでお茶している面々が聞いていた。
「ようやく遺跡が発見されたのに、メード司祭もかわいそうに……」
「レオン君、同情なんてすることないわよ?」
「そうそう、私達を追い出したんだからね!」
僕が同情すると、それを諫めるようにシャロットさんとジャスミンさんが答える。
今だに、怒っているようだ。
まあ、彼女たちもセーラと一緒に拠点の政に勤めていたからね。
奪われたことに、悔しい思いがあるのだろう。
「それにしても、あの屋敷がまる焼けとは……」
「セーラ様?あの屋敷にセーラ様の荷物はございませんよ?」
「私の荷物はいいのよ。そうじゃなくて、私の住んでいた屋敷はレオン君が建てたものでしょ?それが火事ですべて燃え尽きることがね……」
別に、火事に強い建物でもないし、燃えるときは燃えるんだけどね?
どうも最先端の屋敷だったと、思い込んでいたようだね。
セーラさんとメイドさんの会話なんだけど、ちょっとずれているよ、論点が。
それに、そんな頑丈な建物を造らないよ、『青い星』の景観というか歴史を考えて、オーパーツのような素材とか使わないよ。
「はぁ~、私を探してどうするつもりなのでしょうか」
「翔ちゃんも大変ねぇ~、私の時もそうだけど、召喚者多すぎない?」
「そうですよね、私なんか巻き込まれただけでしたし……」
そう話すのは、遺跡に封印されていた聖女の池田翔子さんに、勇者として召喚され召喚した国に裏切られた直美さん、そして、巻き込まれて転移された優奈さんだ。
三人とも、地球の日本からの召喚や転移なんだけど、僕では帰すことができないと翔子さんに話したら、このまま生きていくって言っていたんだよ。
直美さんや優奈さんと知り合ってからの決意みたいだから、二人に感化されたんだろうね。
とりあえず、サポートはするから安心してほしい。
でも、本当は元の時代に帰してあげたいよね。
僕みたいに、転生して今の時代にいるわけじゃないんだし……。
▽ ▽
「グロウ司教!見つけました!アーリー様の仰られていたのは、これのことかと!」
聖騎士の一人が、遺跡の奥、巫女が封印されていた場所よりもさらに奥で、あるものを見つけた。
それは、アーリー枢機卿が探していたもの。
現代では造ることさえ敵わない、完全なるオーパーツ。
それは、神を呼ぶことのできる装置。
これを使って、アーリー枢機卿は何を企んでいるのか……。
第178話を読んでくれてありがとうございます。
次回は、二日後になります。




