第176話 拠点の島の隠された伝説
明けましておめでとうございます。
元日は休ませてもらいまして、2日目からですが今年もよろしくお願いします。
宇宙歴4264年4月30日、『青い星』の拠点の島の町『ホリック』に、豪華な装飾を施した船が停泊した。
そして、その船からこの島に降り立ったのがメード司祭だ。
「ようやく占拠できましたか……」
供の信者を連れて、港から町への通りを歩いていると近づいてくる信者がいた。
「メード司祭様、この島の町の支配者がいた屋敷を用意しました。
そちらを、この島滞在の間お使いください」
「ん、ご苦労様です……それにしても、この騒ぎは何ですか?」
歩いて町の様子を眺めているメード司祭は、周りの騒ぎに怪訝な表情をしていた。
そこには、町の家々を荒らしている信者たちが見えたからだ。
食料や衣服などを持ち出している者たちや、商店だったのだろう、すでにすべての物を持ち出されてめちゃくちゃになって放置されているなど、見るに堪えない。
さらに、ちらっと見えた郊外の畑にいる信者たちは、植えられていた作物を取り、さらに畑を掘り返している者も。
「……なぜ、こんなことを……」
「申し訳ございません。
しかし、食料がないのです、メード司祭。
この町の食料は、すでに、ここにいる者たちで食べつくしてしまって……」
メード司祭は、ハンカチを鼻と口に当てながら、今の状況に納得していた。
「それでしたら、私どもが持ってきたものが役に立つでしょう。
私の乗ってきた船に、食料が積み込んであります。
それを、皆に分け与えなさい。
それと、本国に食料の支援を要請しておきます。
すぐにでも、食料に関しては解決するでしょう」
「ありがとうございます、メード司祭様」
メード司祭たちは、そのまま歩いて、町の様子を見ながら屋敷へ入った。
だが、入った屋敷も、ところどころ荒らされているようだ。
何人かの信者たちが掃除をしているのが見える。
階段を上がって、支配者がいたであろう部屋に入ると、立派な机と椅子があり、その椅子へメード司祭は腰を下ろした。
「ふう、これでこの島は私たちが管理することができますね」
「あの、メード司祭様。あの塔はいかがいたしましょうか?」
案内した信者が、窓の外に見えるそびえたつ塔を指し示す。
メード司祭は、塔を見て目を細める。
「中には侵入できたのですか?」
「いえ、唯一の扉は閉じられ、中へ入ることができません。
外からよじ登っての侵入を試みましたが、いずれも失敗しました。
塔の破壊も試みましたが、どんな構造しているのか、魔法すら受け付けなくて……」
メード司祭は、信じられないとばかり驚いた顔をするが、すぐに表情を戻し、放置を命じた。
そんな些細なことに、関わっている場合ではないのだ。
「塔の周りに壁を造って閉じ込めておきなさい。
それが終わったら、信者たちを島の散策に出すのです。
そして、何か見つけたら報告すること、いいですね?」
「分かりました、失礼します……」
案内してきた信者が部屋を出て行くと、供の信者の一人がメード司祭に質問する。
「メード司祭様、この島で、何を探すのでしょうか?」
「……この島には、ある遺跡があるのです。
信者たちには、それを見つけてもらいます」
「遺跡、ですか?」
メード司祭は、部屋にいる二人の供の信者に語りだす。
遺跡にまつわる物語を……。
――――それは、私たちの信仰の経典に記された伝説。
そこに記された、始まりの聖女の物語。
今から約1000年前、世界は髑髏姿の死神に苦しめられました。
魔王といってもよかったのですが、その姿から死神と呼ばれました。
死神の呼びだす魔物は、死者の魂を呪いで縛った亡者たち。
通常の人々では太刀打ちできず、しかも各国の騎士たちでも対処は難しかった。
そんな時に神ホルラン様に召喚されたのが、異世界の聖女様でした。
美しい黒髪のその聖女様は、その身に宿らせた聖なる光で、すべての亡者たちを浄化していったのです。
その浄化の光は、世界を照らし苦しめられていた人々に希望を与えました。
そして、その聖女を危険視した死神は、ある南の島で浄化活動をしていた聖女に襲い掛かったのです。
聖女を護る騎士たちが、次々と死神に殺され手駒にされていく中、聖女はその身に宿る浄化の力を、神ホルランへの祈りとともに強化し、その身に宿す全ての力を使って死神の浄化に成功したのです。
ですが、すべての力ということは、聖女の生命力も使ってしまったということ。
死神が浄化された後に残ったのは、聖女様の眠るような死体だけでした。
聖女に助けられたたった一人だけ残った騎士は、その南の島に聖女の墓を作り船で島を後にしたのでした。
「その死神との戦いがあった島がここだと?」
「そうです、そして、その生き残った騎士こそ、我が教団の始祖であるデイビッド教皇陛下。
元は聖女信仰が主体でしたが、いつしか聖女をこの世に召喚した神ホルラン様が信仰の対象となりました」
窓の外を見ながら話すメード司祭を、神妙な気持ちで聞いていた二人の信者たち。
宗教国家の信仰が、元は聖女信仰で、その聖女は実在していたと……。
そして、その墓遺跡が、この島にある……。
「メード司祭様、その遺跡を見つけてどうされるのですか?」
「その聖女の話には、一部の者にだけ伝えられている話があるのです。
それは、聖女の墓を掘り返す時、聖女は復活するだろう。
復活した聖女は、我が教団の敵となるだろう、と……」
「敵?」
「詳しくは分かりませんが、経典の原本の最後のページにそう書かれてあるのです。
聖女が復活するかどうかわかりませんが、我が教団の敵が出現する可能性があるのです」
「だから、この島の人々を?」
メード司祭は頷くと、拳を固く握りしめました……。
▽ ▽
衛星軌道上にある宇宙コロニー『楽園』で暮らし始めた拠点の町『ホリック』の住民たち。
そこにはセーラも含まれ、いま彼女は、町中のカフェでお茶していた。
「はぁ……」
セーラのため息が漏れる。
しかし、それも無理もないだろう。
一緒のテーブルにいるシャロットとジャスミンの姉妹は、セーラのため息にお互いを見て苦笑いだ。
「セーラさん、ため息ばかりついていると、幸せが逃げますよ?」
「……ほっといてレオン様、私は呆れているのよ……」
セーラと一緒のテーブルには、ジャスミン姉妹だけではなく、僕もいっしょだったのだ。
これからのことを話し合うために来たのに、肝心のセーラさんはため息ばかり……。
どうしようかな……。
第176話を読んでくれてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




