第174話 拠点の島の危機
ロージーから、『青い星』の信仰の状況を聞いていると、直美さんと優奈さんが艦長室に乗り込んできた。
忘れている人もいるかもしれないが、直美さんは召喚された勇者で、優奈さんは転移事故で『青い星』に来た人だ。
「レオン君、ちょっと時間いい?」
「ええ、構いませんけど………何かあったんですか?」
僕は、直美さんと優奈さんの姿を見て少し驚いた。
二人の姿が、普段着ではなく『青い星』での戦闘する軽鎧だったからだ。
本来なら、武器も所持しているはずだが、さすがにここまで持ち込むことはできなかったようだ。
「ん? ああこの姿は、さっきまで『ホリック』にいたからよ。
今あの町、大変なことになっているからね……」
「大変なこと?」
「ええ、その相談でここに来たの。
本当はもっと前に相談したかったんだけど、レオン君、最近忙しかったからね」
……最近は、宇宙での出来事や『緑の星』のことで手いっぱいだったからな……。
本来の『青い星』の管理人失格だな、これでは。
「それで、相談とは?」
「実は一月前ぐらいから、拠点になっている島に来訪者が増えたの。
最初は、迷って流れ着いたのかと思ったんだけど、半月ぐらいたつと、今度は領軍の船が拠点の島の周りをうろつきだしたのよ。
領軍というのは、ちょっとややこしいんだけど北に行った港町『カルロー』がある場所から北へ伸びた領地を持っている領主が出した軍船のことね。
その隣にあるのが、宗教国家なのよ。
で、領軍はまだいいのよ、何もしないで島の周りをうろつくだけだから。
問題は、その宗教国家なの」
宗教国家。
拠点のある島の周りの状況は、一応調べたんだが問題がある国家はなかったはずだ。
直美さんの言っている宗教国家も、外へ侵攻とかする感じはなかったし、安心していたんだけど……。
「宗教国家の人たちが、何か問題でも起こしたの?」
「半月前、領軍がうろつき始めた頃、宗教国家の代表を乗せた船が港に来たの。
そして、この島に町ができていることを知って、セーラに教会を建てるように迫ったのよ」
「セーラさんは、この拠点の島の町『ホリック』の代表をしてもらってますから、セーラさんが了承するなら構いませんけど……」
「ちょっとレオン君、その教会が神ホルランを信仰するものでもセーラ任せにできるの?」
神ホルラン?!
それって、ロージーから聞かされた人族至上主義の創造神信仰だったね。
それはまずい……。
「神ホルラン信仰って、人族至上主義ですよね?それはダメだ……」
「でしょう?人族至上主義の連中が、どんなに差別的な連中か分かるでしょ?」
そう、人族至上主義の人たちって、何故か人族以外を下に見るんだよね。
人族だけが、何かに優れているってわけでもないのに……。
『それで、セーラ様は教会を建てることに同意されたのですか?』
「ううん、セーラは同意なんてしなかったわ。
それどころか、神ホルラン信仰はこの島に必要ありませんって断言してたわよ」
「そうそう、宗教国家の代表たちが、たじろいでいたよ」
セーラは、旧グリュード王国の第五王女だった女性だ。
その辺りの交渉術というか、外交術とかはすごいね。
『それでしたら、その話はもう終わりなのでは?』
「それが、ここからが大変なんだよ。
その宗教国家が、船を送り込んでくるんだよ。たくさんの信者たちを乗せて……」
「港は狭いでしょ?だから宗教国家の船は、大きすぎて泊められなかったんだけど、二度目からは小船を用意しててね。
その小船に乗り換えて、島に上陸するようになったの」
「今じゃあ、町の大部分が信者で溢れているわ……」
島の町に信者があふれているって……。
これは、『ホリック』の住民をコロニーへいったん逃がした方がいいかも。
「ロージー、拠点の町の住民をコロニーに行ったん避難させます。
すぐにセーラさんに知らせて、避難をお願いしましょう」
「まってレオン君、今避難を呼びかけると、信者たちも押し寄せることになるわよ?」
そうか、う~ん、どうしようかな……。
何か起きる前に、避難させたいんだけど……。
『若旦那、いったんセーラ様の屋敷に集めてから避難させてはどうですか?
あそこは、領主の屋敷といってもいいほど大きく広いですから』
「そうだね、それでいこう」
「それじゃあ、連絡は私に任せて!」
「私もいっしょに、セーラさんにレオン君の考えを知らせておくわ」
直美さんと優奈さんが、連絡役を引き受けてくれた。
これで、コロニー『楽園』に拠点の町の住人が集まることになる。
いったん避難させることにしたけど、これからどうなるかは分からないな……。
宗教国家について、少し調べておくか……。
▽ ▽
「それで、その島の町はどうなんです?手に入りそうですか?」
白一色の服を着た司祭が、報告に来た信者に質問している。
普通の姿恰好をしている信者は、正直に経過を報告していく。
「そうですか、まだ……。
分かりました、引き続き信者たちを送り込んでください」
報告に来た信者は、一礼すると部屋を出て行く。
扉が閉まると、司祭は近くにあった机を強く叩いた。
「……あの島に町ができていたとは、予想外です。
あの島の秘密を知られるわけにはいきません……」
司祭は、ぐっと拳を握り締める。
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