第170話 グラニドの悪夢、再び
宇宙歴4264年4月20日、惑星『ローフ』の月基地で、シャロン様といろいろな協定や条約などを締結することができた。
これで、シャロン様側との戦争は終了となり私たちの政府は安泰となる。
そして、今回生き残った五人は全員帰国となるが、五人全員が惑星『ローフ』への移住を希望していた。
どうやら、本国に帰っても敗戦の責任とかで攻められる未来しかないように思えるからだろう。
これには、私も賛成だ。
五人はいったん帰国し、ご家族と話し合って移住するとのこと。
移住するときは、私たちが責任もって送り届けることになった。
また、シャロン様側の技術提供は了承してもらえなかった。
それは、私たちの進化、とでもいうのだろうか?発展が続かなくなるかもしれないからだそうだ。
誰かに教えてもらった技術では、試行錯誤した技術での新しい道がなくなるのだとか。
でも、一つの答えとして見せてもらうことはできた。
これで、少しは私たちの文明の発展に役立つだろう。
「嬉しそうだなコトネ少将、彼方さんとの会談はうまくいったのかい?」
「ああ、チヒロ艦長。会談はうまくいった。
シャロン様側との戦争は終了となったし、こちらの文明を認めてもらったしな」
どうやら、このブリッジで私の表情が緩んでいたのだろう、隣で座っていたチヒロ艦長に質問されてしまった。
「では我々は、このまま制約なしで生きていけるわけだ」
「ああ、シャロン様から何か咎められることはないはずだ」
そう、私たちの文明を認めるとは、私たちの行動に口出ししないということ。
また、誰かを贔屓しないということでもある。
「でも、何故口出しすらしないのだろうな?」
「その質問は、私も気になったのでシャロン様にしてみた」
「で、答えは?」
「……淘汰されるから」
「ん?」
「シャロン様は、淘汰されるから、と言っていたよ。
どんな文明であろうと、そこにあるのは今それが必要だからだろう。
だが、いずれ壁にぶち当たる。
その時その文明が今後も必要なら続いていくし、必要ないなら滅ぶだけ。
私たちは、それを見守るのみ……だそうだ」
「……それって、ある意味無責任ってことじゃないのか?」
「いや、上には上がいるということだろう。
私たちの文明の進む先に、もしシャロン様たちが壁になるなら私たちは滅ぶだけ。
それが早いか遅いかで、生き残る確率が変わる……」
「……それまでに強くなるか方向を変えるか、か」
私たちは、黙ってしまった。
前『オスティア政府』は総辞職により、私たちが戻るころには新政府となっているだろう。
この先の未来は、この新政府の方針で変わっていく。
私たちの文明の将来が決まるだろう。
このまま、繁栄するか滅ぶか……。
▽ ▽
「シャロン様、いいんですか?
あの人たちを、あのまま行かせて……」
「構わないわよ。それに、彼女たちに何かできるとは思えなかったしね……」
『オスティア星』がどう出てこようと、私たちに勝てるとは思えない。
それに、武力で来るものは武力によって滅ぶ。
今後、どうなるかは分からないけど私たちの存在は印象つけられただろう。
こういうことを繰り返して、この銀河はまとめられていく。
短慮的な文明は淘汰され、考える文明は生き残る。
そして、『オレオン銀河』が一つになって初めて平和が訪れるのだ。
まあ、それでも小競り合いは続くのだろうな……。
相手を認めることの、何と難しい事か。
「そういえば、カスミさんたち、こちらに移住を希望してましたね」
「文明の差ってやつを、嫌ってほど感じていたからね~。
多分ご家族ともども、こっちに亡命するんじゃないかな?」
そう、生き残りの五人は、こちらの生活に衝撃を受けて楽しんでいた。
それは、食事の差から始まり知識、身の回りの生活などなど。
帰国するという時には、五人全員亡命を希望するとか言い出していたし。
「確かに、短い滞在にもかかわらず、ご家族の方たちも亡命を希望していましたね」
やはり、技術格差というやつなのかな?
積み重ねてきた年月が違うわけだけど、『オスティア星』の文明も、年月を重ねれば今のこちらと遜色なくなる時が来るはずなんだけどね~。
そんなことをケニーと話していると、秘書のアンドロイドが部屋に飛び込んできた。
『失礼します。シャロン様、惑星『グラニド』で動きがありました。
至急宇宙船『エリザベート』のブリッジへお願いします』
惑星『グラニド』?!
確か去年だったかな、亜空間ゲートの職員用コロニーの一つを占拠して騒がせたあいつ等か!
一応、監視対象としていたけど、何かまたやらかすつもりか?!
私とケニーは、すぐに宇宙港から停泊ステーションに泊めてある宇宙船『エリザベート』へ乗り込んだ。
ブリッジに行けば、何か詳しいことが分かるだろう。
今度何かやらかせば、本格的につぶさなければならなくなるんだけど……。
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