第169話 再会
いよいよ私たち家族は、再会を果たします。
生きていてくれただけでも、ありがたい。と、母は言いましたが姉の私としては、妹の『カスミ』がどんな姿で私たちの前に現れるのか、気が気ではありません。
祈るように母は、椅子に座って私の隣で待っています。
周りを見れば、この部屋の中にわたしたち以外のご家族も、私たちと変わりありません。
私たちを連れてきてくれたコトネ少将たち軍人さんは、部屋の壁際に待機しています。
椅子に座ることなく、待っているのは何かあるのでしょうか?
コンコンとノックの音が、入り口のドアから聞こえました。
そして、ドアが開くと、私たちをこの部屋に連れてきたケニーさんが部屋の中に入ってきます。
「皆様、特にご家族の皆様、お待たせしました。
……入ってきてください」
そう入り口に向かって言うと、五人の男女が入ってきます。
五体満足に、しかも、歩いて……。
入ってきた五人の中に、『カスミ』の姿を見つけました。
母も、恐る恐る顔を上げてみます。
妹の『カスミ』も、私たちを見つけてこちらに歩いてきます。
……もう、会えないんじゃないかと覚悟してました。
『お母さん……お姉ちゃん………』
『カスミ………』
『………』
もう声になりませんでした。
カスミは、心身ともに無事みたいで顔に傷ひとつ確認できません。
母とカスミが抱き合います。
2人とも、周りを気にせず大声で泣いています。
……私も抱き合う二人を見て、泣いてしまいました……。
良かった……本当に良かった………生きててくれた……。
▽ ▽
目の前で、ご家族と生き残った捕虜の五人が無事を確認し合い、抱きしめ合って泣いている。
報告では、五人とも手足のどちらかに欠損があり、大やけどを負っていた者もいたとか。
生きているのが不思議なほどの、重傷で軍の医者たちも報告書の症状から長くはないとの見解を示していた。
だが、目の前の五人はどうだ?
報告書にあったケガなど、どこに負っているのかと疑いたくなるほどの様子だ。
よく似た別人といっても、信じてしまうほど五人は治っていた。
壁際に並んでいる兵士の中には、ご家族の再会にもらい泣きしている者もいる。
だが、私は目の前の光景が信じられなかった……。
軍の医者が長くないといったほどの重傷だった。
確かに、五人の写真も送ってもらって、報告書に付いてあった。
それが………。
もしかして、報告書は偽物で、写真もよく似た人のものを……。
……いや、先の戦いで、宇宙戦艦150隻がすべて爆散したことは本当だった。
五体満足で生き残れるはずがない。
……ならば、宇宙人たちの医療技術が優れているということなのか?
私は、背中を冷たい汗が流れるのを感じた。
……やはり、とんでもない連中に攻め込んでしまったのではないか、と。
▽ ▽
『よかった……生きててくれて……』
『お母さん……私は、生きてるよ……』
私はお母さんを抱きしめる。
お母さんも、私をしっかり抱きしめてくれる。
お母さんに、こんなに強く抱きしめてもらったのはいつ以来だろう。
少なくとも、宇宙戦艦『神苑』の艦長になってから一度もない。
それどころか、親に会うこともなかった。
それほど、忙しくしていたのだ。
こうして、生まれ故郷の『オスティア星』から離れた地で、私は死にかけた。
いや、死んでいたといってもいいだろう。
走馬灯を見ていたのだから、死ぬ寸前だったのは間違いない。
私とお母さんが抱き合っているそばで、お姉ちゃんが泣いている。
人目もはばからず、号泣だ。
お化粧をしっかりしたはずなのに、顔をぐしゃぐしゃにして泣いている。
私は、それが嬉しかった。
お母さんの温かさを感じ、お姉ちゃんのやさしさを感じ、私は泣いている。
しばらくすると、あちこちで泣く声が小さくなってくる。
お姉ちゃんも、少し恥ずかしがりながら、鼻をすすっている。
腕の中のお母さんも、泣き止んでいた。
そんなタイミングで、ケニーさんが声をかけてきた。
ケニーさんは、主であるシャロン様の秘書のような女性だ。
側にいつも仕えて、シャロン様を支えている人。
「えっと、再会の感動に浸っているところ、申し訳ございませんがそろそろお夕食の時間となります。
宇宙戦艦の乗組員の皆様も、食堂にご案内しましたので、皆様も食堂へ移動をお願いいたします」
……もうそんな時間なのね。
私も、腕時計に目をやると、本当に夕食の時間になっていた。
『カスミ?その腕時計は?』
お母さんが私の腕時計に気が付いたようだ。
この腕時計は、ここで生活するうえで必要になるからと、病院を退院するときに贈られたものだ。
そして、確かにここでの生活は時間が決まっていた。
食事の時間をはじめ、勉強の時間や施設の利用可能時間など。
そのために必要だったと、お母さんとお姉ちゃんに説明する。
『そう、こっちで生活するには、そんな腕時計が必要なのね……』
『へぇ~』
お姉ちゃんの感想は、淡白なものだったが、お母さんはもしかして、私と一緒にここに住むつもりなのかな?
そんなことを、移動しながら思ってしまった……。
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