第168話 再会前の衝撃
相手側の誘導に従い、乗ってきた宇宙戦艦を月の基地へと停泊させる。
そこは、月の表面から中へ続く洞窟のような場所で、まるで船を建造するドックのようだった。
それに、驚いたことにそのドックは、この通常の宇宙戦艦の二倍はある宇宙戦艦を何の抵抗もなく停泊させることができたのだ。
それも、かなり余裕をもって……。
おそらく、月から少し離れた場所にあったあの大きな宇宙戦艦用のドックなのだろう。
そう考えると、わざわざ私どもの宇宙戦艦のために、場所を譲ってもらって申し訳ないな……。
宇宙戦艦をドックに泊めると、宇宙戦艦の側面にある通常の出入り口に専用通路が覆いかぶさった。
……なるほど、これで空気を入れて宇宙服無しで出入りできるというわけか。
これなら、訓練をしていない民間人でも、出入りできるというわけか……。
『では、チヒロ艦長、私たちはご家族と出発するよ』
『はい、私どもも船内の点検が終わり次第、中へ行きます』
お互い敬礼すると、私はブリッジを出た。
艦内の出入り口まで行くと、そこにはすでに生存者のご家族が全員そろっていた。
何人かは、涙をこらえているようだ。
『それでは、お集まりの皆さん。これより出発いたします。
どんな状態であろうと、気をしっかり持ってください』
ご家族は、返事をすることなく頷かれている。
声を出すと、泣いてしまいそうになるのだろう。
私は、出入り口前の乗組員の女性を見て、頷くと、女性乗組員も頷いて出入口のハッチを開ける。
空気の抜けるプシュッという音がしたが、構わず扉を押すと上下左右を透明なもので覆った通路があらわになった。
……息はできる。空気がある証拠だ。
それに、気圧も安定している。少し風が外へ流れたが、そよ風程度だ。
『では、私から行きますので、ついて来てください』
そう言って、まず私から通路に飛び込む。
重力がなく、宇宙遊泳という形になったが、問題なく通行できる。
また、通っている最中に、透明な壁を触ってみたが柔らかく、もしぶつかってもケガをしないようになっていた。
後ろを気にすると、ご家族の方々も、恐る恐るではあるが私について通路を通ってきている。
『……おそらくこれが宇宙船ドックなのだろうか?』
通路の外の景色に、そんな感想を持ってしまうほど大きな停泊所だった……。
慣れない通路で、一分ほど時間がかかったが私たち軍人組とご家族組の全員が渡り切り、通路の先のロビーのような大きな広い空間で驚いた。
周りを見渡し、驚いていると一人の女性が私たちの前に近づいてきた。
……確かに、私たちと同じような容姿をしている。
「皆様、初めまして。
私が今回皆さまを案内させていただくケニー、と申します。
それでは、まずは皆様が泊まるホテルにご案内させていただきます」
ホテル?ホテルとは何だ?
私は知らない言葉が出たので、案内のケニー殿に質問してみた。
「あら、『ホテル』という言葉は通じなかったですか。
えっと、『宿屋』『宿泊施設』……」
『ケニー殿、『宿泊施設』なら分かります。
そうか、『ホテル』とは『宿泊施設』のことか……』
「う~ん、翻訳機能が万全といっても、通じない単語はまだまだあるようですね……」
そう言ってケニー殿は、苦笑いを浮かべられた。
言葉が通じるか通じないかで、不安になることもある。
私どもの翻訳機では、ケニー殿の言葉を翻訳できなかった。
だが、ケニー殿の翻訳機は翻訳できているようだ。
ここにも、技術格差があるようだな……。
『あの、ケニー様、ご質問よろしいでしょうか?』
私との会話で、ケニー殿に言葉が通じると分かったのか、ご家族の方の一人の女性が、質問をしてきた。
それをケニー殿は、嫌な顔をすることなく聞かれるようだ。
「はい、何でしょうか?」
『私たちは、こちらで治療をしてもらっております生き残りの家族でございます。
その生き残ったものには、会わせてもらえるのでしょうか?』
私は、少し性急ではないかと思ったがケニー殿は、笑顔でその質問に答えてくれた。
「勿論です。皆様、ご家族に会えることを楽しみにしておられました。
……これからお会いになられますか?」
『よろしいのですか?!』
「ええ、構いませんよ。宿泊施設に行こうとしたのは、荷物を置かれてはどうかと思ったのでご案内する予定でしたから……」
ふむ、確かに私たちは鞄などの荷物を持っている。
ご家族の方の中には、大きな荷物を持っている人もいる……。
が、早く会いたいのだろう。
ご家族の全員が、私に許可を求めるように見つめている。
『ケニー殿、ご家族を会わせてもらえますか?
皆さん、心配で心配で宿泊施設どころではないようなので……』
「分かりました、それでは少しお待ちください……」
そう言われると、懐からメガネケースのような薄くて四角いものを取り出した。
そして、何か操作すると、耳に当てる……。
もしかして、あれは通信機器なのか?
何と薄くて持ち運びに便利なのだ……。
私たちの通信機器は、宇宙戦艦などに備え付けられたものが一般的だ。
各家庭にもあるが、あのように小さくは出来ていない。
「ケニーです。今から『カスミさん』たち皆さんのご家族の方がお会いしたいそうなので、ご案内してもよろしいですか?」
通信ができているな……しかも、あんなに話しやすそうに……。
やはり、この者たちと争うことは私たちの滅びとなりそうだな……。
通信を終えたケニー殿は、懐に通信機器をしまうと、私たちに向き直った。
「許可が下りました。みんなご家族に会えることを楽しみにしているそうです。
荷物は大丈夫ですか?
……では、まいりましょうか」
そう言って私たちを案内してくれる。
ここまでのやり取りだけで、私たちは衝撃の連続だ……。
はたして、この先どんなことがあるのか……。
第168話を読んでくれてありがとうございます。
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