第167話 オスティアの宇宙戦艦と家族
宇宙歴4264年4月16日、惑星『ローフ』のある太陽系に侵入する、一隻の宇宙戦艦があった。
その宇宙戦艦は、『オスティア星』の宇宙戦艦なのだが、攻めてきた宇宙戦艦とは違い船体が通常の宇宙戦艦の二倍あった。
また、ブリッジの位置も通常のものと違って前方寄りになっていた。
そんな宇宙戦艦のブリッジには、女性艦長が前を向いたまま微笑んでいる。
他の乗組員も、自分の持ち場で仕事をしていた。
そこへ、一人の女性が宇宙遊泳をしながら、ブリッジに入ってきた。
「あら、コトネ少将様。
捕虜になられたご家族の方たちは、ご納得いただけましたか?」
「チヒロ艦長、家族の方たちは納得してくれたよ。
渋々ではあるがな……」
チヒロ艦長は、微笑みながら前を向いたまま答える。
「それは仕方ありません、わたくしも家族だとしたら納得しないでしょう。
ケガの具合で、見捨てると言われたら……」
「……あんまり虐めてくれるな、私とて辛いのだ。
だが、今回の侵攻作戦、戦場を知らない政治家どもの暴走でな、やらざるをえなかった」
「それで大敗北ですか?」
「……まあ、おかげで政治家全員辞職してくれたからな。
今ごろ本国では総選挙の真っ最中だろう」
「フフ、国民がかなり怒っていましたからね~。
ニュースでは、何人かの政治家が暗殺されたとか?」
「ああ、『天誅』とかいうやつか。
それもあって、政治家たちへの信用が無くなってきているそうだ。
……まったく、政治というのは難しいな」
「でも、おかげでわたくしが『オスティア政府』の使者として、こうして来れたのですから、一応感謝したいですわね。
その作戦を立案した無能政治家に……」
「安心しろ、もう会うこともない。
私たちが出発する前に、暗殺されて死んでいたよ」
「あら、残念……」
少ししょんぼりした顔をするチヒロ艦長に、コトネ少将は呆れていた。
この女は何を考えているのだろうか、と。
その時、操縦席に座っていた乗組員が、チヒロ艦長に声をかけた。
「艦長、惑星『ローフ』と目的地の月が見えました」
その声に、チヒロ艦長とコトネ少将は前を向き、惑星『ローフ』を確認する。
青い惑星の『ローフ』は、美しい星だった。
「あれが惑星『ローフ』ですか。
……『オスティア星』と比べても、美しい星ですわね」
「うむ、もしかしたら『オスティア星』よりも美しいかもしれんな……」
惑星『ローフ』に見入っていると、月が目に入ってきた。
どこにでもある月に見えたのだが、近づくにつれ月表面に明かりを見つける。
「あの月の表面に明かりが灯っている、ということは、基地があるということか……」
「へ~、わたくしたちの技術では、空気の無い場所に基地はまだ造れなかったわね……」
そう、実は『オスティア星』の技術では、宇宙空間に基地はない。
そのため宇宙戦艦は、惑星の地上から打ち上げられるようになっているのだ。
何度か、宇宙基地を作ろうとしたが、あれこれ必要なものが多く規模が大きくなってしまっていたため、実用性の宇宙戦艦建造までになっていたのだ。
そのため、宇宙ステーションすらないのは、ある意味興味深い技術力である。
「艦長、通信が入りました。
月の宇宙港に誘導するとのことです」
「分かりました、誘導に従い宇宙港に入港いたしましょう」
「了解、これより誘導に従います」
「フフフ、楽しみね~。
どんな宇宙人が出迎えてくれるのか……」
「チヒロ艦長は、見たことなかったのか?」
「ええ、わたくしはこの度の侵攻作戦も、奇襲作戦も関わっていませんからね~」
「そういえば、そうか。
会ったことある連中の話では、私たちと変わらない人間タイプだそうだ」
「少将~、何故教えてしまうのですか~。
わたくし、楽しみにしてましたのに……」
そう言って、チヒロ艦長は落ち込んでしまった。
コトミ少将は、そんな艦長を見て、苦笑いをするしかなった……。
▽ ▽
宇宙戦艦内にある大広間に、今回、生き残っていた『カスミ』の家族である母親と姉が待機していた。
「お母さん、カスミのこと諦められる?」
「アカリ、母親である私が、諦められるわけないでしょ。
生きて……生きていてくれただけでもうれしかったのよ?
どんな姿であろうと、諦めるなんてできないわ……」
「もしかして、お母さん……」
「ええ、あの子の側に残るつもり……」
カスミの母親の、決心は固いようだ……。
カスミの姉である、アカリは、そんな母親を見て少し呆れていた。
コトミ少将に言われた、生存者の容態。
惑星『ローフ』側の生存者の確認に、生きていることだけ伝えてきたため、今、どんな状態なのかが分からない。
そのため、もし重体とかだと、母星に連れて帰ることは困難で、その時はあきらめてほしいと頭を下げてお願いされたのだ。
でも、そうお願いされるのも無理はない。
もし、重体だった場合、私たちの医療技術では治すことはおろか、生存すら危ういとのことだった。
お母さんは、涙をぬぐいながら覚悟しているようだけど、カスミの状態次第では自殺してしまうかもしれない。
喋れる状態ならいいんだけど……。
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