第162話 不毛な会話
惑星『ローフ』近くの宙域に到着すると、スペースデブリが戦闘艦『マーリン』にぶつかり始めた。
シールドのレベルを上げて、スペースデブリに対抗すると通信が入ってきた。
『レオン君、助けに来てくれてありがとう~』
「そりゃ、あんな通信受け取ったら誰でも助けに行くでしょ?」
『そりゃそうね、でも、危機はもう過ぎたから……ね?』
ねっ、て、可愛い顔で言われてもね……。
モニターの後ろで、ケニーが困った顔しているぞ?
「……分かったよ、引き返していいんだよね?」
『うん。あ、後、月の宇宙ステーションが使えなくなっているから、次にここへ来るときは気をつけてね?』
気をつけてって、月の宇宙ステーション………モニターで確認したけど、確かに使い物にならないようだね。
宇宙港の一部が破壊されているし、宇宙船を泊める場所もグシャグシャだ……。
「それで、シャロンはケガないの?」
『あ、オーリー、私は大丈夫よ。ケニーもケガすることなく逃げれたし』
「それにしても、敵の襲撃だって?」
『そうなの!『オスティア星』の宇宙戦艦が攻めてきたのよ、それも150隻も!』
「ひゃ、150隻って、よく無事でいられたわね」
『それは心配してなかったわ、何せ技術力が天と地ほどの差があったもの』
「そんなに差があって、攻めてきたの?」
『それはしょうがないわよ、『オスティア星』はこれまで負けなしで植民地惑星を増やしていたからね~』
「自分たちが負けるとは、思わなかったわけね……」
『上には上がいるって、知らないのかしらね~』
「『あははははっ』」
オーリーとシャロンが、通信モニター越しに話して楽しんでいる。
女性の長話に付き合わないといけないのか……?
僕がうんざりした顔をしていると、隣から小声で話しかけてくるものがいた。
モリーだ。
彼女は、新しく僕に仕えてくれるアンドロイドだ。
『あの、若様、先ほどから『マーリン』の側を通り過ぎる宇宙船を見るのですが、あれは?』
「ん……ああ、あれはスペースデブリを回収している『お掃除宇宙船』だよ」
『『お掃除宇宙船』、ですか?』
「そう、さっきのオーリーとシャロンの話の中で、宇宙戦艦150隻が攻めて来たってのがあっただろう?」
『はい、守備艦隊が撃退したともおっしゃられていましたが』
「その守備艦隊が倒した、『オスティア星』の宇宙戦艦の残骸を片付けているんだよ」
『……なるほど、それで船の前方があんなに大きく口を開いているように見えるのですね……』
モリーが、感心したように、『お掃除宇宙船』の前方は、スペースデブリを広い範囲で吸い込めるように、大きく開いている。
あの中にネットの様なものが何重にもあり、スペースデブリの大きさ別に集めることができるそうだ。
ただ、今回は死体も回収しないといけないんだろうな……。
『でも若旦那、宇宙戦艦というのですから、『オスティア星』の人が乗っていたのでは?』
「いい質問だね、ロビン。
その通り、『オスティア星』の宇宙戦艦には、乗組員がたくさんいたらしい。
だから、宇宙戦艦が一隻沈むだけで、たくさんの人が亡くなったんだろうね……」
『では、その死体もこの宙域に……』
ロビンは、嫌なものでも想像したのだろう、顔が崩れている。
このロビンもモリーと同じアンドロイドだ。
本当なら、モリーと同じようにぼくに仕えてくれるはずだったんだけど、ロビンはオーリーに仕えることになった。
「ロビン、これは戦争だ。
命と命を賭けた戦いだ、だから負ければ死ぬことになる。
『オスティア星』の乗組員たちは、そのことを分かっていて戦ったんだと思うよ。
そして、負けた」
『………』
「そう悲しい顔をするな、おそらく生き残った人もいると思うからさ」
『……生き残った人が?』
ロビンは、外の宙域をモニターで確認する。
だが、この宙域は広い。
生きのびたとして、助かる可能性はどうだろうか……。
「『あははははっ』」
オーリーとシャロンの話はまだ終わってないようだ……。
よくあんなに、話すことがあるよね~。
『ね、ね、若旦那、どうする?』
「ん?どうするって、エリー」
『このまま、この宙域を進んで、シャロン様の宇宙船『エリザベート』に近づくか、それとも反転して引き返すか』
エリーが僕の側によって、耳打ちしてくる。
ロビンはモリーと一緒に、外の宙域を映したモニターを見ているし、オーリーはシャロンと話し込んでいる。
ユリアさんは、アシュリーと一緒にオーリーとシャロンの通信を聞いているみたいだ。
モニターの向こうのケニーも、諦めている顔だね。
「……エリー、『エリザベート』に向けて宇宙船を進めて」
『了解~』
エリーは、苦笑いを浮かべながら了承して、操縦席に座り『マーリン』をゆっくり発進させる。
通信モニター越しじゃなくて、直接会って話をした方がいいだろう。
……本当に、女性の会話は長いね。
▽ ▽
『……ここは……』
私は気が付くと、宇宙空間を漂っているようだった。
ヘルメット越しに見る宇宙は、お世辞にも綺麗とはいいがたかった……。
……あれは、宇宙戦艦の残骸だろうか……。
私が乗っていた船は、どこにあるのか分からない……。
……圧倒的だった。
たった一撃で沈んだ宇宙戦艦もあった。
私は、砲撃種として戦っていたが、相手の宇宙戦艦には傷ひとつつけられなかった。
悔しい……でも、もうどうにもならない。
だって、私の身体はもう動かないみたいだから……。
それに、何か大きな口が近づいている……。
宇宙生物だろうか……宇宙には、不思議な生き物がいるようだ……。
そして、生き残った『オスティア星』の女性乗組員は、『お掃除宇宙船』にのみこまれていった……。
第162話を読んでくれてありがとうございます。
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