第160話 オスティア軍の襲撃
オレオン銀河の端にある惑星『ローフ』の月宇宙港に、『オスティア星』の艦隊が襲撃してきた。
その数150隻。
しかし、惑星『ローフ』は、ロスティック家が用意した惑星。
そう簡単に襲撃して落とせる惑星ではない。こんな時のために、独自の防衛艦隊が控えていたのだ。
月の宇宙港の一部から出撃していく防衛艦隊。
そして、月の宙域で始まる艦隊決戦。
最初は、襲撃に成功した『オスティア星』の艦隊だったが、防衛艦隊が相手にをしだすと兵器の差が出て負け始める。
やはり、約3000年の兵器差は埋めようがない圧倒的な差であった……。
『艦長!7番艦、14番艦轟沈!我が隊は、我が艦だけになりました!!』
『ぐぬぬぬ……、撤退だ!艦を反転させろ!撤退する!』
『了解!』
ブリッジから見える戦闘の光、『オスティア軍』の宇宙戦艦が次々と爆散していくのが見える。
その光景を見ながら、艦長は悔しさに耐えていた。
襲撃はうまくいっていた。
敵の基地と思われる月への襲撃はうまくいっていたのだ。
もう少しで、占領できるはずだった。
そして、目の前に見えている惑星へ……。
だが、現実は違った。
敵の月基地の別の場所から出てきた戦艦に、今ボコボコにやられてしまったのだ。
『くっ、敵と我々の差がこんなに開いているとは……』
『艦長!敵艦二隻、こちらに攻撃を仕掛けています!』
『奴ら、こちらが撤退しているのが分からないのかっ!!』
敵の戦艦に攻撃された!
奴らは、こちらの撤退行動が分からないのか?!
戦場の美学がないのか!
『22区画から火災発生!33から36区画に被弾、消火追いつきません!』
『敵なおも攻撃してきます!防御、間に合いません!』
『中央部に被弾!ダ、ダメだー!!』
艦長は乗組員の叫びを聞き、思わず立ち上がる。
『おのれ、奴……』
艦長が叫ぶ瞬間、足元が光り、その戦艦は爆散した。
戦艦を爆散させた、防御艦隊の戦闘艦は次の戦艦を目指して戦いを続ける。
そして、2時間後、月の防衛艦隊は犠牲を出すことなく襲撃してきた『オスティア軍』の艦隊150隻すべてを撃沈したのだった。
そこに、『オスティア星』の使者が乗った戦艦二隻は、含まれてなかった。
使者の乗った戦艦は、無事、母星へと帰還していったのだ。
のちに母星到着時に、味方戦艦の敗北を知ることとなる。
▽ ▽
「襲撃は阻止できました。
シャロン様、防御艦隊は点検後、このまま宙域の偵察に回します」
「分かったわ。後、周辺の知り合いにも、『オスティア星』のことを知らせるように」
「了解しました」
秘書のアンドロイドは、返事をして部屋を出て行った。
部屋にはシャロンとお付きのケニーだけが残る。
「シャロン様、『オスティア星』とは敵対することになりますか?」
「なるでしょうね……。
でも、私たちから攻めることはしないわよ」
「しかし、それでは……」
「私たちは、銀河のまとめ役。
降りかかる火の粉は払うけど、手を差し伸べて友好を願う者にはその手を握るわ」
無茶なことだと、シャロン自身も理解している。
しかし、敵対し戦って何の意味があるのか。
戦力差は、数字で表せないほど離れている。
実力も、技術力もだ。
それに、地球人類が持つ銀河の数や戦力を考えれば、この出来事は宇宙の端で起きたただの諍いごとでしかない。
中央政府には記憶すらしてもらえないほどの、小さな戦闘なのだ。
「とりあえず、星間軍の駐屯地になっている星には連絡を入れておいて。
『オスティア星』がどんな形で、戦いを挑んでくるか分からないから」
「了解しました。
でも、この戦力差を見せつけられて攻めてきますか?」
「来るわね、仇討の怒りは消えないのよ。
地球人類の歴史でも、しつこいのは分かることじゃない」
「……そうでしたね、私たち地球人類でもそうでした。
すぐに星間軍に連絡を入れておきます」
▽ ▽
宇宙歴4264年3月26日、惑星『ローフ』から二つ離れた惑星の影に、『オスティア軍』の宇宙戦艦12隻が停止していた。
襲撃艦隊150隻とは別の任務で、この場にいるのだ。
言うなれば連絡係、といったところか。
『では、襲撃艦隊は全滅したということで間違いないのか?』
『はい、間違いございません』
通信モニターに映る上官らしき軍人に、この艦の艦長が報告をしていた。
艦長よりもずっと若い、父親とその息子というほど離れている上官への惨敗報告。
艦長の悔しそうな顔とは対照的に、その上官の顔はどこか納得していた。
『やはり戦力の差は埋められるものではないようですよ、少将』
『まあ、宇宙戦艦150隻でどうにかなる相手とは思ってなかったが、この差は想定外だよ』
今まで通信していた上官の横から、これまた若い少将と呼ばれた女性が現れた。
気品あるその容姿は、どこかの貴族のお嬢様といった感じか。
『艦長、其方たちの艦隊に命じる。
その月にある基地を襲撃しなさい。ただし、まともな方法で襲撃しては150隻の艦隊と同じ運命をたどるわよ?
襲撃まで見つからない方法を考えてやること、いいわね?』
『ハハッ!』
艦長は、そのモニター越しの女性に頭を下げて了承する。
しかし、下げた表情は苦虫を噛み潰したようだった。
無茶な命令、しかし軍人である艦長には拒否することはできない。
通信モニターが切れると、側にいた副艦長が艦長に心配そうな表情を見せる。
『艦長……』
『考えるぞ!すぐに他の艦の艦長たち重鎮を呼んでくれ!』
『ハッ!』
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