第154話 撤退
右腕をやられた。
『ジルバ帝国』の砦を襲撃したすぐ後、『飛行戦艦』からの攻撃を受け、俺たちの隊は大ダメージを負ってしまった。
『飛行戦艦』の砲撃が、横から直接放つことができるとは予測できなかった。
上空に浮かび上からの攻撃を主にすることになる『飛行戦艦』は、直接攻撃ではなく放物線を描いて威力を上げて着弾させる方法をとっている。
その方が威力も上がるし、何より狙いが付きやすいらしい。
だが、今回は直接攻撃ときた。
隊長が言っていた、風が味方になるかもしれないというのは、風の影響でこの放物線が風で狂わされるからだろう。
現に、最初の攻撃は放物線攻撃で、着弾地点が大きくそれていた。
だが、それを経験して攻撃の仕方を直接攻撃に変えてきたのだ。
砦襲撃に夢中になっていた俺たちの隊は、『飛行戦艦』からの直接攻撃に対応できず、直撃をくらうことに。
その爆発で、隊がバラバラになってしまった。
俺は右腕をやられ、動けなくなった腕を抱えて砦から離れた位置にある森の中へ退避した。
幸い、敵の砲撃はここまでは狙っていないようだ。
右腕の痛みに耐えながら、これからどうするかを考えていると同じ隊の黒に身を包んだ兵士がおれに近寄ってくる。
「エイデン、隊長を見なかったか?!」
「すまんコナー、腕を負傷して俺一人でここまで逃げて来たんだ」
「そ、そうか……戦闘は難しいみたいだし、後退信号を上げるか?」
「それしかないだろう……」
コナーは俺の賛同に頷き、『魔導銃』の魔導弾丸の源になっている魔石を交換して、砦の空に後退信号弾を打ち上げる。
砦の空に、後退信号弾の青い光が砦全体を5秒ほど照らした。
これで、この信号弾に気が付いたものは、砦から撤退するだろう。
後は、俺たちが無事にここから脱出するだけだ……。
信号弾を打ち上げたコナーは、俺の側に近づくと俺に手を差し出し撤退することを告げた。
俺もそれに頷き、左腕をつかまれてゆっくり静かに後退していく。
この撤退には、近づきつつあった嵐のおかげもあって、追撃は一切なかった。
だが、無事にアジトまで戻ることができたのは、36人いた隊のメンバーのうちわずか6人だったのだ。
その6人の中で無事だった奴は一人もおらず、俺と一緒に後退したコナーでさえも、体のあちこちに打撲と切り傷を負っていたほどだ。
また、帰ってこなかったメンバーには、俺の親友や俺と同じ故郷出身の友人の旦那などがいて、その中には隊長も含まれていた。
▽ ▽
地上に固定して、嵐が過ぎるのを待つ『飛行戦艦6号艦』のブリッジでは、艦長をはじめとしたメンバーが、今も襲撃者についての話し合いをしている。
「ライト消灯!砲身回せ!嵐に注意せよ!」
「了解!嵐に備えます!」
操縦士たちが、戦闘の後片付けをしているさなか、ブリッジの一部では艦長をはじめとした重鎮メンバーが、先ほどの襲撃について話し合っていた。
「砦からの連絡で、襲撃してきた敵のほとんどを倒すことができたようだ」
「襲撃者は、やはり黒い奴らか?」
「はい、全身を黒で包み『魔導銃』や『魔導銃』を改造したものを使っていたそうです。また、今回の襲撃には、今まで使われていなかった手投げ弾が用いられたようです」
「手投げ弾?」
「はい、艦長。何でも手のひらほどのサイズの黒い塊で、魔力を流すとうっすらと赤くなりそれを敵に向けて投げると、時間差で爆発するそうです」
「魔法ではないのか?」
「いえ、違うようです。
砦の兵士の話では、手投げ弾を投げて使っているようでした」
「となると、魔道具、と見るのがいいようですね」
艦長、副艦長、飛行士、戦術士の四人が、ブリッジの作戦テーブルを囲み、話し合っている。
その話し合いを、ブリッジの操縦士たちが聞き耳を立てて聞いているのだ。
襲撃者は今までと同じ黒い奴ら、いつもの兵器に新しい兵器。
艦長と副艦長は襲撃者に注目し、飛行士は『飛行戦艦』のこれからの戦い方を考え、戦術士は新しい兵器に対する対抗策を考える。
話し合いは続き、最後に敵が使った『信号弾』に話が及んだ。
「そういえば、奴らが撤退するときに、砦の上空に何かを打ち込んでいたな」
「艦長、あれは信号弾というものですよ」
「信号弾?どんな使い方をするんだ?」
戦術士は、敵の使った信号弾について艦長に説明する。
「信号弾は、帝国でも開発を急いでいるもので、主に戦場にいる全ての仲間にあらかじめ伝えてあった信号弾の色で、一斉に動かすことができるんですよ」
「ほう」
「赤なら総攻撃、青なら撤退といった具合に。
上空を見て、信号弾の色で作戦の切り替えがすぐにできるため遠距離にいる仲間や、隠密行動中の仲間などにすぐに知らせることができて便利なんですよ」
「それを敵が先に開発して、使用していたと?」
「ええ、信号弾は便利ですからね。
使い道も、戦場から救助、救難などにも使用できますし、何よりあらかじめ決めておいた色を打ち上げることで、今そこで何が起きたのかが分かることです」
「そうです、危険なことなら避難を促せますし、助けてほしい時も救助を要請できますからね」
艦長は、信号弾の実用性に感心し今回の敵の使用した信号弾の色を思い出していた。
「……なるほど、今回の奴らが使用した青い信号弾は撤退、といったところか」
「あれで、砦全体に信号弾の色が伝わりましたから、撤退も早かったようです」
「うちも早く導入を急ぎたいものだな……」
「ところで、襲撃者たちの身元は分かりそうか?」
「ええ、襲撃者の死体から、『ロストール王国』ではないかと……」
「陛下の睨んだとおりか……」
艦長の言葉に、その場にいる全員が息をのむ。
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