第153話 飛行戦艦の弱点
宇宙歴4264年3月18日、『緑の星』にある『ジルバ帝国』の南にある『バンガー王国』との国境に配備した『飛行戦艦6号艦』に念話通信が入った。
「艦長!司令部より念話通信文が入りました!」
「読め!」
「ハッ!南東の方角より嵐が近づいている、直ちに地上に降りて固定せよ!以上です!」
念話伝文を聞くと、艦長はすぐに飛行師とともに地図を広げる。
地図は、飛行戦艦を使って作った、空から見たこの辺りの地図だ。
「南東というと、こちらからか……」
「ならば、この辺りに着陸するのがいいと思われます」
「その訳は?」
「はい、南東からの嵐には、この辺りの木々が盾になりますし、『バンガー王国』側からの砦からは見えにくくなっています。
さらに、近頃こちらの国境近くの砦が襲われているということですから、この場所からならば、砦防衛も可能かと」
「うむ、素晴らしい答えだ。操舵士!北東に見える森の近くに着陸する!」
「了解!」
操舵士は、すぐに舵を回し、飛行戦艦の向きを変えて発進させる。
飛行戦艦は、浮遊魔道具によって浮かべられているので、向きを変えたり動かしたりするのは風の魔道具を使う。
そのため、嵐や台風などの強烈な風には弱いのだ。
普通の風には、バランスを取れる魔道具が設置されているが、強烈なものになると防ぎきれなくなる。
「他の飛行戦艦には、伝文は伝わっているのか?」
「それは、伝わっていると思います」
「艦長!9号艦が向きを変えています!」
操舵士の言葉に、艦長たちが窓の外を見ると『飛行戦艦9号艦』が向きを変えている所だった。
「伝わっているようだな。こちらも嵐が来る前に、着陸を急ぐぞ!」
「「「ハハッ!」」」
▽ ▽
『バンガー王国』の国境近くの森の中。
全身を黒で固めた人たちが、『ジルバ帝国』の砦の様子をうかがっていた。
「隊長、飛行戦艦が高度を下げていきます」
「墜落か?」
「いえ、どうやら着陸するようですね……」
「何かトラブルでも起きたか?」
「……たぶん、嵐が近づいているからでしょうね」
隊長と呼ばれた黒い服の男が空を見上げると、浮かんでいる雲がかなりの速さで流れていた。
さらに南からは黒い雲が近づきつつもある。
「なるほど、飛行戦艦は嵐に弱いのか……」
「浮遊魔道具を使用していますからね、風の影響を受けてしまうんですよ」
「やけに詳しいな」
「この部隊に配属される前は、飛行戦艦を作っていましたから」
「それでか……。しかし、これはチャンスだな」
「襲撃ですか?」
「今日の夜にな。嵐が来る直前になるはずだ」
「『魔導銃』は雨の影響は受けませんからね」
「新型の『魔導銃』もな。それに、もしかしたら風が味方になるかもしれん」
そう言うと、隊長は、他の仲間が待つ場所へと走って行った。
もう一人の男も、周りを見渡し隊長の後を追った。
▽ ▽
その日の夜、『飛行戦艦6号艦』のブリッジでは、夜番の者たちが見張りをしている。
窓から外を見て、何かないか見張っているのだ。
だが、外は雨が弱いながらも横から振り、風が強いことが分かる。
だが、まだ嵐は来ていなかった。
「外は、風が強そうだな……」
「こんな時の襲撃は、やめてほしいよな……」
「まったく………おい、砦からいくつも明かりがついているぞ?」
「えっと………しゅ、襲撃だ!全員起こせ!」
見張りの兵士は、すぐに伝導間の蓋を開けて大声でしゃべる。
「起床!!砦が襲撃に遭っています!全員、起床!!」
それから5分ほどで、ブリッジの入り口が開き人が入ってくる。
そして、その中に艦長もいた。
「砦が襲撃に遭っているのか?!」
「はい!例の連絡のあった黒い奴らだと思われます!」
「砲撃準備!それと、ここからライトを砦に当てろ!」
「例のライトですね?」
「そうだ、夜間用の例のライトだ!この場で試す!」
「了解です!」
例のライト、それは『サーチライト』のことだ。
夜の空から、目標を狙うために開発された魔道具のひとつである。
通常は、夜の空から『サーチライト』をつければいい的になるのだが、この世界では、空を浮かぶ飛行戦艦を攻撃する術をまだ開発できていない。
例のレーザー兵器は、扱いが難しく研究段階といったところで実用的ではないため、現在、飛行戦艦はほぼ無敵に近かった。
飛行戦艦から『サーチライト』が砦に向けて点けられる。
それは、何本も当てられ、砦全体が明るくなるほどだ。
そして、浮かび上がる襲撃中の砦での攻防。
事態は、一刻を示していた。
「砲撃用意!砦の前方に向けて……てっ!」
魔導砲が、一斉に大きな音を出して発射される。
何秒かして、魔導弾が着弾するが砦から大きく離れた場所に着弾してしまった。
「……風で流されている?砲撃を上空ではなく横からに切り替えろ!」
「砲身転回!目標固定!艦長!いつでもどうぞ!」
「よし……てっ!」
再び魔導砲が火を噴く。
大きな音が辺りに響き、それを強風がかき消していく。
今度は数秒も待つことなく、砦の手前に着弾。
狙った場所に着弾したため、強風の影響をあまり受けなかったようだ。
「次、装填!砦、左の池を狙え!」
「砲身転回!目標固定!艦長!」
「よし……てっ!!」
魔導砲が火を噴き、魔導弾が発射される。
夜の闇の中、魔導弾の光が目標に向かって吸い込まれていく。
そして、着弾と同時に爆発をした!
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