第151話 空を見た者
宇宙歴4264年3月10日、『ジルバ帝国』の皇都にある酒場で、ある話題が出ていた。
「本当だって、見えたんだよ」
「でもよぉ~、空にある船ってなんだよ……」
「しょうがねぇだろ?見えているんだからよぉ~」
男は、コップに入った酒を飲みながら同じテーブルに座った男たちに聞かせる。
空を見上げて、見てしまったある光景を。
「本当に、空に船が浮かんでいたのか?」
「ああ、それにお前なら俺の能力が分かっているだろ?」
「…確か『千里眼』だっけ?」
「そう、遠くの獲物が見える俺の能力、『千里眼』!」
そんな話を聞いていた、隣のテーブルの男が話に加わってきた。
「その話、私にも聞かせてもらっていいですか?」
「お、お前さん、俺の話に興味があるのか?」
「ええ、どういう経緯で、空の船を見ることになったのか、知りたくなって…」
「いっぱいおごってくれたら、何でも話しちゃうぜ」
「はい、おごらせてもらいますよ、お仲間の分も」
「おお、そりゃあありがてぇ」
「「おおっ」」
▽ ▽
「それが、この報告書か……」
皇都のお城にある謁見の間、女帝スカーレットの前に跪く観測院の女性が、酒場での話を報告していた。
スカーレットは、報告書に目を通し読んでみる。
「えっと……」
ことの発端は、南側の森で猟師仲間と狩りをしていた時のことだ。
獲物の鳥が木の枝にとまっていたんで、狙いをつけて『魔導銃』を構えたんだが何の拍子か、獲物の鳥が空に逃げちまいやがったんだよ。
それで、この俺の眼で昼間の空を見ないように注意されていたのに見てしまったんだよな。
逃げた鳥を追いかけてな?
幸いお日様は、俺が見上げた空の先には無かったから大事にはならなかった。
ん?お日様を見てはいけない理由?
俺はさぁ、能力もちなんだよ。『千里眼』ていうな?今じゃめずらしいけどよ。
猟師の俺には、勿体ねぇ能力よ。
……って、どこまで話したっけ?
ああ、空を見上げた時な。
で、空を見上げた時、その『千里眼』が働いてよぉ、空の彼方っていうのか?
それが見えてしまったんだよ。
俺も最初は、そんなバカなって思ったさ。
でもよぉ、よっく目を凝らしてみると、見えるんだよ、船がな?
しかも、一隻だけじゃねぇ、何隻も見えるんだよ。
空の上に船なんて、信じられなかったけどよ黒い星だっけ?
動いてない黒い星も見えたしよぉ~、俺たちの住んでいるこの大地の上は、どうなっているんだろうな~
「レイラ、いろいろと指摘したいことが満載の報告書だな?」
「申し訳ございません、手直しをしようにもどこを手直ししたらいいか分からず……」
「いや、民の声を直接聞けて、私はこれで構わんよ」
スカーレットは、人々の声を報告書でよく見ていた。
そのため、その場で聞いてきたような証言が書いてある報告書を読むのが楽しみなのだ。
「それで、空の上に船が浮いているという件だが、確認は行なっているか?」
「はい、現在観測院の何人かを使って報告にあった空を調査しております。
観測院にも、『千里眼』持ちはいますからその者らを使って行っております」
「うむ、何か分かったら報告書で報告するように」
「ハハッ」
「それにしても、能力持ちとは今どき珍しいな……」
「確か、千年ほど前でしたか、能力に関係なく戦えるようになって調べる者がいなくなったのは……」
「ああ、『魔導銃』が世に出でしばらくすると、能力で仕事を分けなくなったんだったな……」
能力持ち、『千里眼』や『鑑定』、他にもあるいろいろな能力を持っていなくても、この『緑の星』では食うに困ることはなくなっていた。
それは『魔導銃』のおかげともいえるし、『魔導銃』のせいでともいえる。
もちろん、一部の職種では能力の有無が関わってくるが、修行を何年かすれば自ずと上達するので、今では能力の有無でその人の実力を測らなくなっていた。
もちろん、特殊能力も存在してはいたが、それが無くてもある程度は修業をして習得できるので重要視しなくなったのだ。
「……まあよかろう、さらに予算を出してやる。
引き続き、空に浮かぶ船などの情報を集めるように」
「畏まりました!」
レイラは、立ち上がりスカーレットに一礼すると謁見の間を後にする。
レイラが出て行った後、謁見の間に入ってきたのは同じ観測院の男ブレイドだ。
「陛下、『黒き流星』に関する報告書を持ってきました」
「うむ、目を通そう」
▽ ▽
その夜、観測院の屋上にある櫓には、明かりも付けずに筒をのぞき込む男女がいた。
木で作られたただの筒をのぞき込み、『千里眼』の能力を使うと遠くまでよく見えたのだ。
猟師が言っていた空を見た方角は南、その南を筒を持った男女三人が見ている。
「……見えるか?あの船」
「ええ、信じられないことですけど、三隻確認できました」
「こっちもだ、確かに、船が浮いているが、信じられんな……」
「自分たちの目で確認しているのに、信じられないなんておかしな話ですよね」
男は、女の感想に苦笑いを浮かべた。
確かに、信じられないが、自分たちの目で確認している。
これを信じないと、自分たちは何を見ているのか……。
そこへ、スカーレットに報告に行ったレイラが、櫓に上がってきた。
「どう?何か見えた?」
「レイラ所長!ええ、見えましたよ、船が三隻。この三人で確認しました」
「どんな船かは分かる?」
「ええ、輪郭は何とか。でも、何故か少し揺れて見えるんですよね……」
「揺れて?」
「揺れてというより、揺らいでといったところでしょうか」
「揺らいでって、陽炎みたいに?」
「ああ、それです。陽炎みたいに見えるんですよ」
レイラは三人の報告を聞いて、興味がわいてくる。
空を見て陽炎とは聞いたことがない。そんな現象が見えるのは、海などで遠くを見た時などか?
暑い日も、そんな現象があったな……。
「引き続き観測してみて。
それと、その見えた船、絵にして報告書に付けて出しておいて」
「了解しました」
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