第148話 見守る者たちの前での開戦 2
大型モニターの左端にある数あるサブモニターの一つに映る、天空要塞を沈めた兵器。
数を確認すると、7機ぐらい用意してあるみたいだ。
「子供推しの貴族側が、よくあんなに用意できたね……」
『確か、制作した国は海の向こうですよね?』
「だから気になるんだよね、入手経路が……」
僕とロージーの会話に、許嫁のオーリーが疑問を持った。
「レオン君、それってどういうことなの?
あの兵器は、『フリューバル王国』が開発した物じゃないの?」
「開発した国は、『フリューバル王国』のある大陸から海を挟んだ東側の大陸の国。
確か、『ニーグホルン国』と『ケブリード国』という国だったかな?」
『はい、その2国が共同で開発したようです。
ただ、空中要塞が落ちた後、その権利と運用をめぐって対立し、今では共同研究どころか国交が断絶となったらしいと』
「何それ……」
「お互いを信用できなかったんですね。
それで、その兵器を持つことで、相手側が優位に立つことを嫌ったと……」
オーリーは呆れて、ユリアさんが事の顛末を理解している。
確かその2国がある大陸では、国の在り方がこっちの大陸とは違うんだよな。
王や皇帝がいて、貴族がいて平民がいてっていう国の在り方じゃなくて、国のリーダーを国民が選んでという、いわゆる民主主義ってやつらしい。
だから、軍隊は一国に帰属するから、貴族が持つことはないし国の意思で戦争とか始められるんだよね。
もちろん、国民が反対すれば、戦争は回避され国のトップ同士の話し合いで解決されるらしいが、時間がかかるだろうね……。
『エネルギー充填を、始めました!』
例の兵器の出自を話していると、子供推しの貴族派の一部が兵器を戦場に向けて撃つ準備を始めた。
威力を押さえたとはいえ、空中要塞を落とした一撃だ。
戦場にどんな影響があるか、分からないな……。
『若!相手側も動き出したよ!』
オリビアが、大型モニターの右端にあるサブモニターに映る森の中に隠してある『飛行戦艦』に動きがある事を教えてくれる。
『飛行戦艦』の砲塔の一つが、上へと角度調整をし始めたのだ。
「……もしかして、子供推しの貴族派の兵器を狙ってる?」
『アシュリー、角度計算をお願い!』
『はい!……間違いありません、例の兵器に向けて撃つようです!』
どっちが早い?!
子供推しの貴族派が持ち出した、兵器の光収縮魔道具によるレーザーか!
それとも、長距離魔導弾か!
『………!!撃った!』
「……同時っ?!」
放たれたレーザーは眩しいまでの光を放ち、それと同時に圧力を周りに与えながら前線へ向かって一直線に凄まじい速さで進んだ。
そして、瞬きをする間に前線へ到達し、敵味方関係なく兵士を蒸発させていく。
着弾した場所の地面は、その威力で抉れ、発射した兵器は、撃ったレーザーの威力の反動で向きを自然と変えていく。
そのため、着弾したレーザーは、左から右へと自身の威力の反動で流れてしまった。
その流れたおかげで、前線に多大な被害をもたらしたのは恐ろしい誤算だろう。
「……あの威力で、60パーセント落ちなの?」
『右端のモニターに映ってる撃った貴族、高笑いしているわよ……』
オーリーとロビンがそれぞれの感想を言う。
何というか、前線は大混乱だな……。
レーザーも左から右へ流れたけど、正確には、着弾した場所から右手前へ流れたという方が正しいか。
そう、被害が多いのが味方という笑えない状況だ。
『着弾っ!』
アシュリーの声で、左端のモニターに注目が集まる。
その直後、高笑いしていた貴族の映る映像で大爆発が起きる。
『飛行戦艦』の砲塔から放たれた長距離魔導弾は、レーザーを撃った兵器にではなく高笑いしていた貴族に着弾したようだ。
そのため、兵器の向いていた方向が変わり、移動用の車輪の片側を壊し動かすことが出来なくなったようだ。
『!今の衝撃で、兵器の充填が始まりました!』
「はっ?!一発かぎりの使い捨てじゃないの?!」
『……改造か、連続使用の開発に成功したか……』
アシュリーの焦った報告を聞き、僕も焦ってしまう。
そして、ロージー、冷静に分析している場合じゃないよ?!
僕たちが手を出すわけにもいかず、どうすればと右往左往していると、右端のサブモニターに動きがあった。
「『飛行戦艦』が再び動きました!」
ユリアさんが教えてくれると、みんながそっちのモニターに注目する。
すると、『飛行戦艦』の砲塔が再び動き出していた。
そして、すぐに発射!
『飛行戦艦』を使って陣地攻撃をしたものの、レーザー兵器の力に驚き、今度はそのレーザー兵器が敵の後方にいる人たちへ向けて発射されそうになっている。
それが自分たちのせいでそうなってしまったことへの、恐怖か罪悪感というところだろう。
だが、『飛行戦艦』の動きは遅すぎた。
そして、長距離魔導弾が着弾するまでの時間も長すぎたのだ。
『レーザー兵器が!』
アシュリーの叫びに、僕たちは左端のサブモニターにくぎ付けとなった。
周りに誰もいない兵器は、ひとりでにエネルギーを充填し発射した。
子供推しの貴族派の作戦会議をおこなっているだろう大型テントのある場所や、負傷しまだ生きている兵士が運ばれる医療テント、食料などがある物資を詰め込んでいたテントなどの、後方で安全な場所にある陣地の中心へ向けて発射される。
それが、どのような被害をもたらすのか……。
その光景がどんなものなのか、僕は初めて経験するかもしれない……。
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