第147話 見守る者たちの前での開戦 1
宇宙歴4264年2月22日、『青い星』の衛星軌道上にある宇宙船『ハルマスティ』のブリッジに、僕をはじめとするみんなが集まっていた。
ロージー、アシュリー、エリー、シンシア、オリビア、マリア、ロビン、モリーのアンドロイド全員。
僕、オーリー、ユリアが一緒に、目の前に展開されている大型モニターを見ている。
「いよいよ、全面対決になるみたいですね……」
「ええ、お嬢様。両軍は同じような戦力ですから、どちらが一方的に勝つことはないでしょう」
そう、モニターに映っているのは、『緑の星』にある『ボスルーガ平原』の様子。
東西に分かれて、それぞれの貴族派が全面対決で決着をつけるようだ。
「ロージー、両陣営の数は分かる?」
『あ、私が』
そう言ってアシュリーが操作盤を操作し、計算を始めてすぐに結果が出る。
『子供を推す貴族派が約3万、公爵を推す貴族派が約5万となっています』
「数の上では、公爵を推す貴族派がリードか……」
戦いは数だよ。とはだれが言った言葉だったかな?
僕もその意見には賛成だけど、魔法がある世界では、それは通用しないように思える。
両陣営の姿を見ても、公爵派の貴族は数合わせって感じだ。
鎧、盾、防具を見ても、公爵派の貴族は、武器にいたるまでケチっているな……。
『若、公爵派の貴族は、集めた人たちをそのまま投入したみたいですね』
『……ほんとだよシンシア、全員が持っている『魔導銃』の形が違う』
「よく見えるなエリー……。
おそらく、武器も防具も、自分で用意して来いってことか……」
あれは肉の盾にして使い潰す気だな……。
公爵派の貴族側に参加した者、されたもの、かわいそうに……。
「ところでシンシア、今日の直美たちの授業はお休みなの?」
『はい、みんな『青い星』の拠点に行っているか、コロニー『楽園』で休日を取っていますよ』
「そうか……」
『若旦那!始まったよ!』
エリーがモニターを指さして、声を上げる。
僕も、みんなもモニターを見ると、東西から兵士たちが一斉にお互いを目指して走りだしていた。
魔導銃を構えながら、全速力で平原を走って行く無数の兵士たち。
射程距離までもうすぐというところで、後方の魔術師の魔法が発動!
両兵士の走る先に土の壁がせりあがった。
両兵士たちは、その壁を盾にして両陣営に向けて魔導銃を撃ち合う。
戦場に響く、銃撃音。
そして、時々聞こえる人の声。
ここに、戦争は始まった。
▽ ▽
戦いが始まって2時間が経過したが、いまだに一進一退の攻防をしている。
武器は大半の兵士が『魔導銃』なのだ。
「ん~、決定力に駆けるんだよね『魔導銃』は……」
『そうですね、ここにバズーカなどが投入されれば、戦況も変わりそうなんですけど』
「オリビア、彼らもバカじゃない、ほらあれ」
僕は、戦場になっている土壁の真ん中から、子供を推す貴族派の陣地にあるものを指さす。
それは、大きな布に隠された大型の武器がいくつか並んでいた。
『若、あれは?』
「おそらく、彼らの決定打になる兵器だろうね……」
『……反対の陣営には、ああいったものはないんですか?』
「……無いみたいです、これは決まりましたか?」
「お嬢様、戦いは終わるまでわかりません。
……後方の平原の端、森になっている場所をよく見てください」
僕たちも、ユリアさんの指示した平原の端の森を見ると、おかしな木々が見える。
明らかに、枝葉の部分だけを大量に覆っている場所があったのだ。
「……あそこ、何か隠しているのかな?」
「はい、あの大きさ、長さを考えるに、もしかしたら『飛行戦艦』ではないかと」
「『飛行戦艦』?」
確かに、『フリューバル王国』にも『飛行戦艦』はあったはずだ。
だとしたら、公爵派の貴族側が手に入れていたというわけか?
……でもなぜ、すぐに戦線投入しないんだろう。
『飛行戦艦』なんてものが現れれば、こんな戦いなんて起こらなかったように思えるけど……。
『若!布がとられたよ!』
子供を推す貴族側の陣地で、布にくるまれた兵器を出す出さないで揉め始めていたようだ。
前線は一進一退で動かなくて、しびれを切らした貴族が兵器の投入を強引に決めたんだな。
『若旦那、あの布に隠されていた兵器は、空中要塞を落とした兵器ですよ』
「はッ?!あの強力な?」
『はい、空中要塞が落とされた映像に残っていましたから……』
ということは、空中要塞を落とした兵器をこんな場所で使おうというのか?
敵味方関係なく、一掃してしまうぞ?!
「……威力は押さえてあるよね?さすがに……」
『詳しくは分かりませんが……アシュリー、分析できますか?』
『調べてみます!』
アシュリーが操作盤を弄り、動かしている。
少し時間がかかったが、それでも20秒ぐらいなものだ。
『分かりました、空中要塞を落とした時の映像から算出したデータと、今の兵器の調べたデータを比較して、約60パーセンと落としてあるようです』
「あの攻撃の60パーセント落ち……」
それでも、かなりの威力になるだろうな。
ひとたび発射すれば、前線は敵味方なく吹き飛び後方の陣地へも影響があるか。
……そういえば。
「確か、空中要塞を落とした時は、一発かぎりの兵器じゃなかったか?」
『ですから、あの数をそろえたのでしょう……』
ロージーの指さす先に、布にくるまれた兵器の姿がいくつか確認できた。
まだ持っていたのか……。
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