第146話 避難民たちの町
宇宙歴4264年2月20日、『緑の星』にある『フリューバル王国』の南に向かって俺たち家族は歩いていた。
妻と娘3人の、合計5人は他の避難してきた人たちと一緒に歩き続ける。
『スプリード王国』との国境近くに、俺たち避難民たち用に町が出来ているそうで、そこへ行くように避難している人たちに農業ギルドの人たちが紹介していた。
「リタ、ニム、ユナ、もうすぐ休息場所につくらしいから、それまで頑張れ。
どうしても歩けないなら、父ちゃんがおんぶしてやるぞ?」
「だいじょうぶー」
「ニム、がんばれるもん」
「父ちゃん、リタはもうお姉ちゃんだから我慢できるよ」
「あなた、みんな頑張れるわよ」
「そうか?……そうみたいだな…」
残念、父ちゃんの力強いとこ見せたかったんだがな……。
娘たちの発言に、周りで一緒に歩いている人たちの小さな笑い声や励ます声が聞こえる。
もうすぐ休憩場所だ、あと何日かかるか分からないが歩かなくては……。
あの星が落ちた日から何日かして、俺たちの村に王が亡くなったと知らせが届いた。
農業ギルドからの知らせだったが、他にも村を回っていたらしく知らせるのが遅れたそうだ。
実をいえば、俺たちの村の近くにも星が落ちたが、被害は無かった。
近くの草原に落ちて、助かったのだ。
だが、薬草や小動物に被害が出た。
今はもう、あの草原で狩りをすることも薬草を取りに行くこともできない。
あの場所は、大きくえぐれて地面がむき出しになってしまったからな。
それからしばらくして、俺たちの村に農業ギルドの職員が来て避難をするように言ってきた。
始めは、なんのためにと思ったが、話を聞いて俺は家族を連れて避難をすることに。
お世話になってる農業ギルドの職員の話では、東の貴族と西の貴族が王の座をかけて戦争を始めたそうだ。
ここもすぐに、戦場となるし男手は兵士として駆り出されるから逃げろという。
それを聞いて、村のみんなで逃げ出したんだ。
逃げている最中に、何人かの若い連中が消えていた。
消えた若者の親が探していたが、避難している村のみんなは、兵士になって一旗揚げようという考えだろうと分かっていた。
消える前日に、話し合っている姿を見た物がいたからだ。
そんなことが、ここまで逃げる間に何度かあった。
何日か南へ逃げていると、他の村や町の人たちの避難民と合流する。
みんなで南にある、避難民のための町を目指そうということになった。
途中、知り合いの農業ギルドの職員がいたので戦争がどうなったか聞いてみたんだが、酷いものだそうだ。
各地で戦争は続いていて、勝敗は一進一退。
どちらがどれだけ勝っているかは、もうわからないそうだ。
とにかく、西の貴族派か東の貴族派かで争い、戦い続けているらしい。
そして、どちらも早期決着をつけたいらしく『ボスルーガ平原』に集結しているそうだ。
『ボスルーガ平原』は、『フリューバル王国』の中央に位置する大平原だ。
昔から、魔法や魔道具などの軍事利用のための実験場として使用されてきた場所。
王族が管理してきた領地の一つで、王国軍などの演習場としても利用されてきた場所である。
また、『飛行戦艦』の試験飛行や兵器試験にも利用され、三カ国共同で造り上げた『飛行戦艦』に多大なる貢献をした場所でもある。
「父ちゃん、父ちゃん!」
娘のリタの呼ぶ声で、思考の世界から現実に帰って来た。
目をぱちくりさせながら、ズボンの腰を引っ張るリタを確認して声をかける。
「んん?どうしたリタ、歩けなくなったからおんぶか?」
「違うよ父ちゃん、あれだよ、あれ!」
リタの指さす方向を向くと、大きな町の塀が見えてきた。
俺たちが歩いている列の先が、その塀の下にある大きな入り口まで通じている。
どうやら、目的の町が見えてきたようだ。
「あれは、目的の町、みたいだな……」
「あれがそうなの?」
「そうみたいだぞ、リタ。ほら、みんな、あの町へ向かっているだろう?」
「……うん、確かにそうみたい」
その時、俺たち家族の横を町とは反対側に歩いて行く人を見かけた。
「あのすんません…」
「はい?」
「あの町が、避難民の町なんですか?」
「ええ、あの町が避難民の町ですよ。
そして、門を通過すれば隣国『スプリード王国』ということです」
避難民の町は国境をまたいで存在しているのか……。
でも、こんなにたくさんの人を受け入れてくれるのだろうか?
俺が町へと続く列の前後を確認するように見ると、声をかけた人が笑顔で答えてくれる。
「だいじょうぶですよ、門をくぐってみれば避難民全員を受け入れてくれる町になっていますから」
「でも、この人数ですよ?」
「ええ、大丈夫です。
それよりも、町に入ったらどんな仕事をするのかを考えておいた方がいいですよ?登録するときに聞かれますから」
登録?町に入って、何を登録するんだ?
俺はその人に、詳しく質問して聞いていると周りに並んでいる人たちもこちらを見ていた。
何でも、その町では避難してきた人たち全員を各ギルドに登録させて身分証を作るそうだ。
そして、家族ごとに家を与えられ職ごとに住む場所が与えられる。
俺は農業をしてたから、家と畑を与えられて住むことができるみたいだ。
税金は無しで、毎年一定の農作物をギルドに納めればいいだけとか。
戦争が終わって国へ、住んでいた村へ帰るかは自由だそうで、そのままこの町に住んでもいいとか。
正式に町に住むことになれば、国に税金を納めることになるそうだが、それは戦争が終わってからということらしい。
嘘のような好待遇だが、信じていいのか?
「なあ、そんな好待遇、本当か?」
俺の前に並んでいるおっさんが、説明してくれた人に聞いてくる。
確かに俺も、素直に信じられんが……。
「ええ、本当です。何せ、あの町は『スプリード王国』の女王様が個人で出したお金で造った町ですからね。
女王様の意見が採用されて、成り立っているんですよ」
女王様、個人のお金で町を造ったのか……。
何ともすごい女王様だ……。
「女王様、お金持ち~」
「おかねもち~」
俺の両側で、リタとニムが喜んでいる。
何か感じるものがあったんだろう……それがお金とはいえ……。
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