第144話 風が吹けば桶屋が儲かる
宇宙歴4264年1月11日、流れ星の落ちた日から二週間以上が経過した今日、観測院から重大なことが報告された。
この報告には、宰相のギャヴィンも驚き、すぐに女帝スカーレットのもとを訪れたのだ。
「陛下、観測院からの報告はお読みになられましたか?」
謁見の間には、女帝スカーレットをはじめ、各大臣に何人かの貴族も呼ばれている。
また、帝国軍の関係者も何人かいることから、報告書を読んでの話し合いか?と宰相ギャヴィンは予想した。
「……ああ、報告書なら見た。今回皆を呼んだのはそのことについてだ」
やはりそうか、と宰相は思った。
流れ星が落ちた日から、帝国内の復興に時間を取られたがようやく目どがたち、平和な日常に戻れるかと思った矢先、事は起きた。
「北の『フリューバル王国』で内戦とはな……。
観測院の報告では、王都の城を含む貴族区画の一部が吹き飛んだそうだな?」
「はい、それで国王オーウェン・フリューバルは死亡。
王妃を含む王子、王女も死亡したと、ですが、妊娠が分かり実家の領地に帰っていた妾は無事で、その子供を新しい王にするように貴族たちに、妾の親の貴族がはたらきかけているとか……」
「新しい王にねぇ……。その王とやらは、まだ生まれてもないのだろう?」
「はい、私が聞いた情報では、王都では無事だった公爵家より王を選出したいと」
「フッ、クリストファー大臣の情報元を知りたいところだが、ま、普通は公爵家からということになるよな……」
「簒奪、でしょうか?」
「そこは分からんが、『フリューバル王国』はそれで貴族が二分され、今や内戦状態。さらに、中央の『スプリード王国』も南の『バンガー王国』もかなりの被害状況らしいな」
「はい、被害のあった各町や村へ軍を派遣させるほどだとか……」
「ん~、帝国軍団長のカルロスとノーラン!」
「「ハッ!」」
「カルロス率いる『第二軍』とノーラン率いる『第六軍』は、準備を整えて北の『フリューバル王国』との国境で警戒をせよ!」
「「ハハッ!」」
女帝スカーレットに命令され、カルロスとノーランは謁見の間を後にした。
『フリューバル王国』の内戦がこちらに飛び火しないとも言えないので、用心のための出兵なのだろう。
「ギャヴィン、飛行戦艦は復興に役立ったか?」
「はい、陛下の英断だったと、帝国の民ともども感謝しております」
「世辞はいい、今何隻の飛行戦艦が完成している?」
「現在25隻の飛行戦艦が完成しており、各地へは10隻の飛行戦艦を派遣しております」
「ふむ、10隻か………ならば、その10隻は皇都に呼び戻せ。
完全武装の飛行戦艦2隻を、カルロス、ノーラン両名の率いる軍に一隻ずつつけてやれ。両名ともに、有効利用してくれるだろう」
「ハハッ」
宰相ギャヴィンは、女帝に一礼すると謁見の間を後にした。
飛行戦艦の管理運用は、宰相であるギャヴィンに一任されていたからだ。
これからすぐに、各地に飛ばした飛行戦艦を呼び戻し、それとは別に完全武装させた飛行戦艦を2隻用意しなくては……。
流れ星が落ちた日より、隣国の動きが読めなくなった。
もはや何が起きてもおかしくはない。
そのために、女帝スカーレットは備えようというのだろう。
帝国のために動く、ただそのためだけに……。
▽ ▽
『青い星』の衛星軌道上の宇宙船『ハルマスティ』のブリッジには、僕の他にロージーとアシュリーの二人が『緑の星』の現状を報告していた。
『今回の流星での被害ですが、『青い星』では町や村への被害はありませんでした。
大半が海へと落ちたためです。
ですが、『緑の星』ではひどい状況です。
町や村、合わせて74か所で被害があったようです。
特に国の中心の都市に落ちたものが、7つほどあり、中には王を失った国もあったようです』
「う~ん、もし僕たちが手を出さなかった場合、両惑星はどうなったの?」
『両惑星ともに、甚大な被害が出ていたと思われます』
『私がシミュレーションした結果では、『青い星』では今回の落下地点と同じ海に落ちると予測されますが、それでも、1年ぐらいの間空を雲が蔽い日が遮られることになったであろうと……。
また、『緑の星』はさらにひどく、大陸一つ分の種が絶滅していたものと予測できました』
「アシュリーのシミュレーション結果を考えると、ロージーの被害報告は、しょうがないと思うしかないのかな……」
複雑な気分だな。
小惑星による被害がそうとうなんだけど、僕たちが手を出さなかったらさらにとんでもない被害が出ていたなんて。
僕たちの行動を正当化するわけじゃないけど、正解はどうすれば良かったんだろう……。
『若旦那、それと、今回の小惑星がこちらに流れてきた原因が分かりました』
「確か、アステロイドベルトから流れてきたんだよね?」
『はい、そのきっかけとなった小惑星は、第8惑星にのみこまれて消滅しましたが、どこから流れて来たかが分かったのです』
「どこから流れてきたの?」
『アシュリー、シミュレーション結果を出して』
『はい、ロージーと調べました結果………。
ここから銀河系の中心へ向かって210光年先にあった、恒星を中心とした太陽系の物であると分かりました。
現在その恒星は、超新星爆発により太陽系そのものが無くなっていますが、その爆発で飛ばされた小惑星だと分かりました』
「………何というか、宇宙は広いね~」
僕は、この報告を聞いてこんなことしか言えなかった。
210光年先で起きた超新星爆発が、僕の管理する星に影響を与えるものなのか?
第144話を読んでくれてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




