第143話 星が落ちた次の日
宇宙歴4263年12月28日、『ジルバ帝国』皇都ラオールにある城の廊下を宰相ギャヴィンは走っていた。
この皇帝がいる城にも、流れ星の直撃を受け建物の一部が吹き飛んでいた。
「くっ、この城にまで流れ星の被害を受けるとは……」
謁見の間にいるであろう、女帝スカーレットの安否が心配なのだ。
今、スカーレット様に何かあれば押さえつけていた貴族たちが騒ぎかねないからだ。
先代皇帝死後、今のスカーレット様に決まるまでいろいろと揉めたいきさつがある。
ここで、スカーレット様に何かあれば……。
そして、謁見の間の扉を乱暴に開け、中に飛び込む宰相ギャヴィン。
飛び込んだ謁見の間には、玉座に座るスカーレット様。
そして、5人の大臣がスカーレットの前に跪き、控えていた。
だが、大きな音をたてて開けた扉に驚いたのか、大臣たちがこちらを見ている。
「遅いぞ、ギャヴィン!」
「も、申し訳ありません。城の一部が落ちてきた星に破壊されたと……」
「構うな、後宮との廊下に落ちただけだ!
元々使っていない後宮だ、今は民たちの支援が急務である!」
「「「ハハッ!」」」
女帝スカーレットは、大臣たちからの報告を聞き、今後どうするかを話し合っていたのだ。
城に落ちた流れ星を後回しにしても、帝国の民たちへの支援を優先するように命令する。
「ギャヴィン、町や村への移動は『飛行戦艦』を使え!
完成しているものが何隻があるだろう、飛行戦艦を使えば早く支援物資などを届けることが出来であろう」
「し、しかし、『飛行戦艦』は秘匿兵器です。今人々の目にさらしてしまうのは……」
「構わん!緊急事態だ、急ぎ飛行戦艦を出し帝国領内の民を助けるのだ!」
「……わ、分かりました、すぐにあたらせます」
「他の大臣たちは、支援物資の調達を急げ!流れ星の被害が少なかったところから、被害が酷い所への支援をするように!」
「「「ハハッ!」」」
スカーレットが宣言すると、大臣たちは立ち上がり謁見の間を出て行く。
宰相ギャヴィンも、一緒に出て行くことに。
「ギャヴィン殿、流れ星の被害に関しては今、各町から上がってきているところだ。
すぐにまとめて、被害が酷い所を割り出そう」
「ありがたい、私は、すぐに飛行戦艦の用意をさせよう。
今出せる飛行戦艦は10隻しかないが、何とかなるだろう……」
廊下を歩きながら、各大臣と話し合いをおこなっていく。
細かい調整は後にしても、今は皇帝の命令通り素早く支援を行うことだ。
「そういえば、今回初めて観測院が役に立ったと話題になっていましたな」
「観測院か……」
先代皇帝の肝いりで作った観測院。戦場などで敵の動きなどを監視する者たちの組織である。
戦場以外でも、敵地へと進入し情報を手に入れてくることを仕事にしている。
しかし、今の観測院は貴族の次男三男が主で、仕事をしているとは言えなかった。
だが、今回は流れ星の観測から被害を受けた町や村を調べて報告していた。
ただ、貴族の次男や三男が仕事をしているわけではなく、その下の民間から上がってきた者たちが率先して動いていたのだ。
そのことを知っている宰相としては、すぐにでも貴族を排除したがっていた。
「ギャヴィン殿、とにかく観測院からの報告で支援物資を揃えますので飛行戦艦でのことはお任せしますぞ」
「ああ、では、また後でな……」
そこへ、観測院の職員が声をかけてくる。
「アイザック大臣、今よろしいですか?」
「……観測院の者か?」
大臣は、男の胸についている観測院のバッジを見て尋ねる。
「はい、急いであげてほしいと仰っていた被害を受けた町や村の名前です。
全部で15の町と10の村が被害を受けたようです。
酷い所では、落ちてきた流れ星の威力で町の一部が更地になったとか……」
「それはひどいな……」
「う~む、こうなると人手も必要になるな……」
「そこは、町にあるギルドが率先して仕事を請け負っているとのことです」
アイザック大臣とギャヴィン宰相が見ている資料には、特に王国との国境付近が酷い状況にある事が記されていた。
国境から離れるほど、被害も軽微になるようだ。
「支援物資はポーションなどの薬から、日々の暮らしに必要なものを出した方がいいか……」
「こちらは、軍から人手を出そう。飛行戦艦ならいっぺんに運ぶことができるだろう」
観測院の職員は、大臣と宰相の会話を聞きながら迅速に当たる帝国の上層部に好感を抱いた。
いつもは、怠け者の上司たちを見ていたので、貴族に対して期待してなかったのだ。
この人たちが治める帝国ならば、期待できそうだと考え方を改めるのだった。
▽ ▽
「ジャック!こっちだ!」
『スプリード王国』の国境の砦から、流れ星の被害を調べるために班を作って移動しているジャックは、ある町へと到着した。
そこは、外壁が大きく崩れていて、流れ星が当たった後だろうと予測する。
魔物被害から守るための町の外壁は、高さ6メートルはある。
それが、横幅10メートルぐらいの間が完全に崩れ落ちていた。
しかも、上からではなく斜め上から落ちたのだろう、外壁を崩し町の中の建物も何軒か崩れていた。
「……これはひどいな…」
「ジャック!感想言ってないで救助を優先するぞ!」
「はいっ!」
崩れた外壁を通り、町の中へ。
そして、完全に崩れている家のがれきをどかしながら、生存者を探していく。
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