第140話 停戦協定
『緑の星』の衛星軌道上に、宇宙ステーションが出来てからは僕たちが特にすることはなかった。
各国の動きなどは、ルルさんやロロさんが監視しているし、監視衛星を使って僕も『青い星』の衛星軌道上から分かるようになっていたしね。
だから、ここのところは、許嫁のオーリーたちが魔法のこととか、『青い星』に降りてみたいとかいろいろ経験させていた。
また、僕の許嫁に関してはみんな驚いてはいたが、理由を聞くと納得していたようだ。
そんな平和な時間が半年ほど過ぎると、『緑の星』で異変が起きた。
▽ ▽
宇宙歴4263年12月2日、『ジルバ帝国』の西の国境沿いに、20隻の飛行戦艦が浮かんでいた。
銀色の船体で、下からの攻撃を主に防御するためなのか船体の下方部に盾を装備している。
また、船体の左右の側面には『ジルバ帝国』の紋章が描かれており、帝国の飛行戦艦であることが分かるようになっていた。
飛行戦艦の兵器は、戦艦らしく砲塔が何本も突き出ており下方攻撃は勿論のこと、同飛行戦艦との戦いも視野に入れているようだ。
『スプリード王国』側の一兵士であるジャックは、呆然と空を見上げていた。
何日か前から、帝国が攻めてくるのではという噂があった。
その噂を信じてではないが、この近くにある砦に国境警備の要請が入る。俺たちは、その要請を受けて今朝、国境警備のためにこの場に来たのだが、上空にあんなものが浮かんでいるとはだれが予想できただろう。
「……おい、あれって『飛行戦艦』じゃないのか?」
「あ、ああ、うちでも先週完成してお披露目されたばかりのはずだ」
飛行戦艦。『スプリード王国』『バンガー王国』『フリューバル王国』の三か国が共同で開発し、対帝国用に先週完成させたと発表があった後、その船体をお披露目された。
そして、量産化の発表もされ、順次国境などに配備される予定だった。
特に、軍への配備は最優先でおこなわれるはずが……。
「ってことは、帝国に出し抜かれたってことか!」
これはまずい、こちらには対飛行戦艦用の兵器など用意されていない。
それにうちの飛行戦艦も、今は王都に停泊しているはず。この国境までこれたとしても、帝国の飛行戦艦と渡り合えるかどうか……。
「おいっ!おまえたちっ!ここは撤退する!すぐに荷物をまとめて後方へ下がれっ!」
「「「は、はいっ!」」」
こうして俺たちは、荷物をまとめて後方にある砦まで撤退を開始、帝国との国境戦は砦の辺りまで下がることになった。
その距離約6キロ。
砦と国境の間に村や町などはなく、人々の避難は必要なかったが、帝国に対する王国は帝国との戦争を一から考え直さなくてはいけなくなった。
その後、帝国との国境線を下げた後、一年間という限定の停戦協定が結ばれることになった。
▽ ▽
『スプリード王国』の王都にある城の女王の私室では、怒り狂ったリミニー女王が辺りかまわず当たり散らしていた。
この湧き上がる怒りと悔しさを、どう納めればいいのか分からなかったためだ。
一時間ほど暴れると、服を着なおし私室を出る。
部屋の外で待機していた10人のメイドたちに後を任せて、謁見の間へと足を運んだ。
謁見の間には、宰相をはじめ各大臣が揃っており今後のことを話し合う予定だ。
一段高くなった玉座に、リミニー女王が座ると、すぐに頭を下げた宰相たち大臣が頭を上げ、代表して宰相がしゃべり始める。
「陛下、帝国との1年間限定の休戦協定が結ばれました。
国境線は少し下がりましたが、この間にこちらも戦力を整える予定でございます」
「……大臣、こちらの飛行戦艦の量産化計画を見直せ!
帝国の飛行戦艦は、対飛行戦艦をも見据えて設計されていたそうだな」
「はい、帝国の飛行戦艦を目撃した者がそう証言しております」
「ならば、こちらも飛行戦艦との戦闘を見据えて設計しなおすのだ。
そのうえで量産化計画を推し進めるように。
それと、対飛行戦艦用の地上兵器の開発も急がせろ!」
「ハハッ!」
そして、おもむろにリミニー女王は立ち上がると、謁見の間にいる全ての人に演説をする。
「よいか!この国には魔獣もいる、その対処もしなければならん。
そして、飛行戦艦は対帝国用のためだけに開発されたものではない!
この停戦の一年の間に、数を増やし、魔獣対策や帝国との戦争のために役立てるのだ!
飛行戦艦の需要は王国にとっていいきっかけになるはずだ。
すぐに、開発に取り掛かるように!
それと、資金がかかりすぎて国を傾かせるなよ!」
「「「ハハッ!」」」
少し笑いが伴ったが、この場にいる全員が頭を下げて女王の命に従う。
これから、この王国は戦争の準備にかかるのだろう。
一年後の本格的な戦争へ向けて………。
▽ ▽
「クックックッ……どうじゃ?効果はあったであろう?ギャヴィン」
妖艶な笑みを浮かべて、玉座に座る女帝スカーレットは、跪く宰相ギャヴィンに語り掛けた。
「はっ、陛下がおっしゃっていた『張りぼての飛行戦艦を用意しろ』とは、この効果を期待しての発言だったのですね」
「期待してではない、予想して、だ。
連中も飛行戦艦を造っているのは分かっていたからな、飛行戦艦の力が分かっているなら姿を見せるだけで引くだろうとは予想していた。
それに、よかったではないか。
飛行戦艦の開発が遅れていたのであろう?報告は、こちらにも届いていたぞ」
ギャヴィンは、ますます頭を下げている。
「申し訳ありません……」
「よい、気にするな。飛行戦艦の完成を完璧にするためだったのであろう?
私の性格を分かっていてのことなのだ、責めることはせん。
だから、完ぺきを目指せ!そして、西の連中が驚くような飛行戦艦を期待しているぞ?」
「ハッ!」
こうして、帝国の飛行戦艦も真の完成へと動いていく。
一年後の戦争で、どの国が生き残るのか……。
その答えを、誰も予想することはできなかった……。
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