第138話 戦争に備えて
宇宙歴4263年5月23日、『青い星』の衛星軌道上にある宇宙船『ハルマスティ』のブリッジでは、レオンが頭を下げて謝罪していた。
「帰りが遅れて、ごめんなさい!」
レオンの後ろに控えている許嫁のオーリーや、侍女のユリアさんは苦笑いだ。
また、アンドロイドのロビンとモリーは、先輩アンドロイドであるアシュリーたちと何やら報告会みたいなものをしている。
どうやら、帰りが遅くなった間のことを知りたかったみたいだ。
『若旦那?帰りが遅れるときは、必ず連絡をしてくださいね?』
ロージーが、腕を組みながら優しく怒っている。
これは呆れているのと静かな怒りが混ざった時のモノ、しばらくこの調子が続きそうで怖い……。
「まあまあ、レオン君も反省しているようだし、ね?」
『はぁ、いつまでもこのことで怒っていても始まりませんか……。
若旦那、いいですね?次からはちゃんと連絡、入れてくださいね?』
「はい!必ずや……」
そう言うと、ロージーはため息を吐いて、今度は後ろに控えていたオーリーを見る。
オーリーは笑顔で、自己紹介を始めた。
「初めまして、この度レオン君の許嫁になりましたオーリー・スエル・マーティンです。これから、よろしくお願いします」
「私は、オーリー様のお付きをしていますユリア・バートンです。
これから、よろしくお願いします」
『ご丁寧に、私はロージーです。若旦那に仕えるアンドロイドです。こちらこそよろしくお願いします』
ロージーの自己紹介の後に、ブリッジにいた残りのアンドロイド、エリー、アシュリー、シンシア、オリビア、マリア、ロビン、モリー、の自己紹介が続いた。
さらに、レオンが星の管理人をしている『青い星』の説明がされると、オーリーとユリアは目を輝かせていろいろ質問をしていた。
何でも、星の管理人になれる人は少なくレア人物だったようでその仕事とかが気になっていたそうだ。
……仕事といっても、報告書を見るぐらいしかないんだけどね。
ロージーたちから、星の管理人のことや『青い星』について説明されているオーリーたちをそのままにして、僕は艦長室へ移動した。
艦長室に入り、溜まっている報告書を片付け始める。
うんざりする作業だが、溜めた僕が悪いのだからと自分を戒めながら報告書に目を通していく……。
▽ ▽
夕食を食べ終えて、再び報告書をと艦長室に戻ってみると、『緑の星』にいるはずのルルとロロが訪ねて来ていた。
「ルルさんにロロさん、どうしたんです?こんなに夜遅く」
「……宇宙だと、今が夜なのか朝なのか分からないわね」
「そんなことより、『緑の星』で飛行戦艦が完成した」
ついに、完成したか……。
空中要塞が落とされてから、いつかはと思っていたが一年経たずに完成させるとは、さすがにその辺りの魔道具製作には他国に一律の長があるようだ。
「飛行戦艦は、どのくらい製作されたのです?」
「私たちが確認した数は一隻だけ。でも、設計図は出来あがっているし浮遊魔道具は、西の王国がサルベージしているから、すぐに飛行戦艦は数が出てくると思う」
「ええ、一年以内には、かなりの数が大空を我が物顔で飛んでいるでしょうね」
そうなれば、別大陸への侵攻もあるだろう。
飛行魔道具もこれから、解析、生産が始まるだろうし……。
そして、戦争……となれば、僕の前世でもあった難民問題が出てくるはずだ。
「う~ん、これはコロニー建設を考えなければいけなくなりそうですね……」
「? 何故コロニー建設を?」
「難民ですよ、難民。今度はどこかに人々が避難するような戦争にはならないでしょ?
なにせ、空から攻撃ができるんですから。
そうなれば、犠牲になるのは民間人ってことになります」
「……そうだった、大昔の戦争がそうだった」
「すっかり忘れていたわね……」
まあ、無理もない。
民間人が犠牲になる戦争なんて、宇宙に出てからはほとんどないからな。
星の中での戦争なら、発生するけど宇宙では『シールド』のおかげで民間人が傷つくような戦争はない。
「コロニーを造って、そこに避難民を一時的に保護する。そのくらいしか思いつかないな……」
「私たちは、宇宙船『クロウディア』のシールドを島全体に展開して守ろうかと考えていたけど」
「一時しのぎにしか、ならないわね……」
三人であれこれ思案していると、ロージーたちが部屋に入ってきた。
『何やら、難しい顔をしていますね?』
「ロージーとエリーにアシュリー、報告書の手伝いに来てくれたの?」
『いいえ、『緑の星』についての報告があったんですが、どうやら知られたみたいですね』
「ああ、ルルさんとロロさんが知らせてくれたよ」
『それで、どうしますか?』
僕とルルさんとロロさんは、お互いを見ると困った顔になり…。
「当面は何もできない、かな。
とりあえず、『緑の星』の衛星軌道上に宇宙ステーションの建設を始める予定だ」
『宇宙ステーション、ですか?』
「ああ、三人で話し合ったんだが、島の衛星軌道上にステーションを造って、いざという時の避難場所にしようと……」
『それは、根本の解決にはなりませんよ?』
「そうなんだけどね……。
今は、来る戦争にどう備えるかを考えるとこれぐらいしか思いつかないよ」
こちらから、戦いを始めるわけにはいかない。
飛行戦艦を、今どうこうするのは得策ではない。
そんなことを考えていると、守りをどうとか非難をどうするとかしか思い浮かばないんだよね……。
さて、これからどうしたものか……。
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