第137話 飛行戦艦の情報
宇宙歴4263年5月23日、『緑の星』にある『スプリード王国』の王都のお城にある執務室に、女王リミニー陛下の懐刀であるグレーマンは、ある報告を受けていた。
「そ、それは事実なのだな!確認はとったのか?!」
「はい!間違いありません!」
その報告は、グレーマンにとって衝撃だった。
いや、この世界にとっても衝撃の報告になるだろう。今から、女王陛下にどう報告するか頭を悩ませることになる。
「……そうか、すぐに『ロストール王国』へ使者を出せ!現物を、それが無理なら設計図を手に入れるよう交渉するのだ!」
「ハッ!了解しました!」
そう返事をすると、すぐに部屋を飛び出していった兵士。
執務室には、あまりの衝撃に体を震わせるグレーマン、一人が残される。
「ついに、ついに完成させたのか………飛行戦艦を…」
飛行戦艦、それは天空要塞に使われていた浮遊魔道具を利用した空を飛ぶ戦える船だ。
浮遊魔道具の実物や設計図が、天空要塞から持ち出された時から、各国で研究されていた兵器の一つだ。
これがあれば、空から敵を攻撃できるだけではなくて、直接敵の首都を攻撃することもできる。
そう、戦争を早期に終わらせることもできるのだ。
無論、これは隣国『ロストール王国』から各国へもたらされた情報で、現物の浮遊魔道具は確認していない。
そのため、眉唾物と信じていない者たちが大半だったが、天空要塞は実際空に浮かんでいたという事実があり、頭ごなしに否定はできなかった。
そして、今回の情報である。
グレーマンは、報告書を何度も読み返しこの国の空に、この国専用の飛行戦艦が飛ぶ日を想像してしまうのだった……。
▽ ▽
『緑の星』のある島には、落とされた天空要塞のあった浮遊島に暮らしていた生き残りが暮らしていた。
天空要塞のあったころのような戦力はなく、宇宙人のルルとロロが持つ宇宙船『クロウディア』が島を守護していた。
「アリシア様、今日も島の周りは平和そのものです」
ルルが、この島の主であるアリシアに報告すると、ロロも報告をする。
「先月の漁船は、魚を追ってこの島の近くに来ていただけのようですね。
あれからは、この島の周りに島の船以外の船は見かけませんでした」
島にある一番大きな屋敷の執務室に、この島の主であるアリシア様がルルとロロから報告を受けていた。
天空要塞が落ちてから、生き残りだけでこの島に住み始めて大分経つが、いまだ後遺症は続いていた。
レオン君たちの協力のもと、島に町を造り港を造り暮らし始めるも、戦争のことでいまだ怯える人たちは多い。
その日、その日を暮らすだけでも大変なのだ。
アリシアは、何とか生き残った人々を助けるためルルとロロに協力してもらい、宇宙にいるレオン君に協力してもらって島の生活を維持していた。
「では、安全宣言を出しましょう。
これで、安心して島民が漁業をすることができるでしょう」
アリシアの安全宣言で、再び人々は漁業ができるようになる。そうなれば、美味しい魚を取って食べられるようになるのだ。
少しでも、この島の人々の心が癒されればいいと、願うばかりだ……。
ルルとロロは、執務室を出て屋敷の廊下を歩いていた。
アリシア様には、もう一つ報告しなければならないことがあったのだが、今は報告を控えることにしたのだ。
「ルル、報告しなくてよかったの?」
「アリシア様は、人々のために心を砕きすぎている。今、浮遊戦艦のことを報告すると倒れてもおかしくはない……」
生き残りの人々のために、今も率先して何かをしようとするアリシア様を、ルルとロロは気遣ったのだ。
再び、空中要塞に使われていた魔道具で、人々が苦しむことになる。
そんなことを想像したアリシア様がどうなるか、いやでもわかってしまう。
「このことは、私たちがしっかり対処すれば問題ないはず」
「いざという時は、レオン君を使っても…ですね」
ルルとロロはお互いを見て頷きあうと、屋敷を出て自分たちの家に向かった。
あれから約一年が経過して、島はルルやロロ、それにレオン君たちの協力のもと生き残りの人々が生活できる街が完成していた。
ギルドも稼働しており、冒険者ギルドを中心に島の外のギルドとは隔離した独自の運営をしていた。
また、魔物討伐の武器をはじめ、いろいろなことがこの島だけで賄えるようになっていたのだ。
これも、宇宙にいるレオン君と協力できたルルとロロの存在が大きい。
ここまでお膳立てしても、この島の人々の中には心に病を抱えた人が多かった。
そして、それを癒すことができるものが少なかったもの原因だろう。
医者を外から招くわけにもいかず、心の病はなかなか癒すことが出来ず、今に至るというわけだ。
目下、この島の一番の課題は、心の病をいやすことだろう。
そんな島にもたらされた、他の国の漁船の目撃。
アリシア様が、神経質に漁業を停止させてルルとロロに調べさせる理由は島民のためである。
アリシア様の安全宣言とともに再び再開される漁業。
しかし、人々の心の傷をどうにか解決しなければ、この先何かあるたびにこんな事態になりかねない。
頭の痛い問題である……。
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