第133話 訪ねてきた許嫁
「レオンちゃーーん!」
軌道エレベーターを降り、地上のエレベーター駅から出て行くと僕を見つけた母さんが抱き着いてきた。
正面から思いっきり抱き着かれ、ギュッとしてくる。
もちろん、周りにいる人も見てくるし、僕と同じように軌道エレベーターに乗っていた人も見ている。
「か、母さん、こういうのは、家についてから、で……」
「ダメ、ダメ、お母さん、寂しかったんだからね~」
「……」
僕が何を言っても、母さんは僕を放してくれなかった。
しょうがないので、このまま抱き着かれたまま移動していった。
ハンナ、そこで呆れてないで助けてください!
エリーは、笑顔で微笑ましい光景を見ているような顔をしていた。
このアンドロイド二人は、全然助けてくれない……。
大体、何故母さんとハンナだけが迎えに来たのかな?
▽ ▽
軌道エレベーター駅から、自動タクシーに乗って30分で我が家にたどり着く。
この都市では、自分の車などの移動手段を持ってはいけないということになっていて、もっぱら買い物や移動は徒歩かこの自動タクシーということになる。
自動タクシーも無料なんだから、使わない手はないよね~。
「お帰り、レオン。待ってたぞ~」
「あうあう~」
家に着くと、玄関に父さんと父さんに抱えられた妹のルーシーが迎えてくれる。
……みんなが揃うと、帰ってきたなって実感するよね。
僕の家は、都心から少し郊外にある。
まあ、軌道エレベーター自体が都心から離れて設置されているのだから、そこから30分の距離なんて、まだまだ郊外ということだ。
うちに住む人間は、僕の家族に加えてアンドロイドが3人。
我が家では、それぞれ一人の人間にアンドロイドを一人つけるということにしている。
それは、守護のためであり教育係であり世話係ということだ。
それに、同じように成長するため、いい相談役にもなるしね。
父さんのアンドロイドは、ケニーという秘書のような女性型。
母さんのアンドロイドは、ハンナという家政婦みたいな女性型。
僕には、エリーというお姉さんぶるアンドロイドがついている。
ルーシーには、三歳の誕生日にアンドロイドをつける予定だそうだ。
今度も女性型になるのだろう。
あと、僕の家は基本留守にすることが多い。
なぜなら、家族みんな、宇宙で仕事をしているからだ。
父さんは、オーバス運輸の社長で、自分の貨物宇宙船を持っていて、それを使って荷物の輸送をしているし、会社の経理などは母さんたちの仕事だ。
ルーシーは母さんが連れて、面倒を見ている。
それに、親会社が出来てそこからアンドロイドを何体も融通してもらっているから、それが手助けにもなっている。
そんなこともあってか、僕の家は小さいのだ。
家に置く物も少ないし、お金になるものは基本自分で管理する。
『亜空間倉庫』なんていう便利なものが発明されているから、そっちに貴重品は入れている。
そうなってくると、この家の意味は?と不思議に思うが、実はこの家は僕の先祖が残してくれたものらしいのだ。
それを大事にしているってところかな。
「ほら、狭いがオーバス家の実家だ。いつまでも外観を眺めてないで、中に入った入った」
「は~い」
『そうだ、副社長~、若旦那がお土産を買ってきたんですよ~』
「まあ、うれしいわね~」
母さんは、父さんからルーシーを受け取り頬ずりをしながら僕を見て喜んでいる。
うん、お土産買ってきて、正解だったな……。
▽ ▽
時刻はお昼過ぎ、家族そろって昼食を済ませてくつろいでいると、玄関チャイムが鳴る。
この家にお客様とは珍しいと思っていると、父さんが慌てて玄関に走って行った。
「ようこそわが家へ、お待ちしていました!」
「今日レオン君が到着すると聞いてね、急いで訪ねたんだが……いいかな?」
「はい、どうぞ」
どうやら、僕に会わせたい人が訪ねて来たらしい。
この家は、狭いから応接室なんてない。だから、僕のいるリビングで会うことになるな……。
そんなことを考えていると、ルーシーを抱きかかえた母さんが、僕が座っているソファに座ってきた。
「レオンちゃんも、ちゃんとして相手を迎えてね?」
「はい」
僕は座り直して、相手を迎え入れる。
すると、現れたのは小柄の初老の男性と若い女性二人。
小柄の男性は、白いスーツを着ておりどこか貫禄のある顔の男性だ。
身長は僕より少し高いぐらい。隣にいる女性二人の方が身長が高いから小柄に見えたのかもしれないな。
髪は黒で、瞳の色も黒だ。でもアジア系の顔というよりアラブ系の濃い感じかな。
彫が深くハンサムだ。羨ましい……。
隣にいる女性は……あれ?どこかで見たことある顔だな……。
「こっちが、私の息子のレオンです。
隣にいるのが妻のシルビアで、抱かれているのが娘のルーシーです。
レオン、こちらがうちの親会社のマーティニック社の会長で、マーティン家の現当主の父親のライアン・スエル・マーティン殿だ。
そして、こちらの女性が……」
すっと自ら前に出て自己紹介をする女性。
「オーリー・スエル・マーティンと申します。今年で12歳となりました。
レオン君より年上ですが、よろしくお願いしますね?」
「私は、オーリー様のお付きをしていますユリア・バートンです。よろしくお願いします」
二人そろって頭を下げる。
そうだ、思い出した……。
「確か、お土産の柔らかプリンの売り場で……」
「フフフ、思い出していただけました?」
オーリーは、嬉しそうに笑った。
第133話を読んでくれてありがとうございます。
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