第132話 黒幕の計画
『オオノさん、すみませんでした。
もっと早くに相談しておくべきだったと、レオンからの報告で痛感しました』
「いえ、こちらこそレオン君にはご迷惑をおかけして……」
オオノさんが乗る貨物宇宙船のブリッジでは、さっきからモニターを通してこんなやり取りがおこなわれていた。
相手は、オーバス運輸の社長ニードル・オーバス。
レオン・オーバス君のお父様だ。
何でも、誕生日のお祝いのための帰郷の航海中に、今回の事に巻き込まれたと報告していたそうだ。
さらに、私たちオオノ運送のことも報告していたようで、その報告を聞いて今、オーバス運輸の社長であるニードルさんが謝っていた。
『オオノさんの運送会社のことは、マーティニック社の方と話し合いを何度かしていてね、オオノ運送を、正式にマーティニック社の傘下として迎えようという話になったんだ。
だが、いつということになると向こうも1年ぐらいの時間を置いた方がいいのではってことになってね……』
実は、マーティニック社の傘下になりたいという企業や、審査待ちの企業が多くてオオノ運送の傘下への順番が問題になっていたそうだ。
オーバス運輸の傘下を抜けるのは、マーティニック社の傘下になった後がいいのではないかということで決まった。
で、傘下になる日がいつになるのか、それが問題なんだよね。
『傘下になる前に、うちの傘下から独立してもすぐに仕事にありつけるわけでもないし。
独立したのに、うちから仕事を回すわけにもいかないからどうしようかと、オオノさんへの報告が遅れたところに……』
今回の事件が起きてしまったのだ。
マーティン家の親戚に、独立して実力での傘下への道を利用されちゃったんだよね。
所謂、口利きってやつ。
「……それで、うちの会社の処遇はどうなりますか?」
『そのことなんだけど、このことをマーティニック社の会長さんに話したんだよ』
「……か、会長?!」
……そりゃ驚くよね~。
マーティニック社会長。マーティン家の現当主の父親であり、レオン君の許嫁の話を持ち込んだ張本人。
現在も、マーティニック社にいろいろと影響を与えているとんでもない人だ。
会長の一声で、いくつの会社が倒産するか……。
それぐらい影響力のある人だから、今回の親戚の暴走は仕方ないのかもしれないね……。
『会長は、今年中にオオノ運送をマーティニック社の傘下へと加えるつもりらしい。だから、オオノさん、うちの傘下でいられるのは今年いっぱいということになりそうですね』
「………ありがとうございます、ありがとうございます」
オオノ社長、何度も何度もお礼を言いながら頭を下げていた。
大会社の傘下に加わることになり、私たちの給料もさらに上がりそうだ!
▽ ▽
『……そうか、失敗したか……』
「申し訳ございません」
『こちらの手掛かりになるようなものは……』
「それは勿論、何人も人を介しダミー会社を通しましたので」
『なら問題はないでしょう。会長の孫娘のことはあきらめて、別の孫娘にターゲットを絞り込みますか……』
『そうね、私の可愛いイーサンにふさわしい女性を手に入れましょう、ね?』
『はい、お母様!』
『では、また何かあったら連絡しますね。今回はご苦労様でした』
通信が切れ、モニターが閉じる。
モニターの中に映っていた親子三人が、今回の依頼者だった。
マーティン一族の端も端、末端の親族。それがマーティン家から嫁を貰い、力を付けようと画策した。
これが、今回の計画の始まりだった。
今回、依頼主が狙っていたマーティン家の孫娘は、オーバス運輸の社長の息子の許嫁になるそうだ。
どこの馬の骨とも限らないただのガキに、依頼主が狙っていた孫娘を取られる。
許せるはずがなかった。
そこで、ちょっと脅せば、相手はただのガキだからすぐに、会長も目を覚ますだろうと今回の襲撃を思いついたのだそうだ。
ガキを攫い、ちょっと痛めつけてトラウマをうえ、二度とマーティン家に関わるなといえば泣いて了解するだろう。
それを見て会長も、考え直すだろうと。
……何とも子供じみた計画だった。
先ほどのモニターに映っていた、依頼主の子供が考えた作戦なのだから仕方がない。
こちらは、それに従って計画を立てるのみだ。
「だが、蓋を開けてみれば、とんでもないガキだったな……」
計画失敗の報告書を読んでみれば、化け物としか言えない戦力差。
しかもこの戦闘艦を造り上げたのが、ターゲットのガキだっていうのだから何の冗談だと思ったほどだ。
星の管理人になるものは、昔からどこか人と違うとは言われていたが……。
「ここまでとは、驚きだな……」
事前にレオン・オーバスのことは調べたはずだったんだが、表に出てきていないことがあるみたいだな……。
俺たちの組織も、このガキに少し注目してみるか。
もしかしたら、いい金ズルになるかもしれないしな……。
こうして、レオンの知らないところで裏の組織の一角に目を付けられたのであった……。
▽ ▽
レオンは身震いした。
急に、気温が下がったような気がしたからだ。
『……どうしました~?若旦那』
「いや、何か悪寒が……」
軌道エレベーターに乗り、到着まであと何時間。
エリーと一緒の部屋で、寛いで本を読んでいるといきなり悪寒が走った。
また、どこかで面倒ごとに巻き込まれているのかもしれないと、僕はあきらめた。
『またどこかで、女の子を泣かせたんですかね~』
「エリー、そんなわけないでしょ」
『分かりませんよ~?若旦那の知らないところで、事は起きているんですから~』
事ってなんだよ……。
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