第129話 独白
「どうします?オオノ社長」
「どうするったって……」
俺たちは今、困惑していた。
俺たちオオノ運送は、オーバス運輸の傘下で働かせてもらうことになった。
オーバス運輸の社長さんとは、いろいろと話し合いを何回か行いこういう形になったのだ。
今となっては、便宜も図ってもらえるし、休みも増えたし、何より給料が上がったのが良かった。
オオノ運送の時は、下請けが主で、仕事もきつかったし給料も皆に満足に払えなくて大変だった。
オーバス運輸さんに拾ってもらって、感謝していたんだが……。
『若旦那が、あんなに優秀なんて聞いてなかったぞ?』
『うんうん』
従業員でアンドロイドのルイスとクーパーが文句を言ってくる。
俺だって、社長の酒の上での話かと思っていたよ。
わずか7歳の子供が、星の管理人や貨物宇宙船の艦長をやって取引相手との交渉までできるなんて自慢話を聞いていたが、信じてなかった。
でも、あの指揮の仕方を見ればいやでもわかる……。
「オオノ社長、ここは若旦那にすべてを話して相談にのってもらった方が……」
「今からか?できるわけないだろう!既に事は動き出しているんだから……」
そう、すべては遅すぎたんだ……。
事の始まりは、オオノ運送がオーバス運輸の傘下に入る前。
俺の父親が社長の時の話だ……。
オオノ運送は、実は歴史が2000年くらいあるらしく代々引き継がれてきた。
確か俺で6代目だったかな。
そんな、オオノ運送だが、宇宙を荷物を抱えて航行するにはそれなりのリスクがかかる。
なにせ、宇宙に海賊が本当にいる時代だ。
それなりに武装もしなければいけない。
貨物宇宙船は、宇宙船の中では安い方だが、それでも金がかかるのは事実。
そんな時代に俺の父親は、代々受け継いだ普通の貨物宇宙船で運送会社をしていたんだ。
だが、そんな貨物宇宙船は、宇宙海賊からみたらカモにしか見えない。
結果、目を付けられ何回も襲われる羽目になってしまった。
そんな状況になって、ようやくケチな親父はオオノ運送の貨物宇宙船を一新し、当時最新の貨物宇宙船に乗り換えた。
これで宇宙海賊には襲われなくなったが、お金がかかり多額の借金を背負うことに。
実際、俺の代になった時も借金は減っているどころか逆に増えていた。
あれだけ働いていたのに、何故だ?と首を傾げたほどだ。
それでも、代々続いた運送会社、俺の代で潰させるわけにはいかないと一生懸命働いたが、一向に借金は減らなかった。
そこで、輸送の時にお世話になったマーティン家の人に相談したんだ。
そこで紹介されたのが、オーバス運輸さんだった。
オーバス運輸の社長さんは、俺の話を親身になって聞いてくれて傘下に入らないかという話を持ち出してくれたんだ。
オオノ運送の名はそのままに、オーバス運輸の傘下に入る形で働かないか、と。
俺はすぐにその話に合意して、オーバス運輸の傘下に入った。
オーバス運輸の傘下に入ったおかげで、安定して仕事を紹介してもらい借金もすべて返済でき、オオノ運送として稼がせてもらっている。
このままいけば、いずれオーバス運輸の傘下から独立し、改めてマーティニック社の傘下に入れそうだ。
そう、このまま順調にいけば……。
話が変わったのは、先月のことだ。
俺に、オーバス運輸を紹介してくれたマーティン家の人が訪ねてきた。
突然の訪問だったんで、驚いたがお礼と借金完済のことを知らせると喜んでくれた。
そして、その人がある人を紹介してくれたんだ。
マーティン家の本家の親戚の人で、確か名前を、ケヴィン・コウル・マーティンといったか。
年齢は分からないが、見た目が中年のおっさんといった人だった。
お世話になった人は、ケヴィンさんを紹介すると仕事があるとかで帰ったが、そのケヴィンさんからとんでもない話を聞くことになった。
それが、マーティン一族で問題になっているレオン・オーバス君とマーティン家の孫娘との婚約だ。
特にケヴィンさんたち親戚の中の何人かは、レオン君が星の管理人などという大役をしていることに疑問を持っていた。
マーティン家に印象を良くしようというパフォーマンスではないかと。
確かに、7歳の子供に星の管理人が務まるとは俺も思えなかったが、オーバス運輸の社長がはたしてそんなことをするかな?という疑問もあった。
『何、君は『ブーニド装置』を使って通信を妨害し、惑星『オオビー』の付近に連れて来てくれればいいんだ。
後は、私たちの用意した者たちが上手くやってくれる』
お世話になった人の紹介だったし、やることも連れて行くだけ……。
それに、この作戦に成功すれば独立資金の援助も約束してくれた。
……俺は、お金に目がくらんだのだ。
この世はお金がすべてなのだは、父親の言葉だったか……。
▽ ▽
「なるほど、そういうことか……」
『マーティン一族の中でも、賛成していない人がいたんですね~』
「まあ、会長が独断で決めたらしいから、面白くない人もいるだろうね」
それにしても、ブーニド装置か。
この装置が作動している半径100キロ以内では、あらゆる通信が妨害される。
ただし、亜空間ネットワークなど一部のネットワークは妨害できない。
このブーニド装置は、送信時や受信時の音声に干渉し通信を妨害する。
聞いたことはないだろうか?電話などの通話の時に聞こえる音声は、機械によって発信者の声に近い音声を作って、受信者はそれを聞いているのだと。
そこに干渉して、通話ができなくなるのだ。
ただ、ネットなどには意味がなく画像は受信できるため情報の閲覧は可能だったのだ。
「この宙域の緊急情報が閲覧出来た時、違和感を感じたのはこういうことだったんだな……」
『それにしても、この『考え読み取る君』ってすごい発明ですよね~。
一体だれが発明したんですかね~』
考え読み取る君。
人の考えていることを脳内信号から読み取る、画期的な発明だ。
主に、星間軍などで犯罪者の尋問なんかに使われている装置だ。
発明者は、明かされていないが2000年以上前から星間軍などで使用されていたらしい。
実は、星の管理人になると、今までは購入できなかった星間軍専用のものとかが買えたりする。
そこで、星に住む人たちの考えを知らなければと購入したのだが、こんなところで役に立つとは……。
「オオノさんたちは、後悔や反省しているようだしちょっとした罰で済みそうだけど、これから襲ってくる連中はどうしようかな……」
『臨機応変でいいのでは~?』
「だな」
第129話を読んでくれてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




