第126話 実家へ出発
宇宙歴4263年4月20日、ロージーたちに後のことを任せて、僕は故郷に帰るため宇宙船『マーリン』を完成させ、これに乗って出発した。
長距離航行戦闘艦『マーリン』。
全長約1キロある戦闘艦で、長距離を移動しながらも戦える宇宙船をコンセプトに設計製造された戦闘艦だ。
そのため、居住区はブリッジ周辺に集約されていて、後は長距離航行と戦闘のための空間となっている。
全身を空色に染められ、白い紋章が目立っている。
また、搭載兵器は、今まで製作してきたレオンの集大成のように詰め込まれた。
このマーリンに、僕とエリーの二人だけが乗り動かしている。
もちろん補助システムが優秀なために、僕一人でも動かせるように出来てはいるのだが。
『若旦那、亜空間ゲートを抜ければ目的地到着まで10日で~す』
「了解。ところでエリー、僕と二人きりなんだから口調を戻したら?」
『この口調が染みついちゃってるんですよね~、変ですか~?』
「……変じゃないよ、いつものエリーだ」
『それじゃあ、このままで~』
エリーの口調、昔は普通だったんだよね。
でもいつのころからか、語尾を伸ばすのんびりとした口調になってしまった。
それが嫌ということはないし、むしろ好意的に思える。
まあ、本人がこれがいいと思っているのなら無理にやめさせる理由はないな……。
ブリッジの艦長席に座り、目の前に広がる宇宙を見ていると恐怖を感じることがある。
それはたぶん、僕の前世の精神があるからだろう。
宇宙がどんなところで、宇宙船の装甲を挟んで極悪の空間が広がっている。
そう考えれば、恐怖を感じない方がどうかしているとしか思えない。
でも、誰かと一緒にいることでその恐怖も和らぐというもの。
もしかしたら、アンドロイドたちはこのために造られるようになったのかもね。
そんなことを考えながらエリーを見ていると、不思議なものを見る目で返される。
『どうかしました~?』
「いや、何でもない。もうすぐ亜空間ゲートだ、連絡を入れて出入手続きを」
『了解です~』
▽ ▽
亜空間ゲート内に入り、亜空間を移動していると隣を真っ赤な宇宙船が通り過ぎていく。
亜空間内は高速道路のようなもので、スピードはあってないようなものだが他の宇宙船を追い抜くことはめずらしい。
なぜなら、いくら亜空間内を高速で走行しようとも出口に到着する時間は変わらないからだ。
例えば、1日に亜空間に入ると3日後に目的地の亜空間出口に着くとしよう。
そうなれば到着日時は3日ということになる。
だが、亜空間内をものすごい速さで突っ切ろうとしても、到着日時は3日後の3日なのだ。
これは、亜空間内は距離を短くしているのではなく時間を短くしているためだ。
つまり、亜空間ゲート内は距離で固定しているのではなく時間で固定しているのだ。
だから、いくら急ごうが到着時刻が変わることはない。
実はこの固定は中央政府によって決まったことなのだ。
何でも、亜空間ゲートができた初めの頃は、亜空間ゲート内での事故が多かったそうだ。どうしても人は急ぐ生き物らしい。
そのため、距離固定から時間固定に変わり、急いでも意味ありませんよ、としたのだとか。
この固定によって、亜空間内の事故が9割も減ったのだからどれだけ急いで航行していたのかがうかがえる。
「珍しいね、亜空間内で速度を出して航行しているなんて……」
『そうですね~、どこのゲートに行くかは知りませんが危ないですね~』
「どこのゲートって、同じ方向なんだから僕たちと目的地は一緒だよ?」
『ああ、そうでした~』
ゲートの出口の場所は入るときに設定した場所への一本道だ。
そのため、同じ方向に行く宇宙船はめずらしいし、追い抜く行為もまた珍しい。
この追い抜きに意味があるとしたら、ゲートから出てくる順番ぐらいなものだろう。
「エリー、このゲートの到着日数は?」
『目的のゲート出口まで、5日ですね~』
「その日数がかかるということは、『セルボ宙域』に直接向かうのか?」
『はい、そこからご実家の惑星まで6日ですから、誕生日には間に合いますよ~』
セルボ宙域には、オーバス運輸の本社がある惑星があり、実家のある惑星もある宙域。
確か、その銀河をまとめているのが親会社のマーティニック社だったな。
マーティニック社は、幅広い事業を展開していて今は銀河間の貿易が中心の会社だ。
また、アンドロイド制作の会社をいくつも持っていて、一番有名なのがロージーを製作した『リニシィ』というアンドロイド制作会社。
リニシィは、今一番有名な制作会社で『お客様のハートを射ぬくアンドロイドを』を目的に癖のあるアンドロイドを製作している。
ロージーは、優秀な秘書を基本にツンデレをもたせる目的で開発されたのだとか。
……まあ、ツンデレは搭載されてなかったが。
とにかく、そんな優秀な傘下の会社をいくつも所有したマーティニック社を経営しているのが、銀河のまとめ役のマーティン家だ。
まとめ役、貴族といってもいいポジションだよな~。
そんなマーティニック社の傘下に入ったオーバス運輸。
「てことは、許嫁はマーティン家からの紹介なのかな?」
『やっぱり気になるんですか~?許嫁がどんな女性のか~』
「そりゃ、気にならない方がおかしいだろ?
父さんが僕に許嫁を紹介するってことは、その女性との結婚は決定事項だからね」
『若旦那も、結婚するんですね~』
エリー、君は僕を何だと思っているのかね?
これでも一応、人間だよ?
第126話を読んでくれてありがとうございます。
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