第120話 見誤った戦力
私は今、目の前が真っ暗になる感覚になった。
確りと統制を、とはブルッケン殿の言葉だったな……。
「初弾、敵6隻にすべて命中!追撃をかけるようです!」
通信兵の声で我にかえると、すぐに攻撃した艦の艦長を呼びだす。
撤退は今朝の会議で決まったこと、しかも全員無事に母星に帰ることも。
なのに、なぜここで攻撃という手に出たのか……。
「チャールズ大尉、何故攻撃した!」
『……』
「貴様らの攻撃が、我らの運命を決めることになるのだぞ!」
『大佐、我々と宇宙人とどれだけの差があるというのですか……。
コロニーで宇宙人どものことを調べて、たいしたことはないと。
我々と同じような身体能力だと判明したはずです』
「宇宙人たちの身体能力と、科学力とは別問題だろうが!」
『……見ていてください大佐、勇者の戦いを!』
「待て!チャールズ!チャールズ!!」
「……通信切れました」
クリアム大佐は、艦長席を拳でたたくと、悔しさをにじませた表情をする。
「大佐、追撃に加わりますか?」
側にいた副艦長に声をかけられ、押し殺した声で答える。
「このまま……このまま、撤退だ」
「了解、本艦はこのまま撤退行動をとる!追撃部隊は無視しろ!」
『『『了解!』』』
モニターに映る別の宇宙戦艦の艦長たち。
その中には、涙をにじませているものもいた。
自分たちが、宇宙人たちの力を見せるために犠牲になる……。
未来のために……。
▽ ▽
「えっと、笑ったらだめだよね?」
『若旦那、それは強者の意見ですね。私たちからすれば、彼らの戦闘は無意味に思えますが、彼らからすれば次の戦闘のための参考や対策のための尊い犠牲なのです。
笑ってはいけませんよ』
情報収集専用艦『コンスタンティン』を使い、光学迷彩で隠れている僕たちの宇宙船『トリニティ』。
そのブリッジで、僕たちは『コンスタンティン』が傍受してくる敵の通信を聞いてどう反応していいのか分からなかった。
まったくの不意打ちの最初の攻撃。
その攻撃は見事に、星間軍の戦闘艦6隻にすべて命中。
さらに、チリや煙で星間軍の戦闘艦がどうなったか見えないのに、さらに追撃をかけるグラニド宇宙軍の宇宙戦艦10隻。
こうしている間にも、休みなく宇宙戦艦からの攻撃は続いている。
「アシュリー、どう?」
『宇宙戦艦の攻撃はすべて命中しています。
けど、すべて戦闘艦のシールド・レベル2に防がれていますね』
「やっぱりそうか……」
僕たちの科学力の技術の中にある『シールド』は、宇宙を行き交う宇宙船には必須のシステムだ。
宇宙を漂うゴミや石、星だったもののかけらや放射線など危ないもので溢れている。
そんなものから守るために開発されたシステム、それが『シールド』だ。
原理は僕の頭ではよくわからなかったが、何かのエネルギーで守りたいものを包むといった感じ。
さらに、映画でよくあるバリアみたいに凝縮して展開することも可能だとか。
『若旦那、追撃部隊の攻撃がやみました!』
僕が考えにふけっているうちに、追撃部隊の攻撃がやみ、星間軍の船体があらわになる。
そこには僕の予想通り、無傷の星間軍の戦闘艦が現れた。
「やっぱり、無傷だよね~」
『当然です、若旦那。星間軍はシールドシステムの最新版が装備されているのですから、こんな攻撃で傷つくはずありません』
艦長席で僕が戦闘の行方を見ている横で、ロージーが納得した顔で言っている。
そうなんだよね、この力の差が分かって撤退を選んだはずだったんだけどね……。
『敵、後部甲板からミサイルを発射するようです。
若旦那、あれ『核ミサイル』見たいです』
「核ミサイル?!」
……待てよ、グラニドの宇宙戦艦は核ミサイルを出してきた。
今までの攻撃が通じなかったから、最高戦力で攻撃するってことだね……。
ってことは、相手の最高戦力が核ミサイル程度?!
「これはまずい!」
『若旦那、そんなに焦らなくても星間軍の戦闘艦に核ミサイルは通用しませんよ?』
「そこじゃない、核ミサイルなんて、シールド・レベル2で防げるから心配していないよ」
『では、何を焦っていたのですか?』
「問題は、相手の最高戦力が核ミサイル程度だってことなんだ。
つい、この宙域まで来たぐらいだからもっと何かあると思っていたんだけど……」
『何か問題が?』
「相手の最高戦力が核ミサイルということは……」
『ということは?』
「グラニドの宇宙戦艦には、自分たちを防御する盾みたいなものが何も無いってことなんだ」
そう、盾だ。
僕たちの『シールドシステム』のようなものが、相手の宇宙戦艦には搭載されていないことになる。
星間軍の戦闘艦では、最弱の攻撃である『光線銃』を使うようだけど、それでもグラニドの宇宙戦艦を消滅させかねないことになる。
これは、アリと象でもひのきの棒と聖剣の差でもない、葡萄の実とパイルドライバーだ。
一撃で木っ端みじんだ……。
僕たち地球人類の歴史にあるとおり、核兵器が全盛の時代の盾といえば何もなかったように思える。
となれば、目の前で核ミサイルを打とうとしている宇宙戦艦は、核ミサイルに関する防御力が無いということだ。
放射能ぐらいは大丈夫かもしれないが、核爆発による熱、衝撃、すべてを防御することはできないだろう。
だが、『シールド』はこれを護ってしまう。
『……若旦那、私たちが敵宇宙戦艦をある程度護りますか?』
「いや、星間軍も気づくはずだよ。それで攻撃の手をゆるめて捕虜にするはず……」
捕虜にするはずだ……たぶん………。
第120話を読んでくれてありがとうございます。
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