第119話 開戦へ
星間軍の宇宙戦闘艦『ミーミル』に乗船している星間軍兵士の一人、ウィリアムは困惑していた。
「ルーカス上官、宇宙服を着て上部格納甲板にて待て、とありますが、これはどんな作戦なのですか?」
ウィリアムの質問はもっともなことだ。
敵の宇宙戦艦を相手にするのに、なぜ、俺たち星間軍兵士、それも射撃を得意とする俺たち10名が呼ばれるのかが分からない。
「うむ、ウィリアムの質問はもっともだ。
実はな、上の方は今回の敵の力との差がかなりあると確認したらしい。
そこで、本艦隊の戦力で相手をすると相手を跡形もなく消滅させてしまう恐れがあるそうだ。
そこで、この『ミーミル』一艦で敵の相手をし戦闘不能にするには、君たちの力が必要というわけだ」
「そこが分からないのです、いったいどんな武器を使うのですか?
この『ミーミル』には最弱の兵器が積まれてあったと思いますが……」
「『アウン』か?実をいえば、アレでも威力が桁違いだそうだ。
で、この星間軍艦6隻の中で最弱の兵器が………あれだ」
直接の上司であるワイアット上官から、命令を受け宇宙服を着てこの上部格納甲板に来てみれば、同じく宇宙服を着たルーカス上官がすでに到着して待っていた。
上官を待たせたか?と一瞬焦ったが、ルーカス上官は気にせず全員そろったところでウィリアムの質問に答えていたのだ。
このルーカス上官が温厚な人で良かったよ。
上官の中には、時間にうるさい人もいるから当たりはずれがあるんだよな。
で、ルーカス上官は、ウィリアムの質問に答えながら今作戦の説明をおこなっていた。
ルーカス上官の指さした先にあったのは、長距離射撃歩兵銃、所謂『光線銃』だ。
大きさは、長距離射撃を主体にしているので2メートルと長い。
重さは、極力金属部分を無くしてあるため軽量にできているため持ち運びに便利だ。
射程は、エネルギーが続けば1億キロ先に届くはずである。
もっとも、そんな先の的に当てることはほぼ不可能ではあるが……。
そんな『光線銃』が10丁、用意されていた。
「……もしかして、これで艦隊戦をやるのですか?」
「感がいいなダミアン、上はこのぐらいの格差があると思ってこれでやるつもりだ」
「「「「………」」」」
全員言葉が出てこない。
こんなにも格差があるってことが信じられなかった。
仮にも宇宙に進出できる力はあるはず、何せこの宙域まで来たわけだし。
なのに、戦闘能力がここまで違うのか?
……俺たちが普段使っている兵器の力って、どれだけなんだよ。
そんな考えが頭をよぎった時、ルーカス上官が続ける。
「それぞれ銃を持ち、点検!その後は甲板が開くまで待機だ!
ちゃんとヘルメットもかぶって点検をしろよ?作戦が実行されたらここの空気はすぐに抜かれるぞ」
「「「「「ハッ!」」」」」
そして、すぐに銃の点検に入る兵士たち。
いち早く点検が終わると、ウィリアムは背中に取り付けてあった自分のヘルメットをかぶり、戦闘位置に用意されている椅子に座った。
ルーカス上官を中心に、扇状に椅子が用意されている。
椅子に座ると、意識しなくても意識させられる。心臓が飛び出しそうなほど、緊張していた。
自然と『光線銃』を持つ手が震えて小さな音をたてる。
音が聞こえるということは、まだこの場には空気があるということ。
まだ戦いは始まらない、そう言い聞かせて落ちつこうとするが緊張は治まらなかった。
▽ ▽
星間軍旗艦『ミーミル』のブリッジに通信が入った。
「ブルッケン隊長、敵からの通信が来ました」
「すぐにモニターに出してくれ、翻訳機能も忘れずにな」
「了解です」
レオン君の救出作戦が成功してから、交渉の通信がなかなか入ってこなかった。
ようやく、向こうから通信がきたのは昼過ぎだ。
『……一つ確認しておきたいのだが、いいかな?』
「構わないクリアム殿、交渉の前に聞きたいことがあるというなら……」
モニターの向こうのクリアム大佐は、ブルッケン隊長の態度に少し苛立ちを覚えた。
しかし、ここで感情をぶちまけてもクリアム大佐以下グラニド宇宙軍に待っているのは破滅だけだと、感情を抑える。
『今朝、捕虜が全員消えてしまったのだが、ブルッケン殿が何かしたのか?』
「私が直接命令したわけではないが、夜のうちに救出をさせてもらった。
捕虜に対する扱いが酷いようなのでね」
『……そのことに関しては、申し訳ないと謝罪したい。
我々以外の知的生命体など初めて見たのでね、皆、興味が尽きないのだろう』
「その気持ちわからないでもないが、統制はしっかりしてほしいものだ」
『……それでだ、我々はこの宙域からの撤退を決定した。
母星でもこの交渉のことが議論されている。近いうちに正式に謝罪と使者が送られることになるだろう』
「撤退するというなら、こちらに追撃の意思はない。
近いうちに来る使者のことは、そちらに送った宇宙図を見て来てくれればいい」
モニターの向こうで、部下から受け取った紙を見ながらクリアム大佐は頷く。
『感謝する』
そう言って頭を下げると、通信は切れた。
ほどなくして、第二コロニーから4隻の宇宙戦艦が出てきた。
そして、横一列の陣形を取ると、そのまま星間軍の戦闘艦の下を抜けていく。
わずか6隻しかない星間軍の戦闘艦の下を、25隻の宇宙戦艦艦隊が通り抜けていく。
屈辱であろうな……。
ブルッケン隊長はそう思いながら、敵の宇宙戦艦を見送っていた。
通過後、6隻の星間軍の戦闘艦の後ろに回った時、25隻の宇宙戦艦のうち10隻の宇宙戦艦が向きを変え攻撃態勢に入ったのだ。
そして、一斉射撃が始まった……。
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