第109話 大精霊
「私は、お店でもしようかな」
「お店?」
「直美がいつか話してくれた、喫茶店、というお店。
そのお店で、のんびり過ごしたいわね……」
トリニティが、勇者パーティーでダンジョンに潜って戦ってた頃の休息中の話を持ち出した。
あの頃は、平和になったらとか日本ってどんなとことか、いろんな話をしていたっけ。
こっちに召喚されてから、ダンジョンにいた時が一番平和だったかもしれない。
魔王を倒して、ダンジョンを踏破した後は、私たち犯罪者扱いだったからな……。
「ね、ヴィクトリアもいっしょにどう?」
「え?いいの?」
「勿論、私、宿屋をしていたから料理とかは自信あるよ」
「じゃあ、私が接客担当ね」
「それじゃあ、飲み物とか軽食の材料とか、レシピも私が卸してあげるよ」
材料とかは、コロニーで作っているしレオン君に話を通せば、トリニティのお店に直接卸せるかな。
「ナオミが教えてくれるなら、美味しいものが作れそうね。
でもナオミ、あなた、今どこに住んでいるの?この町じゃないでしょ?」
トリニティの疑問は、もっともね。
「私は今、空の上に住んでいるんだよ。で、そこで勉強中」
「「「「……へ?」」」」
それからトリニティたち勇者パーティーへの説明が、時間かかった。
空の上には宇宙があるとか、船が飛んでいるとかね。
アレクなんか途中で思考を停止して、ナオミはいつ神になったんだ?とか言い出すし。
どうやって神の世界に行くんだとか、訳の分からない質問になったから、それなら皆で一緒に宇宙に行ってみようということに。
百聞は一見に如かずっていうし、見せた方が早い。
で、私たちの今後のことが決まったところで、町の代表のセーラが口を開いた。
「さて、これからのことが決まったことですから、皆さんをこの町『ホリック』に歓迎しますわ。これからも、よろしくお願いします」
こうして、勇者パーティーの町への移住が決まった。
▽ ▽
宇宙船『ハルマスティ』の艦長室。
「う~ん、断層とかの自然に起きた地震ではないってことか。
震源地は、辺境の町『ボングー』の東の外壁の30センチ外側?
……と言うことは、人為的地震。つまり魔法による地震ってことか……」
僕は、エリーから渡された詳しい報告書を読んでいるんだけど、魔法ってすごいね。
この地震の起きた国って横長で、前世の東京のような形をしているんだけど、周りの国には被害を出さずに横長の国を地震が横断している。
だから、その国にある町や村、さらには森や川など自然の場所まで、まるで一度地面をめくって戻したようなありさまだ。
被害にあった国で無事な場所は、無いといってもいい。
大きな建物がある町は、外壁から崩れているようでスゴイ被害が出ていた。
比較的無事なのは、村だろう。大きな建物はないようだし。
「これ、そうとう国に対して恨みがあったってことなのかな?」
『違いますよ若旦那~』
「ん?何が違うんだ?エリー」
『報告書の下に、この騒動を起こした犯人を調べて分かりました~』
犯人?もしかして、こんな地震を起こした魔法使いか?
どんな奴が……。
「……召喚陣?」
『はい、震源地を調べて召喚陣の痕跡を見つけました~。
慌てて消した後がありましたけど、ホリックの魔法に詳しい人やイザベラ、ソフィアに確認したところ精霊を召喚した後ではないかと……』
精霊か、ファンタジー世界では定番だな……。
でも、精霊って召喚できるのか?
「エリー、精霊って召喚できるのか?」
『皆さんが言うには、精霊を召喚することはめずらしくないようですよ~。
日照りが続いたりしたときは、水の精霊を呼んでいたそうです。
所々消えているが、精霊を呼ぶための召喚陣で間違いないようです~』
精霊を呼んで、地震が起きて国に大被害が……?
「召喚者は、何を呼びだしたかったのかな?」
『召喚陣を見たソフィアの話では、おそらく水の大精霊を呼びだしたかったようです~。
それが、召喚陣の不備で違う大精霊が呼びだされ、そこで何らかのやり取りがあり、大精霊の怒りにふれ今回の事態になったのだろうと言ってました~』
精霊の怒りに触れるって、どんなやり取りが?
それにしても、大精霊って意思を持ち、怒らせるととんでもない力を出すんだね……。
「なるほど、これがこの地震災害の真相ってことか……。
それで、この犯人はどうなったの?」
『報告書のさらに下にあるように、現在他の国へ逃走中です~』
「……まあ、そうなるよね」
うん、この件は深入りする必要ないようだ。
地上の人達に任せましょう。災害の支援もすんなり受け入れているようだしね。
問題を解決し、他の報告書を読もうかとしていた時、シンシアがバスケットを持って部屋に入ってきた。
「ん?シンシア、何か用?」
『若、陣中見舞いに来ましたよ』
「陣中見舞いって、何を持ってきたの?」
シンシアは持ってきたバスケットを僕の机の上に置くと、バスケットにかかっている布を取る。すると、そこには瑞々しい黄緑色のブドウが房のまま入っていた。
「シンシア、これって……」
『はい、高級ブドウの『精霊のしずく』です。
さっき収穫したばかりのものを、味見してもらうために来ました』
昔、父さんに種をもらって育ったらごちそうしてくれって言われたけど、ようやく、コロニーで実がなったか……。
宇宙船『ハルマスティ』で育てて、コロニーが出来て植え替え、そしてようやく実が……。
僕は、房から一粒取り、口の中へ運ぶ。
「ん~~、甘い!美味しい!」
『美味しいブドウです~』
『……ん、美味しく育ちましたね、若旦那』
みんな笑顔で、ブドウを食べている。
実家に帰るときのお土産は、このブドウを持っていくかな……。
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