第105話 そして、誰もいなくなった…
ヴィクトリアを助けたままの光学迷彩で透明な姿で、宿に侵入しトリニティさんの部屋へ向かう。
すでに、夜明けが近いから起きているころだろうとは思うが、部屋に向かった。
部屋のすぐ近くまで来ると、扉が開きトリニティさんが出てきた。
「?……どなたかいるのですか?」
僕は何も答えずに、亜空間倉庫から催眠ガスの入ったボンベを光学迷彩をかけて取り出し、困惑しているトリニティさんにゆっくりかけていく。
「……おかしいですね、確かに何かの気配がす……るので…すが………」
催眠ガスが効いたらしく、その場に倒れた。
僕はすぐに催眠ガスを止め、亜空間倉庫にしまうと奴隷から解放させるための魔道具を取り出しトリニティさんに近づく。
可愛い寝息を立てて寝ているトリニティさんの隷属の首輪に、魔道具を当てて発動させると、何かが壊れる金属音とともに隷属の首輪が外れた。
首輪が外れると、今度はトリニティさんの姿が人族からエルフへと変わる。
これが、トリニティさんの本来の姿なのだろう。
亜空間ドックから、ドワーフロボを呼び寄せると、いまだ眠っているトリニティさんを亜空間ドックに運ばせて匿うことに。
さらに、ドワーフロボを二人呼び出し、トリニティさんの自室にある荷物もまとめて亜空間ドックへ運び込んだ。
「亜空間倉庫も亜空間ドックも、便利だな……」
改めて感心すると、アルの待つ宿の部屋へ移動する。
泊まっている部屋には、アルが起きて待っていた。
『戻ったようじゃのう、首尾はどうじゃ?』
僕は部屋に入ると、光学迷彩を切り姿を現す。
黒いツナギの宇宙服に黒いフルフェイスのヘルメットをした、完全に誰か分からないようにした姿の僕が現れた。
そして、フルフェイスのヘルメットを脱ぐと、涼しい空気を感じることができた。
「バッチリだよ、ヴィクトリアさんもトリニティさんも回収完了」
『ロージーたちのサポートが、良かったようじゃな』
「貴族の屋敷から、ヴィクトリアさんを攫う計画には驚いたけどね。
しかも、催眠ガスや光学迷彩まで使うことになるなんて……」
『誰にも気づかれず、という条件じゃったからのう』
そのための光学迷彩、さらに催眠ガスの使用のためのフルフェイスのヘルメット。
僕が誤ってガスを吸うと、作戦失敗どころか僕まで捕まっちゃうからね。
『もうすぐ夜明けじゃ、大騒ぎに巻き込まれる前に逃げ出すかのう』
「これ以上、この町にいる意味はないしね」
僕は荷物を……は、亜空間倉庫だから必要なし。
アルも準備ができたのか、光学迷彩で透明になる。
『ほれ、レオンも準備が出ているなら光学迷彩をするんじゃ』
「了解~」
僕は忘れ物がないか、もう一度周りを確認してフルフェイスのヘルメットをかぶり、光学迷彩を発動させて透明になる。
『では、行くぞ……』
アルの声が聞こえた後は、部屋のドアがひとりでに開き、ひとりでに閉まる。
……そして、なにわ亭という宿屋から人が消えた。
▽ ▽
朝、貴族区のメイソン伯爵の屋敷ではヴィクトリアがいなくなったと大騒ぎになった。
屋敷の使用人をすべて投入し、屋敷内をくまなく探させたが見つからず、メイソンは苛立ちを隠しきれなくなっていた。
「まだ見つからんのか!あれから一時間は経つぞ!」
「も、申し訳ございません。屋敷の使用人全員で探しておりますが、いっこうに発見にいたりませんで……」
「くっ、いったいどこに行ったのだ………」
「クソ、こんなことなら手を出しておけばよかったぜ」
「そんなことをすれば、お前をこの私が殺していただろうなローガン」
「ジョ、ジョーダンだよ、父上におど、注意されてからはなるべく部屋に行かないようにしていたよ……」
メイソンは考える、ヴィクトリアがこの屋敷を逃げ出して頼るところは……。
ふと、一つの答えにたどり着いた。
「ニーズ、兵を五人ほど集めろ!
ヴィクトリアがこの屋敷から出て頼れるところはあそこしかない」
そう命令すると、すぐに自室へ服を着替えに戻った。
▽ ▽
三十分後、なにわ亭の宿屋に、豪華な貴族の馬車が横付けされ、中からメイソンが降りてきた。
馬車の後ろをついてきた兵士を、メイソンの合図で宿屋に突入させる。
「探せ!ヴィクトリアが頼るとしたらここしかないはずだ!」
その光景を見張っていた者から、城にいるガルザ宰相に知らされる。
「何を考えているメイソン伯爵!
す、すぐに衛兵を連れて、メイソン伯爵たちを止めてこい!」
「は、はい!」
ガルザ宰相は、執務室でその知らせを受け側にいた使用人に命じて、メイソン伯爵を止めに衛兵を動かした。
のちに、このことを陛下から咎められるのだが、今は動かざるを得なかった。
使用人からガルザ宰相の命令を受けた衛兵の隊長は、部下を十人ほど連れて問題の宿屋へ向かう。
メイソン伯爵を止めるために。
衛兵が城を出立したころ、宿をひっくり返すほどヴィクトリアを探しているメイソン伯爵のもとに、使用人のニーズが走って報せに来た。
「だ、旦那様!大変でございます!」
「何だニーズ、今はこの汚い宿を探してヴィクトリアを「兎に角これを!」…」
ニーズが差し出した手紙を受け取り、中身を読んでいくとメイソンの顔色が変わる。
「……島への計画は失敗。海賊は全滅、生存者はわずか1名のみ、だと?」
勇者ナオミを捕らえることに失敗した。
これでは、ヴィクトリアを探し出しても意味がないではないか……。
「あの辺りで名の知れた海賊を集めたのですが、どうやら実力不足のようでした。
いかがしますか?もう一度、島を襲わせますか?」
……島をもう一度?
いや、失敗したということは海賊を退けたということだろう?
となると、その戦力がさらに警戒するということ。
……クッ、これでは当分島へは手が出せないということではないか!
メイソン伯爵はその場に座り込んでしまう。
自分の思い描いていた計画がとん挫したことを悟って……。
そして、そこへタイミング良く衛兵隊が到着した……。
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