第104話 潜入と回収
その後、奴隷法違反の罪で『黒い深淵の狼』と『白い悪魔の翼』のパーティーは、取り調べの後、ギルドランク降格となった。
犯罪奴隷に落とされたりせずに、ギルドランクの降格だけという軽い罪で終わったのは、奴隷法の罰則が低いためだろう。
なにせ、この奴隷法違反をよくしているのが貴族なのだから罰則も低くなるはずである。
だが、ギルドランク降格をくらった者たちからすれば、それは軽くない罰則であり、ランクが下がるということは収入が減ること。
つまり、今までの生活が出来なくなることに他ならない。
そのため『黒い深淵の狼』はパーティ内で揉めに揉めて解散。
『白い悪魔の翼』は、今までリーダーだったアヴェリーさんが探索者を引退することで、何とか収まった。
そして、僕とアルにはお咎めなしということになったばかりか、依頼を出す時に払った金貨200枚が、探索者ギルドからの謝罪とともに戻ってきた。
これは、今回の騒動でギルド側も、アレクたち奴隷のみが依頼を受けるさいに犯罪奴隷かどうかの確認を怠ったことで反省しているということだな。
おそらく今後は、奴隷のみで依頼を受けるさいは確認することが義務付けられるだろうね。
▽ ▽
人々が寝静まった深夜の王都の貴族区。
メイソン伯爵邸の三階のベランダに、透明な人が静かに降り立った。
「こちらゴースト、目的のベランダに降り立った」
『神の眼、了解。目的の人物はその窓の向こうです』
さて、光学迷彩で透明人間になって降り立ったけど、ここまでしないといけないのか?
ロージーが、人を盗むときは、ドロボウにならなくてはいけませんとか力説してたけど……。
……まあ、いいけどね。
さて、まずはクレアたちに造ってもらった魔道具で『結界』などがないかチェック。
………よし、反応がないから結界の類は無し。
次は、ベランダから中に入らないと……。
僕は窓に手をかけ、鍵がかかっているかを確かめると、流石異世界の文明レベル。
鍵はあったけど、掛け金タイプの鍵だ。
これなら簡単に開くと、隙間に紙を入れ、下から上へ移動するだけで簡単に鍵が開いた。
紙をしまうと、ゆっくりと窓を開け僕はベランダから部屋の中へ侵入する。
「こちらゴースト、部屋に侵入成功。
目的の人物はベッドで就寝中と思われる、他に部屋に誰かいないかチェックしてくれ」
『神の眼、了解。チェック開始。
部屋全体をチェックしたが、部屋の中には目標以外確認できない。
ただ、入り口のドアの向こう側に見張りを確認。注意されたし」
「ゴースト了解」
そうか、見張りがいるのか……。
多分その見張りは、夜這いをかけそうな男がこの屋敷に入るからな。
その対策だろうな……。
僕はベランダから、部屋の中に入り、ベッドへと近づいていく。
この時も、光学迷彩は解いていない。世の中何があるか分からないからね。
部屋の中にあった大きなベッドでは、一人の女性が静かに寝息を立てて寝ている。
ここでも、クレアたちに造ってもらった人物鑑定の魔道具を亜空間倉庫から取り出し、ベッドの上で寝ている女性を鑑定する。
……うん、間違いなく探していた人物、勇者ナオミの仲間のヴィクトリアだ。
僕は確認後、鑑定魔道具を亜空間倉庫にしまうと、さらにベッドに近づきヴィクトリアの寝息が聞こえる位置まで移動した。
ベッドの横から彼女をじっと見ると、やっぱり首に隷属の首輪が。
これを外し、ヴィクトリアを攫って脱出すれば任務完了だ。
ヴィクトリアに気付かれずにベッドに上り、隷属の首輪を外す。
首輪を外したら、いくらなんでも彼女は起きてしまうから事情を話して……。
………無理だな。
よく考えたら、子供の僕にそんな器用なことできるわけがない。
ここはやっぱり、ロージーたちの案でいくか。
亜空間倉庫から、催眠ガスを取り出しヴィクトリアに向けて少量だけ流す。
そして、1分ほど待ち、ヴィクトリアのほほを指で押す。
………反応なし。
催眠ガスを切って、亜空間倉庫にしまい、奴隷解放の魔道具を取り出しヴィクトリアを奴隷から解放させる。
この時、枕やクッションなどで隷属の首輪が外れる音を緩和させることを忘れずに。
隷属の首輪が外れたら首輪を回収し、ヴィクトリアは、ドワーフロボを使って亜空間ドックに運び隠す。
僕たちの化学が開発した、亜空間倉庫や亜空間ドッグは生き物でも入れることができるから便利だよな。
ただ、時間操作はできないから不便といえば不便なのかも。
「こちらゴースト、目的の人物の回収に成功。これより帰還する」
『こちら神の眼、了解。無事の期間を祈る、以上』
「こちらゴースト、了解」
さて、帰りも慎重に行きますか……。
▽ ▽
さて、宿にまで帰ってこれたけど、ここって見張られているんだよね。
宿の中から光学迷彩を使って出てきたから、入るときも光学迷彩を使ったまま入らないと……。
後は、宿のトリニティを奴隷から解放して回収すれば、この王都に用はない。
僕たちがこの国を離れた後、この国をどうするかは直美さんたちで決めてもらおう。
この国にどんな未来が待っているのか……。
第104話を読んでくれてありがとうございます。
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