第103話 開き直り
「どうもさっきから、何か引っかかると思ったら『黒き深淵の狼』も『白い悪魔の翼』もギルドからの緊急依頼はどうしたのですか?」
受付嬢のミアさんの目が細く鋭くなって『黒き深淵の狼』のメンバーたちと『白い悪魔の翼』のリーダーを睨む。
「そ、それは……」
「あたしは、このマイケルに誘われたんで代表として付いてきたんだよ」
「アヴェリー、てめぇ!」
内輪もめが始まったけど、ギルドの緊急依頼ってなんだろ?
「あのミアさん、ギルドの緊急依頼って何ですか?」
「…二日前、南に広がる森の中からダンジョンが新たに発見されました。
ところが、このダンジョンはどうやら放出期を迎えていたようで、ダンジョンの中からいろいろな魔物が溢れ出てきたんです。
そこで、探索者ギルドは現在ダンジョンに潜ってない上位ランクのパーティーに、緊急依頼を出しました。
ダンジョンから溢れてくる魔物の討伐を、お願いしたんです。
一応これは強制依頼ではないので、受ける受けないはパーティーに判断を委ねましたが……」
なるほど、ダンジョンから魔物が溢れてくる恐ろしさを知る上位ランクは、必ず受けるということか。
依頼を受けない上位ランクは、臆病者か魔物が溢れてくる恐ろしさを知らない無知か……。
『黒き深淵の狼』はパーティー全員が戻ってきたようだけど、『白い悪魔の翼』はリーダーだけがここにいる。
……と言うことはもしかして?
「あのさ、一つ質問があるんだけど……」
「何だよガキ、賠償金を払う気になったのか?」
「そうじゃなくて、緊急依頼を受けていたのになぜ、僕の依頼を受けたんですか?」
「……」
何か身内同士で、睨み合い始めたな。
……もしかして、責任の擦り付け合いをしている?
僕がそう考えた時、アヴェリーさんがいきなりマイケルさんを殴り飛ばした。
「ああっ!貴様がこの話を持ってきたんだろうがっ!
使えない奴隷を始末する、いい手があるってよ!」
「この話に、最初に乗ってきたのはあんただろうがっ!
自慢の奴隷を使い潰して、この間の依頼危なかったって愚痴ってたじゃねぇか!」
「うるせぇ!緊急依頼すっぽかして、パーティーメンバー全員で戻ってきてんじゃねぇよ!この腰抜けがっ!」
「てめぇも似たようなもんじゃねぇか!他のメンバーに押し付けて戻ってきたんだろうが!」
「何だとっ!」
「いい加減にしてくださいっ!!」
アヴェリーとマイケルの罵り合いに、我慢の限界がきたミアさんがキレた!
すごいオーラが出ているし、側にいたシシリーさんが怯えているよ……。
「『黒き深淵の狼』も『白い悪魔の翼』も、奴隷を何だと思っているんですかっ!
使えなくなったから始末する?
そのために、あなたたちはレオン君の依頼を受けたんですか?!」
……二つのパーティーメンバーは、全員がバツが悪そうにしている。
奴隷を始末って、売ってしまえば……はできないのか。
宿の夕食のときにトリニティさんに聞いた話だと、一年以内の同じ奴隷の売買は禁止されているんだったな。
昔、ある貴族が奴隷を購入後つまみ食いしてはすぐに売り、また購入してはつまんで売りを繰り返して問題になったとか。
それ以来、購入から一年の期間を設けたとか……。
「……ちょうどいい依頼があったからな。
物好きな金持ちの道楽依頼だろ、ダンジョン体験なんてよ!
だが、俺たちは奴隷を死なせるつもりはなかったぜ!なあっ!」
「……フンッ!」
「チッ!とにかく俺たちは奴隷を死なせるつもりはなかった!
俺たちの奴隷が死んじまったのは、そこのガキと爺の所為ってことだ!
賠償金、いや、弁償金か?奴隷四人分の金貨8000枚、払ってもらおうか!」
……また増えてるし。
それに、こいつら開き直りやがった。
「その必要はありません。奴隷が亡くなったのはあなたたちがそう仕組んだのでしょう?」
ミアさんの鋭い目が、『黒き深淵の狼』の連中と『白い悪魔の翼』のリーダーを睨む。
……迫力あるよな~。
「そ、そんなことする訳ねぇだろ!
あの奴隷にどれだけの金がかかったと思ってんだ!」
「……」
アヴェリーさんは、視線をそらしたな……。
マイケルの奴は、ミアさんに反論しているけど…。
「皆さん知っていますよね?
今回、レオン君の依頼に同行させた奴隷は全員、犯罪奴隷だったって」
「……チッ!」
え?僕たちと一緒にダンジョンに潜ってくれたの、犯罪奴隷だったの?
僕が、驚いた顔でミアさんを見ると、ミアさんは笑顔で僕に語ってくれる。
「大丈夫ですよ、犯罪っていっても魔が差した程度の犯罪ですから。
犯罪奴隷で過ごす期間が決められていて、その期間を過ぎれば一般の奴隷になり自分自身で購入して解放が望めます」
それはたぶん、エヴァさんとマヤさんの二人のことだな。
アレクとルークは、直美さんの話だと嵌められて奴隷だから解放は無理だろうな……。
「それでぇ、犯罪奴隷だから何なんだよ!」
「知っているはずですよ、犯罪奴隷には逃亡防止のための呪いが隷属の首輪に仕込まれているってことを……」
「「「!!!」」」
僕たちの周りには、この騒ぎを聞いていた探索者たちがこっちを注目している。
その目が、マイケルに注がれる……。
「し、知らねぇ!俺は今初めて聞いたぞ!」
「そんなはずはありません!奴隷購入時に奴隷商は、逃亡防止の呪いのことは知らせるはずです。
なにせ、逃げた時のことなんですから購入者には安心して購入してもらわないと」
確かに、犯罪奴隷の逃亡は迷惑がかかるからな……。
「レオン君の話では、初心者ダンジョンの第六階層でいきなり苦しみだして亡くなったそうです。
購入者である、あなたたちから離れすぎたために起こった隷属の首輪の呪いじゃないのですか?」
「ぐっ……」
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