第102話 賠償金
その日の夕方ごろ、僕たちはバステーユ王国王都にたどり着いた。
初心者ダンジョンから帰ってきたとしては、異例の速さでたどり着いたことになる。
夕方ということもあって、王都東門は人も少なくすんなり通れたが、王都内は人通りが多かった。
買い物帰りの人や、家路を急ぐ人が大半なのだろう。
僕とアルは、その中を探索者ギルドに向けて歩いて行く。
探索者ギルドに入ると、少し前にダンジョンから戻ってきた人たちや、依頼の報告をするものでいっぱいだった。
その中を通り、依頼受付へ行くと僕たちを担当してくれた受付嬢のミアさんが声をかけてくれる。
「お帰りなさいレオン君、アルさん。ダンジョンはいかがでしたか?」
僕たちは、出来るだけ沈んだ顔でミアさんの前に行くと、心配な顔に変わったミアさんに、再度声をかけてもらう。
「あの、ダンジョンで何かありましたか?」
僕たちは、何もしゃべらず、そっと懐から四つの探索者タグを取り出し受付のカウンターの上に置く。
「それはもしかして……?」
「はい、僕たちの案内を請け負ってくれた四人の探索者たちのタグです」
「これがここにあるということは………そんな………」
ミアさんは、慌ててタグを握りしめると、奥に駆けて行ってしまう。
僕たちはそれを見送るだけだ。
しばらくして、奥の部屋から出てきたミアさんは、僕たちの前に戻ると…。
「間違いありません、先ほど確認しました。
それで、どのような状況でこれをもってきたのか、話していただけますか?」
「はい、僕たちは当初の予定通り初心者ダンジョンへ潜りました。
順調に、下へ下へと降りて行きました……」
「あの、その時の並び方を教えてもらえますか?」
「えっと、先頭はアレクさんとルークさんで、真ん中が僕とアル、そして、ポーターのマヤさん、一番後ろにエヴァさんがついてダンジョンを進んでいました」
「……布陣に問題はないですね。盾役の戦士に斥候、ポーターはレオン君たちのダンジョン案内を担当して、後ろの警戒に魔法使い。
ダンジョンの魔物にやられる布陣に見えませんけど……」
そうつぶやきながら、カウンターに置いたタグを見つめる。
「あの、その四人は魔物にやられて死んだわけではありませんよ?」
「えっ?!それじゃあ、どうして……」
「……彼ら四人が亡くなったのは、第六階層を少し歩いたところで亡くなったんです。
いきなり苦しみだして、どうすることもできず僕がオロオロしていると、アレクさんが自分のタグを引き千切って僕に手渡して来たんです。
これをギルドに渡して、報告してくれって……」
ミアさんは、少し考えながらアレクの行動の意味を考えている。
とそこへ、後ろから別の受付嬢を伴った探索者の人たちが僕に達に声をかけてきた。
「ちょっといいか?ダンジョン体験を依頼したのはあんたら二人で、間違いないか?」
その男は、見た目にも高級な金属鎧を身につけ赤いマントを付けていた。
しかも、そのマントには白色で何かのマークが記されている。
「えっと、どなたですか?」
「おいおい、このガキ、俺たちのこと知らねぇのかよ」
「探索者としては、高ランクのパーティーで有名なんだがな」
高ランクの探索者が何の用だ?
あ、アルが少しイラっときてる。何かやらかす前に聞いておこう。
「あの、僕たち王都にきて間もないんです。よろしければ教えてくれませんか?」
「何だよ、田舎ものかよ……」
「田舎ものじゃあ、しょうがねぇな。
しっかし、俺たちを知らねぇとは、よっぽどだな……」
ああ、そんな憐みの目で見ると、アルが切れそうだ……。
「よせ、話が進まん。俺たちは『黒き深淵の狼』というパーティーのものだ。
そっちにいるエロい女が『白い悪魔の翼』のパーティーリーダーだ」
「エロいだけ余計だアホ!……『白い悪魔の翼』のリーダー、アヴェリーだよ」
……アヴェリーさんの恰好は、確かにエロイな。
軽鎧姿なのに、胸が強調されている。
しかも、腰に鎧はなく太ももの途中から足を守る鎧を付けている。
スパッツのような服にパレオのような腰布。
動きやすさ重視の姿なのかもしれないが、エロい姿といわれても仕方ないね。
「それで、あんたらで間違いないよな、ダンジョン体験の依頼を出したのは」
「はい、僕たちで間違いないです。それが何か……」
僕たちが依頼主ということを確認すると、質問した男はニヤリと笑うと…。
「俺たちとそこの女のパーティーが出した仲間の賠償金を要求させてもらう。
四人合わせて、金貨4000枚だ。
もちろん払ってくれるよな、俺たちの仲間を死なせたんだから……」
……なるほど、これが目的か。
ダンジョンに、使えなくなった奴隷を始末してもらい、依頼主には仲間を死なせたとして賠償金を払わせる。
ダンジョンにわざわざ護衛を雇っていく物好きだ、金はたっぷり持っているだろうという浅知恵なんだろうが……。
「あの、アレクさんたちのことはいつ知ったんですか?」
「ついさっき、この受付嬢のシシリーちゃんに教えてもらったんだよ」
「シシリー、あなたがしゃべっちゃったの?」
「……うん、ごめんねミア」
シシリーさんという受付嬢は、ミアさんに近づいて謝っている。
どうやら、無理に聞き出されたようだな……。
「おいおい、そんなことはどうでもいいんだよ。
それより、あんたら二人で金貨5000枚、払ってくれるんだろ?!」
……増えてるじゃないか!
こいつら、高ランクパーティーでありながら、堂々と犯罪行為をするとは……。
「ちょっと待ちなさい」
ミアさんが、鋭い視線でクズどもを睨んだ。
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