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キーワードシリーズ

お爺ちゃんの瓢箪と絵画

作者: 秋雨そのは

活動報告にあったキーワード、2つ目!

 ある家庭に飾ってあった絵画があった。


 それは、草原で沢山の笑顔が描かれていて、真ん中にいる2人は、夫婦の様に寄り添って……その腕には赤子を抱えていた。

 周りには祝福する様に、子供が数人……太陽の脇に笑顔の老人が描かれていた。

 そして、赤子の下には……瓢箪ひょうたんが描かれていた。


 その絵画は、見守るように天井近くの壁に貼り付けていて、忙しなく動いてる女性を見ているようだった。


 女性の名前は、浜恵美奈……結婚する直前に、お爺ちゃんが突然亡くなってしまったが……旦那と共に日々幸せに生きていた。

 美奈は毎日忙しない日々を過ごしているけれど、その顔には苦しみや悲しみという表情はなく、笑顔だった。

 そこに1人の男の子が、泣きながら走ってくる。


「ふえぇぇ~!」


「修斗どうしたの? 転んだの?」


「たくとが、おもちゃとった~!」


 美奈は、泣いてる男の子に近づくいて両膝を折って聞くと、男の子は抱きついた。

 それを、美奈は頭を撫でながらも、たくとを呼ぶ。

 呼びかけに答える様に出てきた男の子は、バツの悪そうにして歩いてきた。


「しゅうとがわるいんだよ! おれはわるくない!」


「どちらが悪いかじゃないの、まずは互いに謝りなさい」


「でも!」


 美奈は「でもじゃないの、話はそれから、ね?」と言って、男の子2人に微笑んだ。

 美奈から離れた男の子は、やってきたもう1人の男の子と向き合って「ごめんなさい」「おれもわるかった」と互いに言った。

 そして、階段の方から2人の女の子が走ってきて「おかあさん絵本しらない?」「どこにおいたかわすれたの」と言ってきた。


 それに答えつつも、美奈は絵本を探して……頭を上げた時に天井近くにある祭壇の脇にある瓢箪が目に映ったのか、少し微笑んだ。


 男の子2人は仲直りしたのか笑顔で、外に走っていった。

 女の子2人は美奈と一緒に絵本を探していた。

 そして、祭壇を見ていた美奈に絵本を両手で見せて、笑顔で言った。


「あった!」


「よかったね」


「うん!」


 そう言って、絵本を見つけた女の子の頭を撫でると、元気良く返事して、階段のある方に走っていった。

 それを美奈は笑顔で見守った後、祭壇に飾っている瓢箪を懐かしむ様に手に持った。

 すると、カサッという音が聞こえた……何か物が入っている様だった。


 瓢箪の口を開けると、紙1枚だけ入る様な隙間に白い物が入っていた。


 美奈はそれを取り出すと……それは、亡くなったお爺ちゃんからの手紙だった。

 お爺ちゃんは、死ぬ間際……美奈が病院を訪れる前に、何の中身も入っていない瓢箪の中に密かに忍び込ませていた。

 何故今まで気づかなかったのかというと、旦那から通してお爺ちゃんから「これは祭壇に飾れ、絶対に触れてはならん」といわれ、祭壇に飾る時も旦那が飾ってしまった為、気づかなかった。


 美奈は、その手紙を手に取り……茜色の空が窓ガラスを通して染めていたリビングの椅子に座ると、無言で読み始めた。


 その手紙は、亡くなる前に書いたせいか……ぐちゃぐちゃになっていて、とてもキレイに読める様な物ではなかった。

 だけど、美奈は理解できていた……病院に通い、近くで看病していたためこれが何を示しているのかも。

 素直に慣れないお爺ちゃんを許してくれ、厳しく言ったのは美奈の為なんだと。


 そして最後にこう書いてあった。


『いままでありがとう、美奈』


 最後の文字は、もう字として読めるものではなかった。

 美奈は涙を流していた……何故言ってくれなかったのだと、何故黙っている様に言ったのか。

 自分では分かっていても、もういない……お爺ちゃんに聞きたかった。


 涙を流していると、周りから子供達が歩いてくる。


「おかあさんどうしたの?」


「どこかいたいの?」


 子供達が心配そうに声をかける中、美奈は涙を袖で拭って「大丈夫よ、少し懐かしかったの」と言った。

 そして美奈は立ち上がって、子供達に笑顔を向けながら。


「そろそろおやつの時間ね、昔お爺ちゃんに教えてもらったお菓子の作るわね」


「おかし! やった~!」


 女の子が飛び上がりながら、喜んでいると玄関の方から、ガチャッという音共に「ただいま~」という声が聞こえた。

 美奈は歩いていき「おかえりなさい!」と答えると子供達も同じく言った。

 男の子が「今日はどんな絵かいてきたの?」という質問していた。


 旦那は、絵画を描いていて……リビングに飾られている絵を描いた人物だった。


 旦那は、美奈の持っている手紙を見て、微笑んだ。

 やっと見つけたんだね、と美奈に向けて言って……それを「知ってたなら、教えてくれても良かったのに」と答えていた。

 こういうのは本人が見つけないと意味が無いんだ、と言ってリビングに入っていった。


「今日は何かするのかい? えなが喜んでいる声が聞こえたから」


「昔、お爺ちゃんに教えてもらった、お菓子を作ってみようと思って」


「あ、あれか……本当に、お爺ちゃんって瓢箪好きだよね」


 そう言って、苦笑いしていた……お爺ちゃんは大の瓢箪好きで、保管することはあっても、誰かに譲ったり捨てることもなかった。

 そして、それを上げた最初で最後の人物が美奈だった。

 作り始めようと動き出すと、子供の喜ぶ声と共に、場が賑やかになっていた。


 絵画に描かれた、お爺ちゃんの絵が……幸せな笑顔が一段と増した様だった。

お読みいただきありがとうございます

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