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情熱の武装少年パシオン

『居たよ。絶望だ』


 クロの視線の先には巨大な角の生えた怪物が居た。

 怪物は私に突進してくる。私はただそれを受け入れようとする。

 だが、私の前に来る怪物は横から乱入して来た何かに阻まれることになった。


「俺が来たぜ!」


 そう叫ぶのは全身タイツの上に鎧を纏ったような人物だった。

 肌が露出してる所は無く、顔はおかしな仮面をつけている。


「さて、お嬢さんよ。俺が来たから大丈夫だぜ、こんな夜中にこんな屋上をほっつき歩くのは危険だから


もう二度とすんなよ」


 この絶望の突進はこの騒がしい男の両手によって防がれたようだった。

 だが、言葉の軽さとは裏腹にその男の手甲にはヒビが生え、絶望を押しとどめるのもきつい様子だった



「変身」


 今回私は何時通りに死ぬことは出来ずに、変身をする。

 流石に守ってくれようとしている人物の前で自殺のような真似をしないだけの良識はあった。


「わぉ、もしかしてあんた魔法少女か? なら危険だからほっつき歩くなって言葉もっ撤回しなきゃな。


それにしても他の武装少年に会った事はあったが、魔法少女に会うのは初めてだぜ」


「そう。私も武装少年に会うのは初めてね」


 彼は子供のようにはしゃぐ。

 ただ私はただの守る対象ではないと判断したのか、、それとも限界が来たのか知らないが絶望を弾き飛


ばす。

 反作用によって武装少年も後ろに飛ばされるが、それを利用して少年は体勢を整えた。


「5秒足止めしてくれ。大技をぶちかますぜ」


 その少年の声を聞き、私は蜘蛛の足のような鉤爪を造り出し、絶望の手足や角を捕える。

 また、絶望の後ろから釘の生えた椅子のような物も造り出す。椅子の胸のあたりと足の辺りの部分から


生えた帯が絶望の胸と足を捕え、絶望を無理やり座らせる。


「うっひゃー、恐ろしいな。だが、準備は出来たぜ」


 彼は中腰になって構えていた。

 そしてその右足には赤く、赤く燃える炎が宿っていた。

 彼は絶望に向かって走り始める。そしてそのまま飛び上がり、ドロップキックのように右足を突き出し


た。

 おそらく力を右足に集中し、力を高めたのだろう。

 他の場所の防御力は減るし集中力も使うが、それに見合った力は生み出せるようだ。

 その攻撃は絶望だけでなく、私の魔力で作り出した物も貫通する。

 彼はそのまま膝を上手く使って滑り続けながらも綺麗に着地する。それと同時に絶望の中にある彼の魔


力が膨れ上がり、爆発した。

 だが、これは少しまずいかもしれない。


「やりすぎじゃない? 中の人が生きてたら死ぬわよ」


『問題なか。こやつの焔は感情を焼き、生者は焼かん』


 私の疑問に答えたのは彼自体ではなく、何処から現れたのか、彼の方に乗っている蜥蜴だった。

 半信半疑ながらも元々炎が燃えてた場所を見れば、スーツ姿の男性が横たわって気絶していた。

 頬はやつれているが、傷は無く、命に別状はなさそうだ。


「便利ね。私も欲しかったわね……」


「おうよ。それより嬢ちゃん怪我は無いか?」


「問題ないわ。それで私は絶望の魔法少女デスペアのりか」


「俺は情熱の戦士、武装少年パシオン。熱い俺の魂が、力が必要なときは何時でも俺を呼んでくれ!」


 彼は私が絶望の魔法少女だと明かしても態度を変えなかった。気にした風ですらない。

 ただ私以上に空気が読めないのか、どんな相手だろうと態度を変えない男なのか。出来れば後者が良い


が、私にはまだこいつの性格がつかめてなかった。


『絶望に立ち向かう感情が絶望か。これはまた奇怪な道を選んどるのぉ』


「あなたは絶望で戦うことには反対しないのね」


『せやな。儂自体が絶望の武装少年として契約することはあらへん。やけども否定する気もあらへん』


『実力主義なのは相変わらずだね』


『おまえさんは変わったの。若い頃はもっととがっていたんじゃきの』


『何で君は同い年なのにそんな爺臭いしゃべりなんだ……? 話しづらいよ』


 ふぉふぉふぉと笑う蜥蜴とクロを置いといて私は再び臨戦態勢に入った。

 見ればパシオンも同じく臨戦態勢に入っている。

 最近はこんなことが多いと考えながら私はちらりとパシオンを見た。


「連戦か、熱いな」


「どこが?」


 パシオンはナックルを手に着けると左右の拳をぶつけ、そのまま臨戦態勢に移った。

 そして一瞬だけ体から炎を吹き出す。どうやらそれが戦闘前の癖らしい。

 だが、私にはそんなのは無い。手を前に突きだし、魔力を集めやすくしながらただたたずむ。

 そんな私たちの前に黒い筋肉のを纏ったような化け物が姿を現した。





 パシオンと出会ったその週の土曜日。

 私は待ち合わせをしていた。

 相手は莉里だ。彼女と出会ったあの日、私は勢いに押されてそのまま連絡先を交換した。

 そしてそのまま押し切られる形で一緒に買い物に行くこととなった。


「乃梨花さんすいません。遅れました」


「いえ、まだ時間には余裕があるし問題ないわよ」


 彼女は今日はとても現代人らしい服装をしていた。

 ショートパンツにボーダー柄のTシャツ、カーディガンにニット帽。

 それに対して私は制服。

 私にはおしゃれのセンスが分からなかった。何を着れば良いのか分からない。その点、制服は良い。

 全員が決まった格好をするからセンスなど関係ないのだから。

 この話を親友にしたところ滅茶苦茶怒られたが。素材が良いのだからもっとおしゃれをしろと。


「では、乃梨花さんどこに行きましょうか?」


「どこでもいいよ。莉里ちゃんの好きなところで」


「分っかりました。では、私の鉄板コースで回りましょう」


 彼女は元気にショッピングモールの中に入っていく。

 私はただ無表情に彼女に着いていった。

 ……いや、私は多分ニヤケてるような気がする。

 彼女はとても優しかった。それで居て勘が良い。

 多分彼女は私の闇に気がついている。そしてだからこそ私に構う。だが、直接触れずに何とかしようと


してくれている。

 だからこそ彼女と居る時間はとても心地よく、私は甘えてしまう。


「乃梨花さん。この服はどう? 魔法少女の時は黒いイメージだけどこの赤い服も似合うと思うんだよ」


 彼女が差し出したのは赤いワンピース。

 だが、その服には袖が無い。それでは私の腕にあるリストカットの傷が見えてしまうだろう。


「ごめんなさい。ちょっとあまり肌を出したくないからこういう服はちょっと」


 彼女は頭を軽く傾け、何かを考える。

 それはそうだ。

 私の来てる制服は冬服なのだが、上半身は手首までみれないが、スカートを穿いていて、靴下も短い。


そのため、足はかなり露出している。

 その恰好で露出したくないとは訳が分からないだろう。しかし、彼女は何かに納得してように再びこち


らに目を向ける。


「そっかぁ、ならちょっと待ってて。別の服を持ってくるよ」


 次に差し出された服は赤と黒のチェック柄の服だった。

 その後も色々と選ばれ、気がつけば数万円の買い物をする事になっていた。

 元々趣味も何もないので生活保護のお金は溜まっている。なので問題は無かった。


「ごめんね。ちょっと盛り上がりすぎちゃった」


「大丈夫。ありがとうね、服を選んでくれて」


 現在は彼女と一緒にお昼を食べている。

 お昼はいっぱい買わせすぎたから奢ると言われ、フードコートにいた。

 ただ、私は一日に二食しか食べないこともあって食が細い。今回頼んだのも某ハンバーガーショップの


一番安いハンバーガー一つであった。

 彼女には遠慮するなと言われたのだが、すでにこれ以上食べられなかった。だから遠慮も何も無いのだ


が、彼女には信じてもらえなかったようだ。


「親御さんに怒られない? 大丈夫」


 いくつか話題を経て、現在の話題は買いすぎた物に対してだ。

 どうやら高い出費であるためにそれを心配しているらしい。


「大丈夫。親は居ないから」


 そう話した瞬間に彼女の顔が固まる。

 確かにこれでは両親が死んだと誤解してしまうかもしれない。だから私は言いなおす。


「別に死んだ訳じゃないよ。父親は牢獄、母親は別の男とどこかで生きてるから。それも幼稚園の時の話


だし、記憶もない。それに、それからは生活保護や様々な家を転々としてたから生活には不自由してない


よ」


 そう言ったら何故か彼女は泣きそうになる。

 何かを言おうとしているのが言葉に出来ないのか口を開き、そして閉じるを繰り返していた。

 こんな時はなんと声をかければ良いのか、私はその答えを持ち合わせて居なかった。


『ごめん。近くに絶望が現れた』


 クロが近くに来てそう言う。

 謝るが、それは私にとっての救いだった。

 この苦しい空間にいなくとも大丈夫。そんなことを考えてしまっていた。


「乃梨花さん。私はあなたにかける言葉は見つからなかった。けど、この世界は苦しいことだけじゃない


。私じゃなにも力になれないかもしれないけど、私が居る。きっと乃梨花さんの力になりたい人も居る。


だからそんな悲しそうな、諦めたような事を言わないで。希望はきっとあるから」


「ありがとう……、莉里。先に行く」


 全く、絶望を知らない小娘が言ってくれる。

 諦めたような事を言うな……か。

 そうだった時期もあったけど、それは無駄だった。苦しいだけだった。だから私は諦めることで苦しさ


から解放された。

 だから希望など抱かせないでくれ、絶望のままで居させてくれ。


「変身」


 走りながら私は黒いドレス姿になる。

 そして目の前に居るのは蛇にたくさんの目があり、5枚の羽がある異形の絶望であった。

 私は苛立ちをぶつけるためにいつもの様にわざと死ぬことはなく、いきなり異形の首に刃を落とす。

 それで終わりだ。いつもの様に一撃で終わる……と思っていた。


「えっ……?」


 だが、刃は数センチささった程度で止まった。

 特別堅い個体だったのかもしれない。そう思って今度は人間を串刺しに出来るほどの長さを持つ杭を生


み出し、投擲する。

 それも翼に防がれ、虚しく地面に落ちた。

 次の瞬間、私のおなかに何か鈍い衝撃が走る。

 見れば奴の尻尾がお腹を貫通し、そのまま内蔵を押し広げるようにぐりぐりと動かしていた。

 遅れてくる痛み。

 その痛みに耐えきれなくなって思わず叫び声を上げる。

 そのまま尻尾を振り回され、何度もどこかに叩きつけられた。


「助け……て…………」


 思わずそう口にしていた。

 今度は顔を貫こうとしてるのか、鋭い舌が伸ばされる。

 死ぬ。やだ、私が死んだら莉里が……。


「大丈夫。私が居るから!」


 舌は刃の様に薄く、鋭く引き伸ばされた魔力弾で断ち切られる。

 そして、彼女はそのまま何発もの魔力弾を撃ち、そのまま絶望を弾きとばした。

 その衝撃で私のお腹から尻尾が抜け、体を支えるものを失った私は地面へと倒れそうになる。だが、そ


うなる前に莉里。ポープリリィとなった彼女に受け止められた。


「大丈夫!? 乃梨花ちゃん!」


 私のお腹に目をやって動揺する。

 そして必死に流れ出す血を止めようとお腹を押さえる。

 おかしい。何故いつまで経っても再生しない?

 いや、してはいるのか。だが、その動きがとても遅い。


『君の魔力を乃梨花に流すんだ。乃梨花は再生能力に長けた魔法少女。魔力さえあればそのぐらいなら何


とでもなる』


 莉里はクロに言われた通りに魔力を私に流す。そして瞬く間に再生がはじまった。


『乃梨花は自分が見てる。だから君は絶望を倒してくれ』


 少しの迷いを見せたが彼女は力強く頷くと背を向け、起き上がってきた絶望に目を向けた。


『どうやら希望の魔法少女は思っていた以上に君に影響をもたらしていたらしい』


「どういう……こと?」


 まだ傷は全快ではない。

 もらった分の魔力では血も体力回復してはいなかった。

 だから首だけをクロに向けて話を聞く。


『言葉通りの意味さ。彼女は君に影響を与え、希望を示してしまった。きっと君は彼女と一緒にいて救わ


れる思いだったんじゃないのかい?』


 否定しようと思った。だが、口が動かない。

 きっと血を失いすぎた所為だ、そうに違いない。

 だって私は絶望してなきゃならない。それが私の唯一の……。


『一人の魔法少女がいなくなるのは悲しいが、前任者みたいに死んでしまった訳ではない。だから自分は


嬉しいよ。絶望するしか人を救う方法が、人と関わる方法が無かった君が希望を見つけてくれたのだから



 言わないでくれ。

 クロ。それ以上言ったら私は……。


『これで人類は絶望に勝てると改めて思うことが出来たよ。君には頼もうと思っていたことがあったが、


君が希望を見つけたとしたらそっちの方が良い』


 私は……。


『君は晴れて魔法少女卒業だ。だけど君と一緒に居るのは楽しいからもうしばらく君の近くに居させても


らうよ』


 黒いドレスは魔力となって散る。

 それが意味することはなんとなく分かった。

 私はもう絶望していない。魔法少女となれるほどの感情の強さを失ってしまったのだ。

 私に許された人のためになる唯一の方法が絶望と戦うこと。また、それが私の親友に対する贖罪でもあ


った。

 それが失われたというのに私は絶望していなかった。

 涙が溢れてくる。

 だが、それも悔し涙ではない。


「なんで? ……止まって。絶望しなさいよ、私!」


 何でだ。

 絶望しなければならないのに喜んでしまう。


「変身! 変身! 変身!」


 何度も叫ぶ。しかし一向に姿が変わることがない。

 脳裏に浮かぶのは莉里の姿。

 その姿に安心感を覚え、絶望する事が出来なかった。


主人公が嬉しいと思っているのに絶望したような書き方だなぁ()

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