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2014年/短編まとめ

インクジェット紙と馬鹿な子

作者: 文崎 美生

年賀状は幼い頃から全て手書きと相場が決まっておりました。


印刷なんて不要、というか邪道。


お気に入りの無地のシャーペンで下書きをガリガリ。


それを覗き込むのは友人。


「ねぇ、何でミッチョルのハガキは擦れないの?」


いつも思うのだけれどそのあだ名は如何な物だろうか。


センスの欠片もない。


むしろ少し痛々しい気がしなくもないのだが。


「……それは普通のハガキだからかな」


一瞬だけ考えるように手を止めて彼女を見た。


くりくりした小動物みたいな目が私を映している。


そして首を右に傾けた。


うん、これは分かっていないということだな。


シャーペンを一度回してハガキを出せ、と言えば彼女は自分の席からハガキの入った袋を持って来る。


コンビニで普通に売っているもので、薄いビニールにくるまれているそれ。


その薄いビニールに貼られたシールには『年賀はがき(インクジェット紙)とか書かれている。


やっぱりな。


ドス、とシャーペンの消しゴムがついている方で彼女の手の甲を押し潰した。


グリグリと力を込めてめり込ませれば半泣きで聞こえる抗議の声。


アホなのか、この子は。


「インクジェット紙って書いてんじゃんか」


シャーペンを退けてハガキを手渡す。


受け取れば素直にそれを見つめる彼女はやはりどこか抜けていると思う。


終いには「インクジェット紙って何?」と聞いてくる。


アホなんだ、この子は。


元々インクジェット紙は印刷に適した紙としてあるのだから、それに鉛筆やら何やらで書こうとするのがある意味勇気ある行動なのだ。


擦れて当然当たり前なのだから。


消しゴムを使わずに一筆書きなら問題ないが、私のように。


「へぇー……」


自分から聞いてきた癖にこの興味のなさそうな返事。


左手を強く握りグリグリのその頭を潰すように上から圧をかけていく。


痛い痛い、と喚く彼女の声を聞きながら書きかけの年賀状を見つめる。


インクジェット紙って書きにくいんだよなぁ。


そんなことを思って喚く彼女を見て溜息。


やっぱり年賀状は手書きでしょ。


一年の始まりの挨拶だもの。


「まぁ、お嬢さんは先ずインクジェット紙と普通のハガキの区別からだけどねぇ」


馬鹿な子ほど可愛いとはよく言ったものだ。


シャーペンをしっかり握った私はまた、年賀状と向き合うのだった。

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