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お姫様と軍人さん  作者: 塵芥
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お姫様と将軍様

出陣前夜です。

「中軍に配属されたものは集合しろ!」


士官らしい人が大声で参集を指示する。


「にーちゃん行こうぜ」

「ああ」


コルツに声を掛けられて気を引き締めて集合場所に向かう、が周囲を見渡すとダラダラと足を引きずりながら歩いている。


東条閣下あたりがこれを見たら発狂しそうだ。東条閣下じゃなくても指揮官なら鉄拳制裁已む無しだと思う。俺?ほら俺は学徒あがりだから。古参兵相手に鉄拳制裁なんてしたら寝てる間に海に捨てられちゃうからやらない。


「将軍からの訓示である!」


さっきの士官だろうか?努めて厳粛そうな声を出すが軍は弛緩しっぱなしで欠伸をする者さえいる。本当に大丈夫か?


「あー皆、楽にの」


弛緩してる雰囲気そのままのような声が前方から聞こえてくる。スベエタイ将軍なんだろう。人壁で全く見えない。どこか高いところから話せばいいのに。


「いつもの通り戦って、いつもの通り追い返して、いつもの通り飯食って寝るとしよう。はい訓示終わり」


はあ?これが訓示?まあ無茶口みたいに延々と貧血になるまで話されても困るけどさ。


どっと笑い声が上がる。隣のゴーリキさんも笑っていた。笑いが引くとすっと場の空気が変わる。兵たちの口元には笑みが残っているがどちらかと言えば猛獣が舌なめずりするような笑みだ。寒気がする。


笑いとは本来攻撃を表すとかなんとかどこかで見た気がする。見てないかもしれないけど。弛緩していた空気が張りつめたものになる。そしていずこから足を踏み鳴らす音が聞こえた。


ザッ!ザッ!ザッ!どんどん音が大きくなる。全員が足を踏み鳴らす。

先ほどののんびりした声が再び聞こえる。のんびりしてるのに足音を切り裂いて声が届く。


「よし勝つぞ」


「おおおおおおおおおおおおおお!!」と喚声があがる。うわっ鳥肌がたったわ。すげえ。戦闘民族かよ。


スベエタイ将軍の訓示が終わり、武器と防具、携帯食料が配られた。武器は剣か。切れ味は悪そうだな、日本刀と比べる時点で間違ってるか。


国民学校時代から武道の教練はあったが撃剣(剣道)は全くと言っていいほど上達しなかったなあ。柔術(柔道)もだけど。


第一戦隊時代にふと思い立って大和の甲板で木刀を素振りしていたことがあったけどさ。『貴様!佐藤か!?』の声に振り向いたら有賀艦長が立っていた。『いっちょ揉んでやる、打ってこい』と言われてひどい目はあったわ。


なにしろ全中日本一の腕前の有賀艦長である。ぼっこぼこにされて死にそうになった。翌日艦橋で有賀艦長とすれ違うときにまたやろうやとニッと笑われた時は海に飛び込んで逃げようと思ったくらいだ。


そういうわけで戦闘中はなるべくゴーリキさんの後ろに隠れていようと決意を新たにした。




身だしなみを整えると総大将の閲兵があった。一際高いところに立っていたのはあの残念美人のボルティ姫だ。


まじまじと見ると若干の幼さを残してはいるがやはり綺麗だ。綺麗だが濃い茶色の長い髪と派手な鎧はなぜかアンバランスに感じた。


身長は五尺ほどとそんなに大きくない。細見だが手足は鹿のように軽やかで敏捷性の高さが覗える。


「カラがまた国境を侵さんとしている!このおまえらの大地をだ!」


高くもなければ低くもない。いい声だ。あたかも詩を吟じるが如く言葉を紡ぐ。


「国境から王都まではたったの200里、突破されればおまえらの大地は蹂躙されてしまうであろう!それでいいのか!?」

「否!否!否!」


姫の言葉に兵が応じる。意気軒昂だな。姫の口ぶりから察するに支那里か。100kmなら国境から2日もあれば王都に到達するな。


「ならば我ら大地を護る鬼となり敵を打ち払わん!」

「応!応!応!」


あの残念姫だとは思えないほど凛々しい。やはりそこはさすが王族か。


「右軍ボール将軍、中軍スベエタイ将軍、左軍チラウ将軍!現場の指揮は任せる!存分に戦え!」

「「「はっ!!」」」


「我は中軍後方に本営を構え全軍を統率する!出陣は明朝とする、それまでに鋭気を養え。解散!」



***************************************************



夕食を済ませ軽く酒を飲んで気分を落ち着ける。


「姫様かっこよかったよねー」


バトゥがほんわかと思い出すように話す。バトゥ、キミは騙されてるぞ?あれはよだれ姫だ。


「姫様は王族なのですか?」


念のためにゴーリキさんに聞いてみる。ゴーリキさんは脳筋だと思ってたら従軍経験も豊富で頼りになる人だった。


「ああ、国王様の長女だな。兄君は頭は良いがあまり体が強くない。妹姫様は昔から狩りを好むやんちゃな方だったからこういう大きな戦では老齢の国王様に替わり大将を務められるのだ」


なるほどね、兄妹仲が良ければほぼ理想の体制だね。女だてらって言葉もあるけど巴御前のようなものかね。


向こうでは「初陣で腕が鳴るぜ!」と素振りをして無駄に体力を使っているコルツがいる。脳筋だな。


「敵は3倍と聞きますが勝てますかね?」

「スベエタイ将軍の歩兵3千が敵を食い止め、その間に右軍左軍の騎兵4千が迂回して敵の背後から襲い掛かって終了さ。うちの勝ちパターンだ」

「3千で3万を抑えられるのですか?」

「もちろん長時間は無理だが半時辰くらいなら大丈夫だろ、なによりカラの兵は鈍重だ」


ふむふむ。しかしゴーリキさんの口ぶりから判断すると今までカラもウルスも1パターンのやり取りをしてるらしいな。負けが込んでるカラが対策して来ないのだろうか?アホしかいないのかねえ。


思案しそうになった頃に寡黙なウスラさんが「寝る・・・」と言ったので寝ることにした。



明日はたくさん歩くことになり・・・そう・・・だ・・・Zzz・・・


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