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お姫様と軍人さん  作者: 塵芥
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帝国軍人斯あるべし

前話から1か月。大分馴染んできました。もう少しくだけた感じにしたいです。

姫様?まだ出てきません、そうですタイトル詐欺です。

「にーちゃん、うちのとーちゃんが足を捻ったみたいだから見てやってくれよ!」


コルツが朝もはよから小屋の戸を叩く。うっせーな・・・もう少し寝かせてくれよと言いたいところだがよそ者の俺がそんなこと言ったら追い出されそうだから仕方なく戸を開ける。うんうん帝国軍人たるものこうでなくてはね。


「いててて・・・すまんねサトー。大したことないって言ってるのにサトーに見てもらえってコルツがうるさくて」

「いえいえ、こういうのは初診が大事です。骨になにかあったら一生ものですからね」


この村に来てから1か月。非力な俺は伐採作業も足手まとい。狩りなんて問題外。放牧させれば羊が逃げ出す始末。役立たずの天然色見本なわけだが・・・俺は頭脳労働専門なんだよ!


1つだけ役立ちそうなことがあった。薬草である。故郷の裏山で小さいころから野草について爺さんにいろいろ叩き込まれたんだよね、これが。


「骨まではイッてませんね、捻挫です。少し待ってくださいねー」


ネムノキの葉を日干ししたものに水を加え果汁を混ぜて患部に塗る。薄い布にネムノキの葉を入れてそれを水に浸して患部に付けるよう指示する。


「しばらくは動かさないでくださいね、痛みと腫れが引いたらもう一度来てください」

「サトーが来てから助かるわ、ありがとな!」

「にひひ、にーちゃんまたな!」


と、言うわけで薬剤師もどきということで自分の居場所をなんとか確保した。


そしていろいろと情報を整理していたんだが・・・

なるほどわからん。神隠しにあったとしか言いようがないのだ。元々死んだ身、故郷の家族のことは心配だがここで村の人たちとのんびり暮らすのもいいかもしれん。最近はそう思うようになっていた。


(さてと、森へ薬草でも取りに行くかね)


腰を上げるといつも小屋の前で待ってる奴がいる。


「サトー!森に行くんでしょ?一緒にいこっ」

「あ、あぁ・・・」


イリヤである。なぜか懐かれてしまってる。妹に面影を重ねてしまってこちらもついつい許してしまう。


「今日は何を取るの?」

「ヨモギがほしいな、村長が腰痛っって言ってるし」

「はいはーい」


万能薬ヨモギはどれだけあっても困ることないしね。古くから血止めとして知られてるし、肩こり腰痛はお灸として使えるし。


*******************************************


3時間ほど森をまわって籠一杯のヨモギを採取。うん、これで日干しが捗るな。


「ねえねえ、サトーはずっとこの村にいればいいよ!」

「そうだなあ、もう戻れそうにもないしそうしようかな」

「ほんとに?絶対だよ?絶対!」


イリヤが嬉しそうにピョンピョン跳ねる。うんかわいいかわいい。そういや妹の辰子もうれしさを全身で表現してたな・・・どうしてるかな・・・


そう思いながら村に戻るとなんか雰囲気がおかしい。守衛のモンケさんに何かあったか聞いてみる。


「王都から役人が来てるんだ、多分徴兵だな、こんな辺境の村まで割り当てが来るって・・・やだやだ」

「戦争があるのですか?」

「ウルスは小国だからな。隣接してる南のカラや西のラームからはいつも従属を迫られてるんだ」

「そうですか・・・困ったものですね」


やっぱり人が集まり、国が出来ると戦争があるんだね。どこか他人事のように考えてたけど、そういや日本にいた頃は戦争のことばかり考えてたな。いやいや、歴史を学んでいたら自然そうなっちゃうんだよ、ほんとだよ。しかも戦時中だったし。


役人が帰り、村長が村民を招集する。


「王都からの徴兵の命令だ、5人出さないといけない」


は?人口の10分の1に割り当てとか頭大丈夫か?大東亜戦争で敗色濃厚だった日本でさえそんなに徴兵してないぞ?歴史上は・・・そういや三国志演義で蜀の最終国力が人口100万で兵士10万って書いてあったな。

演義だけど。フィクションだけど。まああれは戸籍管理が出来てない時点で推して知るべしだけどね。


「まず家長と跡取りは残さねばならんな」


うん、当然だ。この村が成り立たなくなる。そうなると次男三男と・・・


うんまあなんだ、一番いらない子の・・・


「じゃあ私は行きますよ」


俺だね。腐っても元軍人だし。腐ってるけど。一宿一飯どころかこの村の人たちはよそ者の俺を迎え入れてくれたし。やっぱり恩義を果たしてこその日本人だよね。


「いいのか?あんたは言うなればこの村に義理なんてないじゃろ?」

「義理なら多く頂きました。あのままだと私は間違いなくオオカミの餌でしたよ」

「そうか・・・すまんな・・・」


うん、いいんだ、どうせ一度は捨てた命だ。恩人に返せるのならそれでいい。帝国軍人斯あるべし。


「にーちゃん行くなら俺も行くよ!」

「そうだねー僕も行こうかな」


コルツとバトゥが声をあげる。確かにおまえらは次男だけどさ。遊びじゃないんだぞ、戦争だぞ?


「俺らならにーちゃんより強いし!」

「ねー?」


ちっ・・・うっせーな・・・確かにそうだけど、おまえらの両親が心配するだろうが。


「よし、おまえらよく言った!」

「とーちゃんの代わりにがんばってきてくれ!ただし死ぬなよ!」

「「おう!」」


おいおい・・・確かに俺らもそうやって送り出されてたけどさぁ・・・もう少し考えたほうがいいんでないかい?


「わたしも行く!」


ちょ!おまえはダメだろ、いくらなんでもダメだろ!と思ってたらさすがにイリヤはダメって怒られてた。なにしろ「男5人」という話だからな。それでも泣きながら男装するとか無茶苦茶言ってさらに怒られてた。


「ぐすっ・・・サトー・・・無事に戻ってきてね・・・」


ああ、こんなとこまで妹に似てるよ・・・ごめんな、戻れなかったあんちゃんで・・・でも今度は戻れるように努力するよ、特攻なんてもうしないよ。


「ああ、わかった、ちゃんと戻ってくるよ」

「にーちゃんのことは俺に任せておきな!にひひっ」

「ちゃんと連れて戻るから大丈夫だよ~」


え?俺が守られポジション?まあ確かに俺は弱いからな。あと相変わらずバトゥは癒される。もちろん男色じゃないからね。残りの2人は力自慢のゴーリキさんと狩人のウスラさんになった。うんうん頼もしい。


その夜はささやかながら壮行会をしてもらった。みんな涙は見せなかった。イリヤは無理やり笑っていて泣き笑いになっていた。うんかわいいかわいい。言っておくけど保護者的なかわいいだからね。言っておくけどさ。




翌朝、久々に帝国海軍軍服を着た。おかしいのは重々承知。だがなにより気が引き締まる。軍刀を腰に下げ、いざというときのために拳銃もしまう。


門前でみんなが見送ってくれる。王都までは徒歩で1週間、手弁当で来いとかないわー


コルツのお母さんとイリヤが保存食をくれた。本当に頭が上がらない。守衛のモンケさんががんばってこい!と激励してくれる。イリヤが目に涙をためて見送ってくれる。忘れかけていた責任感と使命感が蘇る。門を出て振り返る。大きな声でみんなに言う。



「行ってきます!」

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