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ルナの冒険   作者: 星羅
1/1

1話1章 ~笑顔~

はじめまして!

星羅と申します( *´艸`)

処女作ですのでつたない部分があるかもしれませんが…

興味がおありでしたらどうぞ読んでください<m(__)m>

感想お待ちしてますーっ♪

http://blogs.yahoo.co.jp/seira_runanoboukenn_421

~序章~

ここはエストレア王国。

作物は豊かに実り、自然が美しいこの国は世界でも有数の平和な国である。

代々王族が民を魔法の力によって統治していることでも有名だ。


そして現第15代の王には2人の息子と1人の娘がいた。

母親である王妃はすでに亡くなってしまっていたが

この者たちは誰もが羨むような幸せな生活を送っていた。



…そう、あの事件が起こるまでは。




~1章~笑顔~

「光があるところには必ず影がある…。そのことを決して忘れないこと。それから…」


…その後の言葉は忘れてしまったけど、

亡くなったお母さまは私によくそう言っていた。


でも私はそうは思ってない。

だってこの国はとっても平和で犯罪もとても少ないもん。


光のようなこの国に、影なんかないと思う。

国民はみんな優しいし、食べ物も美味しいし…

なにより私のお父様、お兄様、そして弟が毎日、国のため、民のために毎日一生懸命だもの。

国を統治するための魔法の力を高めたり、難しそうなことを話し合ったり

本当にいつも忙しそうでだこと。

私と遊ぶ暇もないんだから…。


一応姫である私、3人の役になりたいけど…何もできないのよね。

これじゃあ、可憐な姫君失格だわ。

まあ、いつかは3人と力を合わせられる日がくると思うし。なんとかなるよね!


私は自分の部屋の窓の横にある椅子に座り、

城下にある素晴らしい我が国を眺めながら穏やかな風に吹かれていた。

まあ、今はもう夜中の10時だから暗くてほとんど見えないのだけれど。

小さな明かりは町を照らしている。

なんて気持ちいい風でしょう。夜風って病気になるって言うけど

こんなに気持ちいいなら別に少しくらいいいかなって思っちゃう。


「ルナ様、失礼いたします。」

美しい声がし、ノックとともに入ってきたのは侍女…というか

私のお世話係やお目付け役でもあるレイヤ。

レイヤは小さいころからの幼なじみなのだけど、

家が貴族で親に言われたからなのか、最近は昔みたいに「ルナ」って呼んでくれなくて

…ちょっと寂しいわ。


また、レイヤは長い黒髪の美人で、女の私でもうっとりする。

金髪で癖っ毛のこの髪を持つ私の永遠の憧れよね。


そんな私の気も知らないでレイヤは続ける。

「ルナ様、今日はもう遅い時間でございますよ。そろそろ眠られた方がよろしいですわ。」

と、笑顔で窓を閉める。

夜風にあたるのも毎回やめてくださいと言っているのに

…と、いつもの口癖。

その素敵な微笑みと妙な迫力に押されそうになる。

い、いいえ!…今日はそういうわけにはいきません!


「私、今日はどうしてもやらなくてはならないことが…。」

決意を込めて強い口調で、レイヤの目をまっすぐひたすら見て目で訴えた。

レイヤは数秒私の目を見て

それから「ああ、成程」というようにうなずきました。

嫌な笑い方。まるでパズルが解けた子供みたい。


「では、あまり遅い時間になりませんよう、ご注意をしてくださいませ?

…喜んでもらえるといいですわね。」

最後の言葉はいやにバカにしているように聞こえる…。

まあ、悪意はないのだろうけど。無意識のうちに私をいじめるのを楽しんでる…?


レイヤは再び部屋の中をぐるりと見回し

あるものを見つけ、追い打ちをかけるようにクスリと笑った。


「な、なによ!言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ!」

思わず顔が赤くなる。もう!この意地悪…。


「ハッキリ、申し上げてよろしいのですか?」

「え、ええ!もちろんよ。そのように意味もわからず笑われるのは不愉快だわ。」

「そうですね、申し訳ありませんでした。

明日はルナ様のお兄様であるヒカル様の20歳の誕生日でもあり王位継承の日。

きっとルナ様もお祝いのプレゼントを考えている。

でも恥ずかしがり屋の姫様はわたくしにそれをいうのが嫌なのでしょう?

だから内緒にしようとしてるのですかね?すみません、もう分かってしまいました。」


何も、言い返せない…。

「プレゼントはそのベッドの下に隠されている。その黄金の剣といったところ。

先日、特別に職人に作らせていらっしゃりましたし。ヒカル様は剣をお持ちにはなりませんけど

お守り代わりにとお渡しになるのですか?

…きっと、ヒカル様もお喜びになりますね。」


そうよ!どうしてそこまで詳しくわかるのよ。

17にもなってそんなことをするのはやっぱり幼稚かしら。

…全部図星さされて、私はそっぽをむいた。


「わかりますとも。ほかならぬルナ様のことですから。

そしてそんなルナ様の様子を見てつい、楽しくなり笑ってしまったのですよ。」

ベッドを整えながらいつもどおりほほ笑む。


私だってレイヤと8年間過ごしているのに。

どうしてそんなに私のことがわかるのよ。


頬をふくらましてレイヤを見る。

しかし、

「では、わたくしは仕事の続きがありますので。

どうぞ、ごゆっくり。」


レイヤったら言いたい放題で、出て行ってしまった。

まったく、敵わないわね…。

でも、負けっぱなしなんて絶対にいやよ。

いつか私がレイヤに言いたい放題言ってやるんだから!


あ、でも!

さすがのレイヤもこれには気づかなかったでしょうね。

私は椅子から降りてそしてドレッサーのからペンダントを取り出した。

月と太陽がかたどられている。これは王位継承の儀式に欠かせないものなの。

丸い円盤上で、金色をしているから

部屋の電気の光を浴びてキラキラしていて本当にきれい。


真ん中にはめてある石は魔法石。

魔法石というのは、石ごとにある一つの魔法の力を蓄えることができる、希少なもの。

炎の魔法を教えればこの透明な石は赤く、水の魔法を教えれば青くなるらしいわ。

透明なままだから、これはまだ何の価値もないのだけれど。


その魔法石のなかには太陽と月の模様。

端っこには周りを囲むように5つの透明な小さな石が埋め込まれている。

神秘的な形で見ているだけで吸い込まれちゃいそうだわ…。


そんな素敵なペンダント。

実は私、これをこっそりと持ち出してきたの。

だって、ただプレゼントを渡すだけではつまらないじゃない。

だから私が考えた方法は0時の鐘と同時に渡すこと。

そしてプレゼントを渡すとき、私が首にこのペンダントを掛けてあげること。

お兄様のきれいな黄金の髪にきっと似合うわ!

我ながらロマンチックで素敵な考え。

レイヤが「ヒカル様もお喜びになりますね。」

って言っていたけど喜ばせるだけなんてつまらない!

驚かせちゃうんだから!


そして、私はペンダントを箱にしまい、ベッドの下から剣をとりだして見つめた。

もちろん、私は剣なんて使えないから鞘から剣を出したりはしない。で

も、お兄様は剣術に優れてらっしゃるからピッタリのはずなのよね。


だけど…きっと使わないだろうな。

いいえ、使えないといったほうが正しいわ。


だって、お兄様はとても優しいから。

優しいのは良いことだと思うんだけど、国を治めるには少し優しすぎるのではないか

と大臣たちが話すのを最近よく耳にする。

王様は時にはとても辛い判断をしないといけないらしいものね。

犬一匹、いいえ、虫一匹ですら殺すのを嫌がるお兄様は大丈夫かと

…大臣たちの噂で少しだけ私も心配になったの。


本当はまだ王位継承の儀式は早いのよね。

お兄様は明日やっと20歳。

権利はあるとはいえまだまだ若すぎるし、政治のことだって学んでいる途中。

ただ、お父様の調子が最近よくないらしいから。

早めに王位を譲ってお父様に教えてもらいながら政治を行うそう。

お兄様、無理しないといいのだけど。


そうよ!お兄様のため、国のために私もお手伝いしなくては!

とは言ってもきっと私は頼りにはならないんだろうな。

今ですら何もできていないもんね。


でも私たちには弟がいるから大丈夫!

弟の名はユエ。

意地悪で不器用なところもあるけど、賢く、凛々しい立派な弟…。

きっと3人で力を合わせればきっとこの国はますます繁栄することでしょう。


私も2人の役に少しでも立てるようにならないと!

その前に乱暴でおっちょこちょいなところを直して素敵な姫になろうっと。

可愛さだけでは勝負には勝てませんものねえ…。


「お兄様、喜んでくれるかしら…?」


そんな風に今日の計画を再確認しつつ、

また考え事をしながらベッドに少しだけ横になる。


久しぶりにこんなに頭を使ったから眠くなったわ…。

「5分だけ…。」


―☆―☆―☆―☆―☆―


そして気がつくといつの間にかすっかり眠ってしまったよう。

時計を見るとあと5分で0時…。


た、大変!

これほどの計画が水の泡になってしまう!

ここから部屋までは走っても3分ほどかかるわ…。


私はプレゼントと時間をきっかり揃えた時計を持ち

慌てて部屋を飛び出す。


バターンと扉が豪快にしまる音が私のいる階全体に響き渡る。

プレゼントの箱はしっかり手に持ち、ペンダントは首元に下げた。


けど…

ああ、もう私ったら!

また乱暴なことをしている。


私は、ついさっき素敵な姫になろうと決意したばかりなのに。

自己嫌悪…。

隣の部屋のレイヤを起こしてしまったかもしれないわね…。

ごめん、レイヤ!


レイヤの怒った顔も怖いけど。

でも、今はこっちに間に合わないほうが大変!


階段を最上階まで一気に上りきる。

今日、お父様とお兄様はこの書斎といわれる本がたくさんある部屋にいると言っていたわよね。

あまり私の部屋から遠い部屋でなくて本当によかった。

間に合わなくなるところだったもの。


私は荒くなった息を深呼吸して整える。

体力、もう少しつけましょう…。


秒針を確認すると10秒前!

せ、セーフ!


そしていよいよ、カウントダウン!

お兄様が喜ぶ姿や二人が驚く姿を想像してわくわくしてしまう。


「5、4、3、2…」


秒数が少なくなるにつれ

カウントダウンする声もどんどん大きくなってきてしまう。


「1っ!」


その時・・・下の階で

誰かが私を呼ぶ声が聞こえたような気がしたのだけど…。

今はそんな場合じゃないもの。


私は時計の短針が動くのをみてすぐに目の前の重々しい扉を開けた。

そして部屋に入って声を張り上げる。


「お誕生日、おめでとうございます!お兄様!」


大声を張り上げてから気づく。

今は夜中でした。


侍女や護衛の人も起こしてしまったかも。

またやっちゃった…。

みんなに申し訳ないなあ。



でも、少したってもあれほどの大きな声を上げたというのに

お兄様も、一緒にいるはずのお父様も返事をなさらない。


「どうしたのかな?」

私、部屋を間違えた?

でも、部屋を見渡すとたくさんの本棚にその真ん中には大きい長方形の木製デスク。

やっぱりこの部屋であっている。


てっきり二人はこの正面のデスクで話し合っているとばかり思っていたのに。

そこには読みかけであろう資料が山積みになっている。


「二人そろってトイレなんてことはないでしょうし…。」


奥の部屋にいるのかしら?

私の声、聞こえてないのかな?


あたりを少し警戒しながらソロソロと奥の部屋の方へ進み始める。

すると


「来るな、ルナ!」


という、切羽つまった声が聞こえてきた。


い、今のは…お、お兄様の叫び声?!

普段はおっとりしていて、大きい声など出さない

あのお兄様が…あんな風に声を張り上げるなんて。


ただ事ではない。


私は確かめたくて奥の部屋に行く。


でも、なんだか嫌な予感がしていた。

なんだかわからないけど、心臓の音がやけに早く大きくなる。


確実に何か、おかしい。


いつものこの部屋のはずで

同じ本棚と本の数なのに、

なんだか今日はとても部屋全体が禍々しい雰囲気に包まれている。


「行ってはいけない」と頭が言うけど…。

恐怖よりもお兄様が心配だという心が動く。

足が一歩、また一歩と確実に動く。


奥の部屋で何か、確実に起こっている。


奥の部屋までそんなに距離はなく、すぐに扉の前に私は着いた。

その扉はいつもより大きく、黒く見える。


深呼吸をして、さらにごくりと唾を飲み込み、

震える手でドアをゆっくりとあけた。

ギギギギィっと音がして、いつもより重く感じたドアはあいた。


その瞬間。


「く、来るなっ…!…ぐはっ!!!」



飛び散る血。


鈍く光る剣。


冷たい瞳。


私はそこで信じられない光景をみた。




そこでは、お兄様が、お兄様の腹部に1本の剣が突き刺さっている状態の、お兄様が…いた。





私はその時、すべてを疑った。


自分の目を、耳を、頭を。


生々しい血の匂いを。


あれはお兄様の…血、なの…?


月明かりにかろうじて見えるお兄様の顔は

驚き、戸惑い、悲しみに満ちて

…でも、抵抗した様子はない。


私はよく、分からなかった。

これが頭が真っ白になるということなのかもしれない。


だって、ありえないもの。



その、お兄様を刺している剣を握っているのは…返り血を浴び

冷酷な瞳でお兄様を見ているのは。




「ゆ…ユエ…なの…?」




そう、私の弟であるユエだった。

銀色の髪に雪のように白い肌。

小さなころはよく女の子に間違えられたくらいの美少年。

私の自慢の弟のユエ…。


ユエは何も答える様子はなく、剣を黙って引き抜く…。

お兄様の真っ赤な血が、大量に、辺り一面に飛び散った。

周りの本棚に、ユエに、私に、

その血が勢いよくかかる。


お兄様は力なくその場に崩れ落ちた。

私はハッとしてお兄様に駆け寄り、叫ぶ。


「お、お兄様?!返事をして、お兄様?!」


恐怖と混乱。

私は動かなくなったお兄様の体を必死に動かす。


どんなに動かしてもお兄様は起きてくれない。

いつもみたいに「冗談だよ」って優しい笑顔を見せてくれない。


そして、ふと頭を見ると黄金の髪にも血はついていることに、

私はハッとした…頭からも血が出ている?

私が来る前に誰かに殴られたのだろうか。


いつもは澄んでいる蒼い瞳は何も移していなく虚ろで。

どんなに動かしても声をかけても反応はない。


目頭があつくなる。


いやだ…!お兄様、起きて下さい!

そう叫ぶ。

しかし唇が震えていて叫びすぎてもう声という声にはならなかった。


ふと自分の手の生温かいものに気づく。

おそるおそる、自分の手を見るとお兄様の血がベトリとついていた。


「あ…。ああぁ…。」


手が震える。これは自分の手が震えているのか、

視界がぼやけているからそう見えるのか。


私は愕然としながら目の前にいるユエを見た。

何も見えていないような真っ暗な銀色の瞳。

瞳と同じ色の短い髪は血がついて赤く染まっていて…

右手にはまだお兄様を貫いた剣を持ち、私を眺めていた。


「ユエ、あなた、あ、あなたが…?」


私は信じられずに尋ねる。

声も震えてうまく話せない。

何も言わないユエから目をそらす。


するとユエの足もとにお父様がいることに気づいた。

お兄様と同じで腹部からも頭部からも胸部からも、血が出ている。


その血の量はお兄様の何倍も多く、お父様と分かるのに時間がかかった。

栗色の髪の毛がわざと血をかけたかのように真っ赤である。


そして、今まで見たことがない位、

憎々しいものを見る目をしてお父様は亡くなられていた。

あの血で、怪我で、生きられるものなどいるのか。


今度はもう、声も出なかった。


理解が、できない、わからない。


自然と涙が流れだす。


脱力感と無力感。


でも一縷の希望を捨てたくなくて、

私はユエに目をもう一度向け、言葉を振り絞って尋ねる。


「ゆ、ユエ?これは強盗の仕業なんだよね、そうなんでしょ?

優しくて賢いあなたがこんなこと、しないものね?」


ユエがやったのではないと言って欲しくて半分笑いながら、

でも目の前で今起きたことはユエがやったことに間違いないと分かっていて

半分泣きながら、私はユエに話しかける。


「違うでしょ?!私は、私は分かってるよ!

ユエはそんなことするような子じゃないもんね?」


口調はだんだん荒くなる。泣きながら、懇願する。

ユエは黙ったままだ。


「ユエ!ユエがやったんじゃないって

…違うって、違うっていってよおおおお!」


もう限界で、たまらず叫び声になる。

叫び声というより、断末魔のような

自分でも恐ろしくなるような声。

それでも、ユエは眉ひとつピクリと動かさなかった。


いつの間にか握っていた自分の手は強く握りすぎて血が出てきていた。

しかし今はそんなことはどうでもいい。


信じられない、信じたくない!


否定してほしいのにユエは沈黙を貫く。

ああ、夢なのかもしれない。


いやだ!

涙で顔がぐちゃぐちゃになる。

そして、私はいつしか嗚咽と泣き声しか出せなくなった。


するとユエは目を数秒つぶり、

そしてカッと目を開くと剣を持っている右手をゆらりと持ち上げた。

剣が月明かりでまた鈍く光る。


こ、殺される…?

ううん。でも、ユエはそんなことしないよね?


私は固くなり、目をギュッと閉じた。さらに手を固く握る。


剣が振り下ろされる気配がした。


その刹那。

キーンと剣と剣がぶつかり合う音がした。


「姫様、ご無事ですか?!」


剣を短刀で受け止めていたのは

赤茶色の髪に赤色の瞳。

いつも笑顔を絶やさない…小さい頃からよく知っている

…私の護衛兵の一人である、


「アルト…。」


私は、アルトが来てくれたことを素直に喜ぶ。

アルトは私が心から信頼する人間の一人。


まだ、私が絶望の中にいることに変わりはないけど

アルトという光が私にほんの少しの希望を期待させた。


アルトは私を背中でかばいながら必死に剣を受け止めていた。

どうやら私が目をつむっている間に

私とユエの間に入ってくれたらしい。


その背中は汗でぐっしょりで、急いで駆け付けてくれたことがわかった。

まだ呼吸も荒いのはそのせいなのだろう。

いつもはバカにしているアルトがとても今は頼もしい。


アルトは剣を弾き飛ばして、

半分叫ぶように言った。


「姫様、早くお逃げ下さい!…くっ!」


その一瞬をつき、ユエがアルトに攻撃する。


ユエは頭脳明晰でありながら、

武術、剣術とも王族歴代トップといわれるほど、秀でている。

そして光の魔法を使うことができる。


アルトも武術は得意で私の護衛兵のトップであり、

動体視力を極限まで高める魔法が使える。

でも、その能力ももって10分程度。

しかも息が乱れている状態のままで、

私をかばいながらの防戦一方なので苦戦している。


アルトが少しでも優位に動けるように私が移動しないと…。


でも私は体が動かなくなっていた。

足に力をいようとしても、体が言うことを聞かないのだ。


ユエはそんな私をちらりと一瞥して、

目と髪の毛を白色に染め始めた。

これは、ユエが魔法を使う合図でもある。


このままだと、

もしかしたら私はアルトまで失ってしまうかもしれない…。

そんな恐怖が不意に私を襲う。


「た、立たないと…」

でも、私の思いとは裏腹に体はピクリとも動かない。



他の誰にも、もう死んで、ほしくない。

このままでは私ともどもアルトも殺されてしまう。

そんなのは、絶対にいや!


私は思わず、手に持っていたペンダントをぎゅっと握りしめた。

それを見たユエが驚き、何かを言おうと口を開きかけた。



その時、ドアのほうからすごい勢いで誰かが走ってきた。

いや、正確には突進して来た、の方が正しいのかもしれない。


そしてそのまま私を持ち上げ部屋から連れ出す。

その人は大きなトランクとかばんを持っているにもかかわらず、

私を持ちその部屋を飛び出した。


運動に慣れていないせいか、

とても大変そうであり足どりもあまり速くはなかった。


しかし私を持つ手の力だけは緩めることなく

苦しそうな顔ひとつせずにその人は私に言った。


「ご無礼をおゆるし下さい、ルナ様。」


その言葉を聞いてハッとする。

私を「ルナ様」と呼ぶのはただ1人。



…レイヤしかいない。

レイヤも来てくれた!


私はたまらずレイヤに抱きついた。

レイヤは一瞬体をこわばらせたが

すぐに冷静ないつもの態度に戻り廊下を駆け抜け、そのまま馬小屋の方角へ城から飛び出した。


「レイヤ…?城をでるの?」


私は、目を見開きレイヤにわけを聞いたが、

困ったようなそれでいて申し訳なさそうな顔をするので、

私はそれ以上聞くのをやめ大人しくされるがままだった。


レイヤもアルトも来てくれたのだから…もうそれでいい、と。

私はもう一度レイヤに強く抱きついた。


「申し訳、ございません。」


そんな希望をみつけた私とは対照的にレイヤは本当につらそうな顔で城内を駆け下りていった。


―☆―☆―☆―☆―☆―


そのまま走り続け数分、馬小屋につく少し前、

アルトも追い付いてきた。


アルトはユエのすきを見て逃げて来たそうだ。

まともに戦えば二人ともきっと命にかかわるような傷を負うか、

最悪死んでしまうだろう。


そう考えるとバカで喧嘩っ早いアルトにしてはよく考えたものだと感心する。


「無事で…本当によかった。」


思わず息が漏れる。


アルトまで失ってしまったら…、

私は…。


アルトは一瞬驚いた顔をして、

その後本当にうれしそうに笑った。


その笑顔に私は癒されたのであろうか?

ふと気づくと、思ったよりも自分の手足が震えている。

私は震える手を必死に両手を強く握りしめた。



大丈夫、アルトもレイヤも来てくれたから。

と自分に必死に言い聞かせるので精一杯だった。


そのあと私たち3人は馬に乗り、この城を抜け出した。


私は馬に乗れないのでアルトに一緒に乗せてもらう。

馬の心地よい揺れに揺られながら、私はふと後ろを振り返る。



エストレア王国。

エストレア城。


ここにはすべてがあった。

平和と幸せとまさに光のような魔法の国であると思っていた。


しかし実際は影があったのだ。


お母様の言葉が思い出される。


「・・・ユエ…。」


私はこの世でただ一人の弟の名前を呟く。


優しく、思いやりにあふれていたユエはどこにいってしまったのか。

そして、本当にお兄様もお父様もユエに殺されたのか。


そこまで考えて胸が苦しくなる。



昨日まで幸せに満ち満ちていた城は、

今日はまがまがしいオーラをまとっていて、

とても暗く無気味に見え、目をそむけた。


私はまだ混乱し続けていたけど…

アルトにレイヤ、信頼する2人がいたから、眠りにつけた。



全部夢であればいいのに、

目が覚めたら日常に戻ればいいのに、と心から願いながら。


―☆―☆―☆―☆―☆―


何が、いったい…何が起こったというのでしょうか?


私は混乱していました。いつも冷静を保てる私が現に、

手を震わせております。


ふと東の空をみるともう夜明けで、明るくなっていました。

いつものこの色は希望を思い出させてくれるのに

…今日だけはいつもより赤々として見えて、

まるで空が血に染められたように見えました。


それは先ほどのヒカル様の血を思い出させるもので、

私はそれ以上みているのがつらくなり、目をそむけます。


ふと目をそむけた先には…ルナ様。

私の人生のすべてをささげても守りたい人がいらっしゃります。


腰までゆるやかなウェーブがかかった美しい金色の髪。

今は閉じてしまっているけれど、いつもは希望に満ちている藍色の目。

何よりも、どんなものにでも優しく、他人のために泣くことが出来て、

それでいてドジな面もあり、人一倍寂しがり屋で…。


なんと愛らしいのでしょう!…私が守らなければ。


決意を固め、まずはルナ様のためにも冷静に状況を、

私の知っていることを整理しましょう。



あの晩、私はいつもどおりにルナ様の部屋に行きました。

そしていつもどおりの何気ない会話をしました。

別れた後は自室へ行き、本を読んで過ごしました。


その時の私といえば、


―――ルナ様のことでしょうから一生懸命に

     ヒカル様へのプレゼントをお考えになったのでしょう。

     そう思うと心が温かくなります。

     頬を桜色に染めて笑顔を見せていた

     ルナ様の顔を思い出すと

     …ヒカル様に嫉妬してしまいそうになりますけれど、幸せそうでなによりですわ――――                   


などと笑いながら、そんなくだらないことを考えつつ、

0時になるのを私も待ちわびておりました。


ルナ様の喜びは私の喜びでもございますからね。


そして、いよいよ…その時間がやってきました。

ちょうど0時の5分前ごろでしょうか?

ルナ様の部屋のドアが開け放たれバタバタとした急いだ足音がしたのは。


私が今いるこの部屋はちょうどルナ様の部屋の隣ですので

ドアの開閉の音がとても響きます。

まあ、あの勢いで開けたらこの階の人はみんな気づくでしょう。


そして、その階段を登る音でルナ様の慌てる様子が手に取るようにわかりました。

また居眠りでもしてしまったのでしょう。


さあ、ルナ様はちゃんとサプライズで

ヒカル様をお祝いすることができるのでしょうかね?


あとでヒカル様にじっくりお伺いしなければと思いつつ、

また本の続きを読もうと視線を下に戻しました。



しかしその数分後のことです。


「レイヤ!大変だ!」


と、私の部屋のドアが乱暴に開けられました。


…いきなり私の部屋に入ってきたこの乱暴者はアルト。

ルナ様の護衛兵の役割を担っているので剣の腕や武術には秀でているのですが、

ルナ様への丁寧さや敬う気持ちなどが言葉に微塵もありません。

もう少し彼は勉強をするべきなのです。


要は馬鹿なのです。


「アルト。何時だと思っているのですか?

それに幼なじみといえどもノックはするべきですよ。」


そう、アルトと私は幼なじみでもあります。

まあ、姫様のほうがアルトと長い付き合いらしいのですが。


しかし、アルトといえばすごく慌てている様子。

何かあったのでしょうか…?


「ばか!ノックとか、そんな場合じゃねえ!姫様はどこだ?!姫様があぶねえ!」


何?!いきなり、何を…?!

しかし、確かに冗談を言っている顔ではないですね。


それにアルトは体力だけは無駄に有り余っています。

それなのに、息を切らすほど慌てているなんて、

どれほどの危険がルナ様に迫っているというのでしょうか。


私は想像するだけで背筋が凍る思いがしました。


私はアルトの言葉を聞くや否やすぐに部屋を飛び出して伝えます。

アルトもその後にすぐについてきました。


「ルナ様はヒカル様を祝うために、例の書斎にいらっしゃるはずだ!

…どういうことか説明しろ!」


おもわず口調が荒っぽくなってしまいました。

しかし、アルトは冷静さを取り戻していて、端的に要点だけを私に言いました。



「王様と王子様を殺そうとしているやつがいる。

この城に姫様の味方はほとんどいない。ここから逃げるぞ!」



な、どういうこと!?

信憑性もかなり薄い…。


でも!アルトは嘘をつけるほど器用な人間ではない。

長年の付き合いからそれは十分承知の上です。


「ルナ様が逃げるために必要なものをそろえて来る。

その間ルナ様のことを任せるぞ!」


少し、迷いましたが、私はアルトのいうことを信じることにしました。

動揺していましたが、

手早く一通りの簡単な準備を済ませ、ヒカル様の部屋へ急ぐ。


「姫様、どうぞご無事で…!」


自分でも驚くほどの手早さと足の速さでした。

ドアの前に来ると『キーーン』という激しい金属音が何度も鳴り響いています。

これは、誰かが誰かと剣を交えている証拠にほかなりません。


足早に部屋の中に入るとその人物は、

アルトと…ユエ様?!


な、なぜ、ユエ様が?!

ルナ様を、狙っていたのがユエ様だとでもいうのですか?!


信じられない、そんな馬鹿な。

私は冷静さを失いかけました。


しかしその私の目に次に映ったのはルナ様でした。

私はハッとしてあたりをよく見まわしました。

するとルナ様の足元にあるのは、国王様とヒカル様の死体でした。


一刺し。

剣でおなかを一刺し。


あたりは血の海、一色でした。


血の量がすさまじく、

入口までに生臭い匂いが漂って、なんとおぞましい光景なのでしょう。



蘇る記憶。



心臓をわしずかみにされたような、

この胸の苦しみ。


この光景はとてもショックでした。


私は人の血が苦手なのです。

頭がズキリと痛み、手が震えだしました。


でもルナ様の顔を見て、冷静さをなんとか取り戻します。


他人の私ですらこんなにつらいのに、

血縁者のルナ様はもっと、何倍もつらくないわけがありません。

ルナ様は現に動けなくなっていました。


私は、ここでルナ様を守らずにいつ恩返しをするのです。


私はそんな風に自分を鼓舞し、

何よりもルナ様を守りたいという一心であの部屋から、

弟君様からルナ様をお救いできたのです。


…ここまで来る道中、アルトに私があの部屋にいたるまでの

ルナ様の目の前で起こったのであろう惨劇を、簡潔に教えてもらいました。


なんということでしょう。


私がルナ様についていながら、

私は何も、何もできませんでした。


…今も、ルナ様はアルトに抱えられながら馬に乗っています。

体力も馬の扱いもアルトのほうが上なので仕方ありませんが…。


私がじっと見ているのも知らず

アルトは短い赤色のまじった茶髪を揺らしながら

まっすぐ堂々と前をみて、

本当に男らしくルナ様を守っています。


鍛えられている腕を見ると安心もしますが、

それと同時に自分の頼りなさに落ち込みます。


でもルナ様のため私が出来ることが少しでもあるのならば、

私はこの命にかえてもルナ様につくしたい…。


そう、強く私は決心をより強固なものにしました。


―☆―☆―☆―☆―☆― 


「姫君を…逃したのか?」


「なんということを!」


「国の兵力をすべて使い…姫をつかまえましょうぞ!」


「姫のことは後回しに。

それより明日の王位継承式は中止にしましょう。

王と王子は不治の病にかかりました。

そして姫はショックのあまり倒れたということに。」


暗い東の空。

漆黒の中で風に揺れる木々…。


陽はまだ上りそうにない。



「ルナ、逃げろ…」


騒がしい王宮の中、ただ一人の男だけがルナを心配していた。


―☆―☆―☆―☆―☆ー


ここは…どこだろう?


ひどく懐かしい草の匂い。

ああ、私はこの匂いを知っている。

小さい頃によく遊んだ、あの場所…?


「ルナ、いつまでそうしているつもりなんだい?」


優しい声が聞こえる。この声はお兄様?


「ルナが欲しいっていうから俺たちは探しているんだぜ?

…当の本人が居眠りとか…。」


と飽きれたように言ったのはユエだった。


…あれ?

さっきまでのは…まさか、夢?


「でもとてもよく眠っていたからね、起こさないでおいてあげたんだよ。」


「兄上はルナに…みんなに優しすぎるんだよ。」


ユエが半分拗ねたように、

でも笑いながら言う。


「…何を、呆けているんだい?

ルナ、怖い夢でも見たのかい?」


うん。

と私は答えながら上半身を起こし、

あたりを見回す。


ここは…「約束の草原」。

お母様の故郷のリルタ村の小高い丘の上にある草原だ。

かわいらしい春の花が沢山咲き、丘を彩っている。


なぜ、約束の草原というのかはわからないのだけど…

私は小さなころからここが大好きだった。


「あったよ、おまえが探していた『四つ葉のクローバー』とかいうやつ。

兄上が見つけたんだ。」


呆けていると、ユエが私に四つ葉のクローバーを差し出した。

それを聞き、私はすっかり目が覚めた。


「お兄様?!もしかして、クローバー摘み取ってしまったの?!」


私は茫然としお兄様の洋服をひっぱる。

そんな焦っている私に気づかずにお兄様はコクンと頷く。


「ちゃんと、四つの葉がついているだろう?」


お兄様はのんびりとした口調でクローバーを見せた。

確かに四つ葉のクローバーだ。


「で、でもっ…四つ葉のクローバーは、摘み取った本人じゃないと!

願い事は叶わないの…!

私、どうしてもお願いしたいことがあったのに…。」


私は涙目で言う。

お兄様ったら絶対に摘み取らないでと言ったのに

摘み取ってしまったのね!


私は泣き出してしまって、お兄様はおろおろするばかり…。


「兄さん、もう一つ見つけてくるよ、ルナ…ごめんな。」


お兄様はもう一つクローバーを探し始めた。

そんなお兄様の一生懸命探す様子を見ると、なんだか申し訳なくなる。

…本当に優しすぎます、お兄様。


私も一緒に探そうとお兄様に近づこうとする。


「おい、ルナ。お前は何をそんなにお願いしたいんだ?

簡単なことならおれが魔法を使ってなんとかしてやるって。」


ユエが私を不思議そうに見上げながら尋ねた。


当然だろう。

魔法を使うこの世界で、おまじないに頼ろうとしているのだから。


しかも、私はいつも以上に必死だし。

でも、不意に聞かれて私は返答に戸惑う。

だってその理由は、ユエには言えないことだったからだ。


というのも私はお母様がご病気にかかりもう長く生きられないであろう、

と医師の方々が話しているのを先日、偶然聞いてしまった。

魔法でも医学でも治せないという病気にかかっているらしい。


本当にショックで、どうすればよいか、どうすればお母様に長生きしてもらえるのか…

必死に私が考えだした結論が「四つ葉のクローバーにお願いする」ことだった。


魔法では人の生死に関われない。

関わることができるのは何年も前に封印された禁忌の魔法だけだ。

それは法律違反だし、自分の命まで奪われてしまう。


おまじないでもなんでも、藁にもすがる思いだった。

私、お母様ともっと一緒に暮らしたい!


でもユエもお兄様もお母様がもうあまり長くないことは知らない。

言ったら二人も悲しんでしまう!


そうこう考えている間にもユエはまっすぐに私を見てくる。

私はなんだか落ち着かなくなって、とっさに


「し、幸せが欲しいの!」


と言った。少し声が大きかったのか、

ユエは目を丸くしましたが私はそんなことは気にせずに続ける。


「お、お母様…体の調子があまりよくないというし。

く、国中のみんなの病気や怪我を治したいの!

そしたら、みんなが幸せにきっとなれるもん!

私は姫として…た、民の幸せを心から願っているのです!」


おもいつきの言葉ではあったが、本心だ。

しかし本当の本当はお母様の病気を治したかったから。

でもユエがあまりにも真剣な顔で見てくる、

私はなんだか嘘をついたような変な気分になり唇をかんだ。


少しの沈黙の後、ユエは何か言おうと口を開いた。


が、いつから聞いていたのか?遠くから、


「ルナ、そういうことだったのかい!」


とお兄様が話しかけてきたため口を再び閉じてしまう。

それが慌てているように見えたのは私の勘違いかもしれない。


「ルナはみんなのことを考えてあげられるとてもよい子だね。

よし、じゃあ…その願いを兄さんが叶えてあげるよ!」


お兄様は満面の笑みでつづけました。


「ぼくがこの四つ葉のクローバーにお願いすると願い事は叶うんだよね?

よし、僕はこう願うぞ!「この国中の人の怪我や病気が治りますように、

そして平和に…みんなが同じように幸せに暮らせますように」ってね。

これはきっとこの国みんなの願いだと思うよ。

そして、この国の人々が幸せに暮らすには

僕たち3人が力を合せて国を統治していくことも大切だ…。

兄さんだけだと失敗しちゃうかもしれないからね。3

人ならきっと大丈夫だと思うんだ。

手伝ってくれるかな?」


「もちろんですっ!」


私は首がとれるほど強くうなづきました。

これで…お母様もお父様もお兄様もユエも、

この国のみんなが幸せに暮らせる!


しかし私の喜びとは反対に冷たい声が後ろから聞こえてきました。


「兄上、それではなりませぬ。そのようなことは無理ですから。」


と、ユエがいきなり口を開き、言った。

その目と口調は冗談ではない。


私は驚く。

…どうして、これの何がいけないの?

私は疑問いっぱいにユエを見つめました。


「幸せの定義は測りかねるもの、一人一人にとって幸せは違うものでしょう?

全員が平等に同じ幸せを目指す世界など、この世には絶対にありません。」


ユエは凛々しい顔をしてハッキリとお兄様の顔を見る。


む、難しい話みたいだったけどお兄様は分かっているみたい。

だって最初は本当に驚いた顔をしていたお兄様だけど、

少したつと穏やかな顔で涙ぐみながらうなづいていらっしゃったもの。


でも、私にはまったくわからないわ。

全員が幸せになることを願うのはよくないことなの?


「ユエ、私にもわかるように言ってよ。」


「やだ、ルナに説明していたら日が暮れるもん。」


「お、弟のくせに!!」


「じゃ、俺より頭が良くなればいいじゃん。」


生意気だ。

本当に、なんて弟!




だけど数日後、一通の手紙が四ツ葉のクローバーとともに送られてきて、

私の考えはすぐに変わった。

そこには丁寧な字でこう書いてあった。



―――この国中の人を幸せにするなんて俺にはできないんだ。

    そんな力、俺にはないよ。

    けど、俺は俺の周りの人間を笑顔に…幸せにすることならできる。

    それは時間がかかるかもしれない、

    でも俺は人が傷つくのは嫌いだから、全力を尽くす。

    だから、ルナが傷つくのも嫌だから。

    このクローバーに本当にしたかったお願いごとをしろ。

    俺が摘んだやつだけどルナの願いを叶えてくださいってお願いしといたから。

    そうすればきっとルナの本当の願い事も叶うよ。

    あと、今度からその幸せの道しるべは自分で探す努力もしろよ?―――


名前こそ書いてないけど、

この手紙の差出人はどう考えてもユエしかいない。


ぶっきらぼうに書いてあるところもあるけれど、

優しさに溢れたこの手紙。


あれから何日もたっているのに、

四ツ葉のクローバー…探してくれていたんだ。


思わず手紙をそっと抱きしめる。


ユエは賢くて、立派な考えを持っていて、

人のことを思いやることができて、

そして本当に優しい自慢の弟だ。


私は心からそう思った。




そして、これは昔…本当にあったこと。

まだお母様が生きていた時。

3人で四つ葉のクローバーを探した、あの時のことを私は夢で見ていたんだ。


あの頃は、本当にただひたすらこの国の人が幸せになったらいいと願っていて…。

優しくて陽だまりのようなお兄様と、

ぶっきらぼうだけど心はまっすぐな弟と

この国を治めていけると信じていた。




信じていたのに…!


あの恐ろしい出来事が脳裏によみがえってきた。


ユエの冷徹な瞳。


お父様とお兄様の流れだす血。


ユエは…変わってしまったの…?

お兄様とお父様がユエに殺されていたの…?


あの、優しい、正義感あふれるユエが、本当に?


そして、ユエは私をも殺そうとしていた?



…信じたくない、やだ、やだ、やだ、やだ!



楽しく、温かかった3人の思い出はいつしか悪夢へと変わっていった。


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