第一話
朝日がまぶしい、桜が舞う午前九時。三色は薄めのナチュラルメイクをしてパステルカラーの流行のワンピースをなびかせながら大学の門をくぐる。新しくできた友達を見つけて駆け寄る。その際に、足が疲れないように新しく買ったパンプスを汚さないように小走りで。早起きして巻いた髪がふわふわと肩の上で跳ねるを感じながら三色は元気よくあいさつする。
「おはよう!」
友達はまだ三色に背を向けたままだった。不安がって三色がもう一度声をかけようと思った瞬間友達が振り返る。
「おはよう。」
そこには彼女を嘲笑うかのような奇妙な黒い仮面をかぶった友達がたっていた。三色は驚いて後ずさる。するとどこからともなくくすくすと笑う声が聞こえてくる。
「何あの子。」
「だっさ。」
「面白いね。」
周りにいた自分と同じ学生たちがつぶやき、三色を指さして笑い出す。三色は両手で耳を覆うが彼女たちのささやきは直接彼女の心に流れ込んでくる。三色は周りを見渡すと、友達同じく薄く笑う奇妙な黒い仮面をつけていた。
「いやだ、いやだ、いやだ、私を見ないで!!!」
視界がだんだん色を失って崩れていく。呼吸ができない。
「苦しい。助けて。誰か!」
笑い声が大きくなっていく、仮面をかぶった学生たちが三色を囲む。あきらめたように三色はつぶやきだす。
「助けてくれなくてもいい…」
仮面たちの笑い声は止まらない。両手を耳から離した三色は嘆願する。
「もういっそのこと誰か私をこ、」
「はっ」
三色の瞳が勢いよく開く。全身から嫌な汗がにじみ出ていることを感じながら三色はゆっくりと起き上がり、ガラケーの時計を見る。夜明け前の薄暗い朝日がカーテンの隙間から三色を照らす。三色はもう一度布団に横になって二度寝を試みる。汗ばむ体を乾かすためにかけ布団をかけずに。瞳を閉じると朝日を伝える鳥たちのさえずりが聞こえる。
「……ねみ。」
「三色ちゃ~~ん、起きてぇ~~もうお昼すぎだよ。」
ドアの向こうから聞こえてくる優しい声に気づかないふりして三色は寝返りをうつ。声の持ち主は軽いため息を吐きながらめんどくさそうに鞄の中から合鍵を探しだしドアを開ける。
「いい加減に起きなさい。今日新しい人来るんだから、ちゃんとあいさつしてちょうだい。」
自分が鍵を開けなくても自動的にこの人物が部屋に入ってくることを知ってた三色は右腕で両目を覆いながら囁く。
「ママ、あと五分だけ」
ママと呼ばれたの小太りの優しそうな中年おばさん楓は三色の実の母親であり、彼女が滞在している小さなアパートの持ち主である。半年前から不登校になった可愛い娘にアパートを管理させている。
「三色ちゃんの五分は信用できません。はい、はやく起きて新人さん迎え入れるよ」
心底めんどくさそうに起き上がった三色はまず、髪を束ねて洗面台に向かう。
「ニートにだいぶミートが付いたわね」
楓は顔を洗う三色の安産型のでかいお尻を見ながら殷を踏んだ一言を思いつき、無意識に発言してしまった。
「…何?」
不機嫌そうに顔をふく三色に笑顔でなんでもないと首を振る楓は、そそくさと三色の部屋をあとにして新しい住人の部屋へ向かい、新入居者を迎える最終チェックをしに行った。三色は歯を磨きコンタクトを入れ、冷蔵庫から飲むヨーグルトを飲んだあと、楓のあとを追った。階段を上がるときトラックが止まる音が聞こえた。三色はそれが引っ越し屋だとすぐにわかった。三色は部屋にいる楓にそのこと伝えると自分の部屋に戻って鍵を閉めた。まるで誰ともかかわりたくないかのように。楓はドアの閉まる音で三色が部屋に戻るのを確認すると少し寂しそうにうつむいたあとに笑顔を取り繕った。虚勢を張るように荷物運び出す引っ越し業者たちにあいさつをする。
「おはようございます~~!」
部屋に戻り玄関のドアに寄り掛かる三色は楓の声と、引っ越し業者たちが荷物を持ちながら階段を駆け上がる音をドア越しに背中で聞いていた。カーテンの隙間から流れ込む晴天の光は寝起きの三色にとってまだまぶしかった。カーテンを開けて雲一つない空を見上げるとあの日のことを思い出す。嘲笑が聞こえてくる気がした三色はすぐにイヤホンを両耳に押し込んだ。そして今日もようつべにアクセスする。色のない世界を忘れるために、世界から逃げるために。