首吊り聖女
登場人物
メイド 神殿近くの村娘、色々割り切ってる
聖女様 大対死んでる
「おはようございます、聖女様」
神殿の朝は早く、毎日日が昇ると同時に聖女様に起床を促す。
天窓付きの豪華なベットの横に立ち、毛布の膨らみの中で寝ているはずの聖女様の身体を揺らす。
しかし何の感触も無い。
どうやらいつもの病気が発動したのかと思い辺りを見渡すと、窓の横の箪笥に巻きつけられ外へと伸びる紐を発見し窓に近づく。
頭に浮かべた光景があるに違いない。
最初の頃は腰を抜かすほど驚いた、あの光景が。
予想では無く確信にも似た気持ちで窓の下に続く紐を見ると、神殿の敷地である毎日綺麗に整備されている花壇から足を離し。
細い首元に縄が巻きつけられ首が変な角度を向き、ゆらゆらと揺れている下着姿の聖女様が目に入った。
綺麗な首吊り光景だ。
やはりいつもの病気が発動したらしい。
暴走とでも言うのだろうか。
本来ならば暴漢が来て殺されたとでも疑うべきなのだろうが、心配する必要は無い。
抵抗した素振も無く、メイド長の警護が厚い神殿で襲われる可能性など無く。
ただ自分で首を吊って死のうとしただけなのだから。
そんなことで死にきれないのは聖女様自身が理解しているだろうに。
何故毎回無駄な事をするのか、ただのメイドである私には理解できない。
きっと聖女様には聖女様にしかわからない悩みがあるのだろう。
「聖女様、少々お待ちください」
「………」
溜息を付きながら、縄を掴み、聖女様を窓の外から引き上げる。
死体なのだから声を掛けなくても良いが、ついついかけてしまう。
いつ蘇るのかわからないのだから。
全身の力が抜けた人間というものは、小柄である聖女様と言えども重たい。
ここに入った頃は先輩メイドがやっていたのだが、気を病み仕事を辞めてしまった。
我々神殿のメイドの仕事は、メイド長がいない時に聖女様の身の回りを手伝うことであるが。
一日の四分の三は死んでいるため、あまり仕事は無い。
生きていたとしても、私達が目にする聖女様はベットに力無く横たわりぼんやりとしているだけだ。
メイド長がいる時は、態度が変わるらしいが私はその光景を見たことが無い。
「聖女様」
就寝してからすぐに目が覚め首を吊ったのだろうか。
時間が立っているため聖女様は中々生き返りそうに無い、生き返るまで床にこびりついた聖女様の血を掃除しておこう。
今回は首吊りのため、血は出ていないが、前回は首を掻き斬って自殺を図り部屋中が血塗れとなった。
掃除はしたがかなり時間が立っていたため、まだ至るところにこびりついているのだ。
そう考え、モップを手にし、掃除を始めるとびりびりに破けた「シャシン」付き新聞の残骸が目に入る。
「シャシン」という物は、先の魔王との戦いにおいて、別世界から召還された勇者が持っていた。
目に見える光景を絵にするという「カメラ」という物で撮られた絵である。
私も魔王と戦った勇者と聖女様の戦いを書き綴った「シャシン」付き新聞を何度も見たことがある。
(私は持ってきていないというのに、どこから持ってきたのでしょうか)
頭に浮かんだ僅かな疑問とともにシャシンの残骸を拾い、修復の魔法をかける。
メイド足る者どんな物でも治せなければメイドと言えないのです。
(この男性はどこかで見たことがありますね…)
修復したシャシンには一人の鎧を着た男性と、見知らぬ女性がドレスを着て写っていた。
何年か前に、毎日のように見た記憶がある。
聖女様とメイド長は魔王を倒すために一緒に冒険していたので、メイド長ならば判るだろうが、今はいない。
(メイド長絡みの男性となると…)
「…そうか勇者様でしたね、アナタは」
メイドの頭の片隅に残っていた記憶。
聖女様が、精霊魔法で魔物を蹴散らし、人々の病を治し修復し。
数々の村を救い続け、悪人も救い続けたあの時、横で聖女様を武力的に守っていた勇者。
毎日のように「シャシン」付き新聞を見た記憶があります。
その「シャシン」にはメイド長様が写った「シャシン」は一枚もありませんでしたが、一緒に旅をしていたそうです。
ただの村娘であった私には、勇者様と聖女様の冒険には興味があるのですが。
メイド長は、この勇者の話をすると不機嫌になるため、私も話題にはだしません。
破かれた「シャシン」付き新聞に何か隠された謎があるかも知れませんが。
ただのメイドである私はご主人様の秘密には深入りしません。
深入りしていいのは、メイド長だけなのです。
「それでは失礼しました」
こびりついた血を落としたため、掃除を終了させます。
聖女様は部屋に入った時と同じように、首に縄のような跡を付け下着を汚し、ベットで死んだままです。
私達の仕事は。
聖女様の死体をベットに寝かせることと、部屋の掃除。
それ以外は全てメイド長の仕事です。
それではごきげんよう。
あとは任せました、メイド長様。




