第八話
「レオナルドの父親が降格されるそうよ」
第二小隊の小隊室。この部屋でシュウ達三人がアリシアからもたらされた情報だった。
シュウの戦闘からすでに三日。初顔合わせ日からは六日が経過していた。その間レオナルドは謹慎とされていた。
「正式な降格通達にはまだ数日かかるそうだけど、ほぼ決定ということだったわ」
アリシアはそう言うとシュウ達の前に座る。すかさずその横にエンジュが控える。これがこの二人の定位置だ。
「……この間の一件ですか?」
シュウがそう尋ねると、すぐさま答えが返ってくる。
「ええ。この数日間軍と政府の間で相当なやり取りがあったみたい。政府側は除隊を求めたそうだけれど、結局中将への二階級降格で決着がついたそうよ」
この間の一件とは、レオナルドの父親が軍学校の隊編成に圧力をかけようとした一件のことだ。軍学校という名がついてはいるが、この学校は政府の管轄だ。政府の機関に軍が圧力をかけた形となり、表ざたにこそされていないが相当な問題となった。
「大将か……思ったより軽いな」
「そうだね、もう少し圧力がかかると思ったけど……」
そう言って難しそうな表情で考え込むのは、シュウの両隣に座るフレアとアオイの二人だ。
「どゆこと?」
シュウは首をかしげつつ尋ねる。
それに答えたのはルイス姉弟の弟の方だった。
「僕たちはアフレイア家を中途半端に刺激してしまったからね。姉はアフレイア家当主の言葉を無視してるし、君たちはその息子に恥をかかせたといっていい状態だろう?そして今回の降格処分。プライドの塊のような貴族が、このまま黙っているとは思えない」
「確かに………」
言われてみれば確かにまずい状況だ。何より、あのレオナルドがこのまま黙っているとはとても思えない……今頃は仕返しの方法でも考えていることだろう。
「はぁ……次から次へと……」
シュウの率直な感想だった。なぜこうも問題が続くのか。シュウ自身は特に何かしているわけではない。なのに問題のほうから自然とやってくる。これではため息の一つも付きたくなるというものだ。
そしてちょうどこの時、フレア、アオイの二人もまた同じことを考えて、ため息をつくのだった。
一年生三人がため息をついているのを横目で眺めつつ、上級生二人は声を抑えて会話を続ける。
「予想が少しずれたな」
とエンジュ。姉に意味ありげな視線を送る。
「そうね、暴露させるまではうまくいったのだけど……」
「存外政府がだらしない」
今回の一連の流れはここにいる二人と、後一人が筋書きを描いたものだ。
「アフレイア家当主の軍除隊が理想といえば理想だったが……」
「さすがにそこまでは無理でしょう。二階級降格というだけでも、あの家の軍への影響力を弱めることにはなるはず」
「結果的には最低限であるが当初の目的はクリアしたといったところか」
姉弟はそう結論付ける。
「とりあえずは問題ないだろう、しばらくはこのまま様子見だな」
エンジュがそう締めくくり、アリシアがうなずき返したところで極秘会談は終了する。ちょうど一年三人もこちらを気にし始めたところだった。三人の元にアリシアとエンジュが向かう。シュウのあの戦闘以来シュウ達三人の雰囲気はかなり良くなっていた。三人のそんな姿を眺めつつ、エンジュはふと思う。もし彼らが今回の騒動も含めた一連の流れが、エンジュ達が描いたものだと知ったなら、果たして三人はどういった反応を示すだろうかと。見てみたい気もする。しかし彼は結局何も言わなかった。




