表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の騎士・白銀の王  作者: hiko
最終章 銀の目覚め
61/71

第六話

第六話です。よろしくお願いいたしまっすヽ(^o^)丿


な……なぜか話がごちゃごちゃしてきました(汗

 少女が自分よりも体の大きなシルファを抱き上げる。そして確かな足取りでベットへと移動を始めた。特に力を入れている様には見受けられない。華奢な少女の何処にそんな力が……そう思わずにはいられない不思議な光景であった。


「何をしたんですか?」


 ようやく我に返ったフレアが少女に問いかける。見た感じ危害を与えたようには見えなかったが、それでもシルファは崩れるように気を失ったのだ。油断はできない。


「眠らせただけです。でなければこの子の自我が危なかった」


「自我が?」


 少女に対して身構えたまま、フレアが言葉を発する。


「血の記憶の話は聞きましたか?」


 少女の問いかけに三人そろって頷くフレア、シュウ、アオイ。


「イレギュラーな事態とでも言いましょうか。彼女の中に眠る記憶が、シュウの血と混ざったことで無理やり目覚めさせられたのです。その人格が先程まであなた達と共にいた彼女」


「それは、さっきあの人から聞きましたけど……」


 シルファと呼んでいいのか分からずに、あの人という言い回しを選ぶフレア。


「その人格は本来ならば決して表に出てくることも、自我を持つことも無いはずのものです。今回の事は奇跡のような偶然によって生み出された出来事。永遠と蓄積されてきた血の記憶と、わずか十数年しか生きていないその体の持ち主とでは、魂の容量も、刻まれた情報量もあまりにも違いすぎます」


 まるで全てを知っているかのような話し方。聞いていた者達には到底理解できるものではなかったが、それでも何か不吉な予感を感じるには十分な話であった。


「あのままだったら、どうなっていたんですか?」


 問う声はフレアの物。既に彼は身構えてはおらず、ただ純粋に少女の声に耳を傾けていた。


「目覚めた自我に押しつぶされ、彼女本来の自我はいずれ消えていたでしょう」


「うそ……」


「大丈夫なんですか!?」


 思ったよりも深刻な状況だったことに驚きを隠せない面々。そんな彼らを安心させる様に少女はゆっくりと頷き、微笑みを浮かべた。


「心配はありません。目覚めた血の記憶を再び眠らせ、心の奥底へと沈めました。いずれ彼女の意志で、自由にそこから情報を引き出すことが出来るようになるかもしれません」


 一応大丈夫そうだという事で、ほっとする一同。自分たちよりも幼く見える少女の微笑みに皆が安心させられた。


「そう言えばまだ名乗っていませんでしたね。私の名はシルファ・ウィルス・ロード。古の魔術師にして古き秘術を修めし者です」


「その名前ってさっき……」


「彼女が言ってた名じゃないか……」


 先程までシルファの体を支配してい者の名のった名が、今少女が名乗った名と同じだったのだ。シュウ達は、どんな関係があるのかと固唾を呑んで次の言葉を待つ。


「血の記憶が選んだ自我が、私の自我だったようですね。おそらく私の自我が最も強靭で安定していたのでしょう。後は名の縛りでしょうか……」


「名の縛り……?」


 何かその言葉に引っ掛かるものを覚えたシュウが聞き返す。


「はい、名には意味があります。名はその者を形作り、認識する触媒であり媒体となります」


「触媒?」


「媒体?」


 初めて聞く言葉に首を傾げるフレアとアオイ。そんな二人の様子に少女は……シルファは微笑みを受けべる。


「既に失われた言葉です。言霊とも言いますね」


「言霊……益々分からない」


 シュウも首をすくめ、お手上げのポーズを示す。その様子を見たシルファが再び笑みを浮かべた。良く笑う少女だった。まるで、久しぶりに人と触れ合ったみたいに……久しぶりに笑ったとでも言いたげに、この後も彼女は度々笑みを浮かべる。


「ふふ……簡単に言えば、彼女と私の名前が同じだったこと、彼女が私の血を引く者だったこと。それらが今回の事を引き起こしたんです」


「そっか……良く分からないけど、分かったことにする。それよりもありがとう」


 そう言ってアオイは頭を下げる。急に頭を下げられ今度はシルファがキョトンとした表情となる。


「助けてくれたのはあっちのシルファの中のシルファ……何か紛らわしいな。ともかく、助けてくれたのはあなたってことでしょ? だからありがとう」


「あ、そっか。ありがとう」


「助かった」


 続いてフレアも、シュウも並んで頭を下げた。


「ふふ……どういたしまして」


 そう言ってまたも微笑むシルファ。その眼尻にはほんのりと涙が浮かんでいた。シュウ達三人は与り知らぬことだが、シルファはこの場所で永遠にも近い時間を一人で過ごしてきたのだ。三人との触れ合いは本当に久しぶりの他人との血の通った暖かな一時であった。


「私の方こそありがとう」


◇◇◇


「で、黒の伝承だったわね」


 互いのありがとう合戦がひと段落ついた後、ようやくこの場所へと来た目的へと移るシュウ達。


「イザナギは黒き力の開放を司り、イザヨイは銀への目覚めを司る。そしてイチモンジは黒銀の歴史を司る。これら全てを修めし者を剣聖として奉る」


 本を開きながらそこに載る一節を読み上げるシルファ。シュウ達はその周りを囲み、本を覗き込んでいるのだが、意味も分からなければそこに書かれた文字も読めなかった。代表してアオイが首をかしげる。


「どゆこと?」


「イザナギ家は第二段階への扉を開く鍵。闇の力の使い方を伝えるのがその役割。それと同じで、イザヨイ家は第三段階への扉、イチモンジ家は多分歴史を伝える家柄だったんだと思う」


 シルファに変わって答えたのはシュウだった。何よりこれは、彼自身に関することでもあるのだ。


「そう言う事ね。そしてそれぞれの家から認められた者のみが剣聖を名乗ることを許された。元々剣聖は黒の一族の長へと与えられる称号だったらしいから、伝承は長を選ぶ為の物でもあったのかもしれないわね」


 そう答えるシルファには、ずっと昔に剣聖となった友がいた。それも二人……今はいない彼らの事を思いながら、彼女はシュウへと語りかける。嘗て彼女が愛した剣聖の血を引く青年へと……


「既にあなたは一度銀へと目覚めた。あなたが覚えていなくても、体はその事を覚えている」


 シュウが銀へと目覚めたのは、同じく特殊な血を受け継ぐシルファに引っ張られた結果だった。シュウの血がシルファの中に眠る血の記憶を目覚めさせ、同時にシルファの血の記憶がシュウを銀へと導いた。故に奇跡、故に偶然。されど必然だったのかもしれない。


「イチモンジ家の伝承はこれよ」


 そう言って、いつの間にか取り出した一冊の黒い本を差し出すシルファ。シュウがそれを受け取ると、今度はその手をシュウの胸へと添える。


「そしてイザヨイ家の伝承は既にここにある。歴史を知ると共に、自身の内面との対話を行いなさい。そうすればあなたは真に目覚める事になるはずよ」


 信じられない様な事態が続き、いつの間にか感覚が麻痺していたのかもしれない。或いはシルファの暖かくも何処か儚い笑みがそうさせたのか……


 何時の間にか彼女の言葉をただ真摯に受け止め、全面的に信じるようになっていた。


「さてと、ついでだからいろいろとやっておきましょうか。付いてきて」


 そう声を掛けると彼女は扉を開き外へと足を踏み出す。続いて外へと出るシュウ達三人。そこで……


「あ……」


「しまった、忘れてた……」


「ごめん、レンちゃん、コウ君……」


 めまぐるしく変化する事態に付いて行くのがやっとで、レン達四人の存在を綺麗さっぱり忘れていた三人。そしてふと目をやると……


「ま、まだ続いてる……」


 神聖帝国の攻撃が未だに続いているのだった。


「いくらなんでも……おかしくね?」


 自分たちは大分話し込んでいたはずなのに未だ続く帝国の攻撃と、目を覚ます気配のないレン達。上手く言葉にはできないが何か違和感が拭えない。


「とりあえず運ぶわよ。疑問にはちゃんと後で答えてあげるから」


 何処か面白そうにシュウ達三人の反応を眺めながら、シルファが三人を促す。そして再び扉を潜り、ベットに四人を仲良く横たえた後、シルファからの説明が入った。


「隔絶された空間?」


「切り離された世界?」


「…………」


 シルファから為された説明は、またも三人の想像を遥かに超える類の物だった。曰く――


 この部屋は時の流れから隔絶された空間であり、部屋の中に居る限り外では時間が経過していない。

 ただし、地表に部屋を設置している間は通常通りに時間は流れる。ちなみに今は隔絶した状態だから、当然部屋の外では時間が経過していないとの事。


「フレア分かった?」


「なんとなく?」


「シュウは?」


「さっぱり分からない」


 という感じで、何とか事態が理解できていそうなのはフレアただ一人。


「それって、その気になれば十年位ここで修行してから、元居た空間の、元居た瞬間に戻れるってこと?」


「そのとおり」


「うわ! それってかなり良い事なんじゃ……」


「でもないんだな……これが」


 フレアの発想に一瞬歓喜の表情で追従するアオイ。しかしシルファの表情は冴えない……というか、どこか憐れんでいるような……


「一瞬で十歳も年取りたい?」


「あ……」


「がぁーーーーーん」


 言われて初めて気付いたフレアと、ショックのあまりそれを言葉で表現して見せたアオイ。


 心の内で、一,二年位なら……と考えないでもないフレアだったが、横に居る少女が、嫌だ! 年取りたくない!! と盛大に取り乱していたため、口に出すことはなかった。アオイも年頃の女性という事だろうか……


◇◇◇


 とりあえずアオイが落ち着いたところで少女が空間の案内を始める。今まで彼らが居た円形の部屋には、あと四つ隣合う部屋があった。一つはシルファの個人的居住スペース(個室)。もう一つは軽く体を動かせるくらいの広間。残る二つは湯舟付きの風呂場と、簡易調理場付き食料庫であった。


「かなり充実した空間だな……」


 一通りの案内を受けた――ただしシルファの個室以外――フレアの偽らざる感想だった。


 今シュウは最初の円形の部屋でイチモンジ家の伝承を読み進め、さらに自身との対話なる物をしている。その間にフレアとアオイは広場へとシルファに連れてこられていた。


「さて、彼が本格的に銀の力に目覚めると、はっきり言って別人並みの力を手に入れることとなる。どんな気持ち?」


「……置いて行かれた気持ち」


「シュウが知らない他人になる感じがする」


 シルファの問いに素直に気持ちを吐露する二人。二人が当初銀に関して過剰なまでの反応を示していたのは、そこら辺りにも理由があった。


 何と言っても伝説に謳われた一族、その末裔である。遠い存在に感じてしまうのも無理からぬ事であり、彼の横に立てなくなるかもと不安を抱くのにも十分な理由であった。


 そしてこの問いを発したシルファは、嘗て強すぎるあまりに孤立した友《黒髪》を知っている。


「強くなりたい?」


「なれるのなら!」


「俺も!」


 これはそれ故の問いかけ。そして彼の横に立ち続ける為の第一歩。


「なら私が鍛えてあげる」


 あまり大きくない胸を張り、自信満々に告げるシルファ。しかし……


「え、鍛える?」


「知識を与えるとかじゃなくて?」


 シルファの尋常でない知識に関しては最早言う事はない。しかし知識があるのと戦いが強いかは別の問題のはずだ。


 何よりシルファはフレアはもちろん、アオイよりも小さい。神霊術に関しては体の大きさは関係ないとされているが、しかしそれでも躊躇ってしまうのが人情という物だ。


「ええと…………シルファさんって強いの?」


「怪我しない?」


 二人にとってはもっともな質問。しかしシルファにとっては少し面白くない問いかけ。


「無理はしない方が……小さいんだし」


「そうですよ」


 他意は無かった。フレアはただ純粋にシルファの身を案じただけだ。しかし一言だけ言葉が足りなかった。


「小さい……小さい……ち~い~さ~いぃ!」


 何故か涙目になりながら頬を膨らませるシルファ。よく観察してみると、その視線は己の胸元へと向けられていた。そこにあったのは形は良いが小さな山が二つ……


「あ……」


 ようやく己の過ちに気付くフレア。彼としては、体が小さいのだから危ないと言ったつもりであった。しかし相手には違う意味で伝わってしまった様子で……


「ジッセンレンシュウヲシマショウカ……」


 ゆらゆらと、何かがシルファの体から立ち上っていた。こうしてフレアは――ついでにアオイも――急遽実践形式で、戦い方をみっちり体に教え込まれることとなったのだった。


 ちなみに……


 この十数秒後にはフレアが地べたに這い蹲り、何故かアオイは盛大に胸を揉まれ、その結果シルファが盛大に落ち込み……


 更に三十秒後には、フレアは必死に逃げ惑い、アオイは何故か服を剥ぎ取られ……


 更に八十秒後には、フレアは逆さまに吊るされ、アオイは何故か獣の耳が頭から生えていた……


 アオイが脱がされる度に、そして揉まれる度にフレアがアオイをガン見した結果、アオイとシルファの二人掛かりで氷付にされたのは、おそらく内緒の話なのだろう……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ