終話
一時の平穏が訪れた王都。しかし王城では慌ただしく遠征の準備が整えられていた。
「それはそっちじゃない!」
「急げ、時間は待ってはくれないぞ!」
第一軍、第三軍共に、王都の危機を救ったことで未だに士気は高い。戦闘御行動後すぐの遠征準備にも関わらず、活気があふれていた。
「エリシア・セプト・ノーテルダムを将軍とし、第一軍の司令官に任ずる」
「は、謹んで拝命いたします」
王宮の謁見室では遠征軍の指揮官の任命式が執り行われていた。
「次にアリシア・ルイス」
「は!」
「準将軍に任じ、将軍エリシア・セプト・ノーテルダムの副官に任ずる……娘を頼むぞ」
「は、謹んで拝命いたします」
怪我を負った者達を除いて第一、第二軍を統合し、新たに第一軍としたのだ。そしてそれの指揮官としてエリシアを、副官としてアリシアが任じられた。
「なお、先に先発した第二軍については、臨時司令官エンジュ・ルイスをそのまま正式に司令官とする。階級は準将軍。以上王命を持って命ずる。一同奮闘を期待する」
「は!!」
居並んだ一同が一斉に唱和する。覇気に満ちた声が謁見室に木霊した。
「最後に……」
そう言って王は諸島連合からの客人三人に視線を向ける。
「サクヤ・イチモンジ、アヤネ・シキナミ、ヨシヒロ・アオイにはこれを」
それぞれの前に盆を捧げ持った文官が進み出る。そこにあったのは一枚の木簡。そこには王家の家紋が銀の着色で描かれていた。
「知ってのとおり、銀は特別な色だ。その色で描かれた王家の紋章は、王家からの最上の信頼を意味する。上手く使ってくれ」
それを持っている以上、他国の人間だからと三人を無視することはできない。王家の家紋入りの木簡。それも銀色の紋となればなおさらだ。近年軍閥派に押されてはいたものの、それでも王家の威光は絶大な物があった。
慌ただしく任命式を終え、それぞれが仕事へと移る。王は文官を引き連れ執務室へと戻り、サクヤ達諸島連合組は与えられた居室へと向かう。少しでも疲れをいやすためだ。そしてアリシアはルイス邸へと向かう。あまり時間は賭けられないが、家の状態を見ていたかったのだ。
「アリシア様! よくぞご無事で」
「サーシャ、そっちこそよくぞ無事でいてくれた。留守にしてごめんなさい」
アリシアが謝罪する相手はルイス家に長年使える老使用人だった。
「それより襲撃を受けたと聞いたのだけど、どんな状況なの?」
不安そうに問いかけるアリシア。彼女にとって、この家で働く者たちは家族のような存在だ。その者達の安否を気遣う。
「残念ながら……」
しかしアリシアの願い虚しく、幾人もの死人が出たという。
「ヨシヒロさんたちが出撃した間に襲撃がありました。残っていたのはキリツグさんと、少数の護衛。後は我が家の使用人達のみでした」
「そう……」
「幸い、辛うじてヨシヒロさんが間に合ってくれたので」
少数の護衛が命を落とし、使用人もまたその命を散らした。その間にレオナルドを拘束したヨシヒロ達が駆け付けたのだった。
「遺族には出来る限りの援助を。私はまたでなければなりません。心苦しいですが……後を任せます」
「かしこまりました。くれぐれもお気をつけて。エンジュ様と共にご帰還されることを心よりお待ち申し上げております」
「ありがとう」
その後アリシアは、自分の部屋で荷物を整えると、老使用人に見送られて再び王城へと向かうのだった。
かくして出撃の準備は整った。この先どんな戦いが待っているのか、誰も知らない……




