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黒の騎士・白銀の王  作者: hiko
第三章 小隊対抗戦
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第三話

 久しぶりに自分の部屋へと入る。長らく空けていたので空気が停滞していた。換気をするべく窓を全開にするシュウ。そこから心地よい風が入ってくる。そして彼は荷物を置き、細長い包みを壁へと立て掛けた。


「さて、どうなっていることやら……」









 ――シュウが諸島列島から帰国した――


 その知らせが第二小隊の小隊室に届いたとき、シュウを除く全小隊員がそこには集まっていた。


「姉さん……」


「分かっている……」


 エンジュから促され、アリシアが小隊員へと視線を向ける。その眼差しは険しい。


「いい?絶対に悟られないように。これは最上級の極秘指令よ。エンジュ、作戦概要を」


「了解」


 アリシアからの指示を受けエンジュが作戦概要を説明する。


「――……以上が作戦の概要。質問は?………よし!だったら各自もう一度自分の役割について確認すること。いいね?」


「了解」


 一同が返事を返す。その顔はどの顔も真剣そのものだった。最後にアリシアが立ち上がる。


「いい?チャンスは一度きり。絶対にミスは許されない」


 そう言って隊員一人一人の顔を見回す。


「各自、健闘を祈る!」


 その言葉を合図に全員が一斉に部屋を飛び出していった。誰もいなくなった部屋には紙切れが一枚残されていた。そしてその紙に書いてあったのは……









 アリシア達から遅れること一月と数日。ようやく帰国を果たしたシュウは部屋によった後、制服へと着替え学校へと向かっていた。時刻はすでに夕刻を回っていて、その日の講義はすでに終了している。しかし彼は自分が休んだ間のことを聞きに行く必要があった。学校の正門をくぐり、歩みを進めるシュウ。ふと気づいたことがある。


「そういや前回ここを通った時は、あたり一面雪景色だったけ?」


 そうつぶやきながら周りを見回す。今はもう雪は全く残っておらず、代わりに木々が新たな芽を出し、青々と茂っていた。そしてふと疑問。


「――?なんで木なのに青々っていうんだ?普通緑って言うんじゃ……?」


 別に答えを得ようとして発した問いかけではなかった。ただ何となくつぶやいた言葉……しかし思いがけず答えが返ってくる。


「昔の人たちは、緑のことを青と……言っていたそうですよ」


 声はシュウの後ろから聞こえた。振り返ったシュウが見たのはシュウと同じように木々を見上げる女性。


「あなたは?」


「はじめまして、エリシア・セプトと申します。よろしくお願いします、シュウさん」


 そういって微笑む女性は軽く会釈する。シュウも会釈を返しながら、ふと気づく。


「あれ?俺の名前……」


「ふふ……有名人ですから」


 女性はそう言って笑った。何とも不思議な雰囲気を持った女性であった。









「じゃぁ、昔の人は青のことはなんて?」


 シュウは女性と共に歩みながら、先ほどの答えに対しての疑問を投げかける。緑のことを青と言っていたのなら、青のことはなんて言っていたのだろうか?


 そのシュウの質問に女性は笑みを浮かべながら答える。


「青も、やっぱり青と…言っていたみたいです」


「へぇ……緑も青、青も青…なんか紛らわしそう………」


「そうですよね。今でこそ色に関する言い回しは多く様々ですが、昔は青、赤、黄色。あとは黒と白ぐらいしかなかったそうですよ」


「へぇ…くわしいですね」


 素直に感心するシュウ。それらは興味がなければ、自分から知ろうとしなければ知ることはない知識。


「私も…」


「ん?」


「私も思ったことあるんです。なんで木々は青い……なんて言葉があるんだろうって。小さいときに」


「どうして?」


「だって木々の色は、私の色だから……」


 そう言って女性ははにかむ。風になびく色は緑。背後に茂る木々の色だった。


「不思議ですよね……同じ"みどり"でも少しづつ違う」


 話はさらに微妙な色の違いへと進んでいた。シュウは言われてみればと思う。彼の知る"みどり"に属する人たちも、少しづつ違う色をしている。アリサは緑より、翠。少し青みがかっている色だ。そしてエリノアの色は緑。植物の色だ。そこまで考えて、シュウは急におかしくなって笑い声をあげる。


「何がおかしいんですか~」


 ――むー……と膨れてみせるエリシア。非常に和む。


「いや、こんな当たり前のことを真剣に考えてるのがなんか不思議で……」


「そう言われてみれば……」


 そう言って女性も笑う。笑いあうシュウとエリシア。不思議な、そして和やかな空気が流れていた。









 エリシアと建物入口で分かれ、シュウは建物の中へと入って行く。この建物は教官室や、応接室、会議室などが入る建物で、通常は生徒が立ち入ることはあまりない。よってシュウはいささか緊張した足取りで建物内部へと入っていった。そして、それを木陰の中から監視する者たちがいた。


「対象を発見。シュウ・アカツキで間違いありません!」


「了解」


 一人がその場に残り引き続き監視体制へと入る。そしてもう一人はすぐさま伝令として、どこかへ走り去った。









「失礼いたしました!」


 シュウは一礼して部屋を出た。


「ふぅー」


 そして出た瞬間ため息を吐く。非常に緊張した……のだが、


「はて?」


 シュウはそう言って考え込む。自分はいつの間に課外研修というのに参加していたのだろうか?

 先ほど担当教官から言われ、いくつかの書類にサインをした。


 『課外活動並びに課外実習届け』


 というやつと、


 『課外活動並びに課外実習終了報告書』


 というやつであった。


「届けと報告書同時にサインって…いいのか?」


 そういえば担当教官もどこか様子が変だったような…………


 もちろん本当は良くない。というよりばれたら結構まずいことになったりする。これは正式書類の偽造に当たるからだ。担当教官はアリシアとエンジュの各種様々な要請により協力させら…………協力しているにすぎない。そしてばれたら真っ先に怒られる役割を担っていた。


 幸か不幸か、そうとは全く知らないシュウ。結局彼は、


 ―ま、気にしたって仕方ないか……


 といった結論を出し、それ以上深く考えることなくその場を後にする。次に向かうのは小隊室。アリシア達にも帰国の報告をしなければいけない。


 そして………









「出てきました、シュウ・アカツキです!」


「了解、こちらも確認しました。これより作戦を開始します」


「了解。成功を祈る!」


 そう言うと一人の風の神霊術師は術を収め、通信を終える。相手ももちろん風の神霊術師。風を操る者同士が風を通じ情報を伝達する事ができる。


「さて、こちらも最後の仕上げと行きますか」


 そう言って彼女たちは静かに移動を開始し始めた。









 人気がなくなった後、繁みのほうへと視線を向けるシュウ。


 ――はて? 彼女たちはいったい何をしているのだろうか?


 学校内に入った頃から自分の周りをうろうろしている者達がいることにシュウは気づいていた。それが良く見知った顔だという事も。それに気づいたからこそ危険はないと判断し、ほっておいたのだが……


「なんか、面白くないな」


 シュウはひとり呟きながら、あることを思いつく。そしてすぐさまそれを実行するべく行動へと移す。その顔はあたかもいたずらを思いついた子供のようであった。









 アリサを先頭に、フレア、アオイと続いて校内を全力で走る。目指すは小隊室。彼女たちは一刻も早く目的地に到着しなければならない理由があった。通り過ぎる人たちが何事かと振り返るが、しかし彼女たちはそれを気にする余裕がない。"彼"よりいかに早く小隊室へとたどり着けるか、どれだけ時間を稼げるかが、この任務の成功のカギを握る。こうして彼女たち"四"人は小隊室のある建物へと突入し、階段を駆け上がって小隊室の前へと到着する。


「ただ今戻りました!」


 そう叫ぶように言って、息を切らしながら部屋に入る三人と、まったく息を切らすことなくそれに続く一人……………


「おかえり――」


 と、そこで固まるアリシア。そして同じく固まる部屋の中にいた他の面々。


「――? どうかしまし………」


 訝しみ、アリシア達の視線の先、つまり自分たちの背後へと目を向けるアリサ、フレア、アオイの三人………


「ええええ!?」


「はぁ!?」


「な、なんで!?」


 驚きを隠せない三人、そこにいたのは……


「よ! ただ今戻りました」


 そう言ってさわやかに微笑むシュウの姿が。その微笑みには、してやったり! といった

感情が見え隠れしていた。


「…………」


 いまだ驚愕から覚めえないアリシア以下小隊の面々。


「あれ? あなたは……」


 その中に、つい先ごろ見かけた緑髪の女性の姿を発見し、声をかけるシュウ。


「エリシアさん?」


「ええと……先ほどはどうも…シュウさん」


 戸惑いつつも返事を返すエレシア。彼女がここにいるということは…


「一応私も第二小隊の隊員なんです。よろしくお願いしますね? シュウさん」


「こ、こちらこそ…」


 いつの間にか彼女のペースに引き込まれつつあるシュウであった。


 そして、ようやく我に返り始めた他の面々。


「っちょ、ちょっとシュウ君いつの間に…」


 アリサがそう問いかけると、フレアとアオイもこれに続く。


「そうだぜ、いつの間に……」


「っていうか、いつから後ろいたの?」


 そして…………


「ふ~れ~あ~くん? これは一体全体どういうことなのかしらぁ?」


 にっこりと、美しく微笑む我らが小隊長殿が声を発する。フレアは震えあがり、その隣にいるアオイ、アリサは矛先が自分に向かなかったことに密かに安堵していた。


 ――のだが…………


「アオイちゃん? アリサ? 二人も同罪だからね?」


 そんな甘い相手ではなかった。


 目の前で震え上がる三人の背中を眺めつつ、シュウは先ほどから疑問に思っていたことを問いかける。


「あの隊長……これはいったいなんなんですか?」


 するとアリシアの笑顔が凍りつく。そして見ているうちにごまかし笑へと変わった。


「えっと…その………」


 アリシアが口ごもるのも珍しいな~等と考えていたシュウだが、見ればどの顔も気まずそうに、そしてどこかごまかすように笑っていた。誰もシュウと目を合わせようとしない。 いよいよ不審に思い始めるシュウ。するとその時、意を決したようにアリシアが立ち上がった。続いて他の面々も立ち上がる。そして――


「た、誕生日おめでとうシュウ!!」


 皆が一斉に叫び、まずアリサ、エレシアの二人が風を使って、窓に暗幕を張っていく。続いてアリシア、エンジュ、フレアの三人が指を鳴らす。するとその指先から火花が飛び出し赤、青、橙と様々な光を発してその部屋を彩る。さらにアオイが氷のキャンドルを作り出し、先ほどの光が消えた頃を見計らってカグラが灯を灯す。部屋が幻想的な雰囲気に包まれる。


 その光景に目を奪われているシュウを満足そうに眺めた後、アオイがシュウを奥の机へと導く。その机の上には、芳醇な香りを漂わせるお茶が人数分並び、真ん中には美味しそうなお菓子が盛られていた。次々に席に着く面々。そしてアリシアが始まりの音頭をとる。


「それでは、シュウ君の誕生並びに無事の帰還を祝って……かんっ――」


 ……いや、とろうとした。


「あ、あのぅ~」


 そこへ声が割り込む。気まずそうに、言うべきか言わざるべきか迷うように。


「なに?」


 いいところで遮られ、多少不機嫌になるアリシア。しかし発言したのが祝われようとしているシュウだったのに気づくと、今度は不思議そうな表情へと変わる。そして…………



 ――爆弾が投下された………



「僕の誕生日って、まだまだ先ですよ?」


「………」


「…………」


「……………」


「………………」


 場を沈黙が支配する。そして、


「はい!?」


「えええ!?」


「ど、どゆこと??」


「なんで?」


 等々……次々と声が上がる。


「いや、なんでって………そもそも、なんで僕の誕生日が今日だと思ったんですか?」


「え、いや……それはフレアが………」


 アリシアはそう無意識に答えて、改めてフレアへと視線を送る。そして………


「フ~レ~ア~君~…………これはいったいどういうことかしらぁん?」


 笑顔を浮かべつつ、そのこめかみには青筋が浮いているという非常に器用な仕草でもって、尋問…もとい聞き取りを始めるアリシア。そしてそこにアリサが加わり、カグラが加わって聞き取りは続いた…………









 結局のところ、きっかけはフレアの勘違いということであった。彼は昨日担当教官のもとへと呼び出された。聞かれたのは先日の学年別小隊戦におけるフレアの敗北について。一部からフレアが戦おうとしなかったことが問題視され始めているという。一応その場は簡単な質問だけで済んだのだが、次は全力を出すようにとくぎを刺された。


 苦い思いをしながら、フレアが教官室を後にしようとしたとき、担当教官の机の上の書類が目に留まった。それはシュウ、アオイ、フレアの入学時期の情報。そして先日の対戦相手の情報もあった。


 ――見比べて情報分析をしていたのか……


 それを知ってさらに気持ちが沈み込む。



 

 その時、シュウの情報の一部にたまたま目が留まった。そこに書いてあったのが、シュウの誕生日。そして日付は今日を示していた。


 そのことをなんとなくアリシアに伝えたフレア。そしてアリシアが急遽隊員全員を巻き込んだ誕生日会を計画し………現在に至る。そんなところらしい。


 アリシアにとってはフレアに無理やりにでも気分転換をさせるという意図もあった。


「はて……」


 そこまで聞かされて考え込むシュウ。そして彼はあることに気づく。


「ああ! それ、俺の保護者の誕生日ですよ。確か保護者の誕生日書くとこあったでしょ?」


「ああ……」


「なるほど………」


 納得する面々。どの顔にもようやくすっきりした様子が見て取れた。









 こうして事件は解決し、『シュウ君の誕生日並びに帰国を祝う会』は『全員の無事の帰国完了並びに明日からも頑張ろうの会』へと名前を変えて無事執り行われた。約一名を除いて…………


 その一名はというと…




「いいんだ、どうせ僕なんか……ぐす…僕なんか……ぐす…どうせ…ぐす……な、泣いてなんか………ないぞ……ぐす…」


 といった感じで、部屋の隅で膝を抱えて小さくなっていた。


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