表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の騎士・白銀の王  作者: hiko
第二章 諸島連合
19/71

終話

 暖かい風が心地よく、その風には新たな生命の息吹を感じられた。草や木や花々、その他にもたくさんの命がはぐくまれる緑の節。その三月。一軒の真新しい家の前に一人の青年が佇む。


「きれいになってる…」


 その青年はそうつぶやき、その建物の中へと足を踏み入れた。


「こんにちは。………皆さんお久しぶりです!」


「シュウ君!?」


「あ、おっきいほうのシュウ君」


「おっきいほうのシュウ君」


 そしてすぐさまずっこけた。


「お、おっきいほう?」


 それは帰り際にある赤髪の青年が子供たちに教え込んでいった呼び方だった。


 青年の名はシュウ・アカツキ。修行を終え、イザナギ家へと戻ってきたところだった。そして他の小隊員はというと…………


「みなさんとっくに帰国されていますよ?」


「あ、やっぱり?」


 そう言ってうなだれるシュウ。









 彼は気難しいといわれる剣聖に、なんとか無事弟子入りすることがかなった。かなったのだが………


「名前を聞いてもしやと思ってはいましたが、女性の方とは知りませんでしたよ……」


「あれ?言ってなかってですか?」


 そう言ってとぼけてみせるコテツ。その目は笑っていた。


 その女性。女の身ながら、最強の剣客といわれているだけあって、相当に強かった。強かったのだが……


「苦労させられましたか?」


「それはもう嫌というほど!」


 シュウは力いっぱいこめて返事を返す。知っていながら何も伝えなかったコテツに非難のまなざしを向けながら……


 シュウとて、わざわざ紹介状まで書いてもらったのだ。感謝はしている。しかし剣聖と呼ばれる人物の破天荒ぶりと言ったら………


「どこにいたと思います?」


「どこにいたんです?」


「……エシャス火山の山頂付近です……」


「は?」


 コテツは目を丸くすると、盛大に笑い出した。


「エ、エシャス火山ですか。あの!」


 エシャス火山とはこの国で最も活発な活火山であった。シュウが人づてに彼女の居場所を聞いて回り、島々を飛び回ってやっとのことで彼女を探し出したとき、彼女は溶岩、マグマが飛び散る中、その山頂付近で優雅にお茶など呑んでいた。


「お、お茶……」


 それを聞いてさらに笑い声をあげるコテツ。


 シュウは深い深いため息をつく。


「それだけじゃないんです」


 しかし本当の苦労は、何とか頼み込んで弟子入りを認めてもらった後のほうだった。彼女はその後、断崖絶壁を歩いて渡り、遠く離れた島へと泳いで渡り、谷底で過ごしたかと思えば、次の日にはそこらで一番高い山へと登る。


「お、泳いで……」


 もはやコテツは笑いすぎて、その目からは涙を流し、息も絶え絶えとなっていた。そしてそのころになってようやく知ったのだが、彼女は基本的に弟子入りは断らない。そして弟子のほうから逃げていくそうだ。それを告げると目をそらすコテツ。どうやら知っていたらしい。


「はぁ………」


 シュウとしてはため息を吐くしかない。しかし得られた物はとてつもなく多く、そして大きかった。


 しばらく彼女と過ごすうちに、彼女の破天荒さには、彼女なりの理由と指針があることに気づいた。


 谷底と高い山との往復は、彼に強靭な肉体と精神力、そして心肺機能をもたらした。最初は嘔吐し、倒れるを繰り返したが……


 断崖絶壁を歩いて渡ることで、強靭な足腰と、絶妙なバランス感覚を手に入れた。何度も落ちて、その度に死にかけたが……


 火山の山頂では、広い視野と、観察力を手に入れた。最初のうちは溶岩に打たれ、マグマに焼かれ、その度に気絶を繰り返したが……



 ………よく生きてたな俺?



 いつの間にか遠くを見る目になってしまったシュウをよそに、まったりとお茶をすするコテツ。そして彼は鍛冶師として長年剣士を見てきたその目で彼を見る。そこには彼の知る限り、剣士として理想的な体つきを手に入れたシュウの姿があった。剣士は筋肉をまとう必要はない、必要なのは瞬発力と、敏捷性、平衡感覚、そして足腰の強さ……彼は満足そうに笑う。自分の目は確かだったと。彼に刀を託したのは間違いではないと。



「それで、ずいぶんと帰りが遅くなったようだけど……」


 コテツはシュウを現実に引き戻すべく口を開く。


「ああ、それは師匠が返してくれなくて。なんか"私に弟子入りしたからには私の納得する最低限の強さを身に着けるまでは返さない"って」


「それはまた…」


 ずいぶんと気に入られたものだ。


「それで、君はいつ出発するのかな?」


「明日にでも…と思っています」


 すでに学校は始まってしまっている。帰ればどんなことになっているかわからない。無断欠席……最悪の場合は退学、除籍もあり得る………一刻も早く彼は帰る必要があった。


「そうか、ならば今日は泊まってゆっくりしていってほしい。あの子たちも喜ぶ」


 そう言ってコテツが見つめる先には遠くからこちらを伺っている二人の子供たちがいた。


「ありがとうございます」


 シュウはただそれだけを口にし、頭を下げた。


 ちなみにこの時のシュウの心配はただの取り越し苦労となる。先に帰国を果たしたアリシアがその権威と、見た目と、しぐさでもって、そしてエンジュがその弁舌でもって、シュウの扱いを無理やり課外研修と位置づけさせたからだ。これは通常であれば数月前に申請をし、数名の教官の承認が必要となる代物であった。








 ――その翌日――

 シュウの帰国を港で見送り、買い物へ行く妻と子と別れ、一人自宅に帰宅するコテツ。すると――


「おそかったな」


 無人のはずの家に入ったコテツに女性の声がかかる。


「めずらしいな、お前がここに来るのは」


 そう言って手ずからお茶を用意するコテツ。


「いや、面白い者を紹介してもらったお礼をと思ってな」


 そこにいたのは最強の剣客、剣聖サクヤ・イチモンジだった。


「いい素材だっただろ?」


「ああ、いろいろといじらせてもらった」


 そう言って笑い声をあげる。彼女のいぢめ……という名の修行についてこれる人材はなかなかいない。彼女としても久々に鍛えがいのある原石と出会えたことに感謝していた。そして彼女には、これから先いろいろとおもしろくなりそうな確信めいた予感があった。


「すまんな、お前に何の相談もなしに」


 お茶を準備し終えたコテツが、サクヤの前に腰を下ろすなり頭を下げる。


「何のことだ?」


 サクヤは何のことか、分かっていながら首をかしげて見せる。


「護神刀のことだよ。それから"あれ"を奪われてしまったことも……」


「ああ……ま、気にするな。奪われてしまったことは仕方ないし、護神刀に関しては正しい判断だったと思うよ」


 そう言ってサクヤはお茶を口にする。


「旨い………」


 そして懐かしい味。このお茶の葉はイザナギ家の庭で取れる自慢の一品だ。


「お前はあの青年をどう見た?」


 コテツは真剣な眼差しをサクヤへと据える。


 そしてサクヤもお茶を置き、真剣な目で答えた。


「たぶんあなたの考えている通りかと。…………"兄上"」


「そうか」


 コテツは静かにまぶたを閉じ、そして………


「これも運命というべきか……」

 

 一人呟きを漏らした。

 無事第二章を書き終えることができました。読んで下さった方々、本当にありがとうございます。


 ここ数日、おかげ様でアクセス数がかなり伸びてきているように感じます。本当にうれしい限りで、また頑張って書き続けようという力になっております。


 まだまだ、つたない文章表現、文法、言い回し……たくさんの未熟が詰まった作品ですが、今後も見守っていただければと思います。


 ここが読みにくい、ここどういう意味?、もっとこうした方がいい・・などなど何かご指摘がありましたらぜひお寄せください。その他にも、感想、ご要望、ご指摘何かございましたら、よろしくお願いいたします。


 そして次回からは第三章、舞台は再び学校へと戻ります………


 それでは今後ともよろしくお願いいたします。


                             H24.9.5 hiko

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ