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黒の騎士・白銀の王  作者: hiko
第二章 諸島連合
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第三話

 目を開けるとそこは見慣れない場所だった。そして自分はどうやらベットに横になっているらしい。寝ぼけ眼でそんなことを考え、ふとおなかの辺りがずきずき痛む事に気づく。


 はて?自分はいったい……


 そう考え横を向いた少年の目に、よく見なれた寝顔が入ってくる。


「シュウ?」


 少年は弟の名を呟き、そして突如跳ね起きた。


「―っ!!」


 痛みに顔をしかめながら少年は思考を巡らせる。


 ――自分たちは確か襲われたはずだ…あれからどうなった? ここはどこだ? どれくらいたった?

 思考を巡らせようとするが、寝起きの頭は何処かぼんやりとしており、はっきりしない。

するとドアが開き一人の少女が入ってきた。そして少女は少年を見て、一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにその表情は笑顔へと変わった。


「気が付いた?」


 その少女の声を聞き、改めて少女の姿を見た時、少年の頭は一つの光景を思い浮かべた。舞う美しき炎。翻る紅の髪。力強く気高き紅の瞳。


「あ…」


 ようやく頭がはっきりとし、すぐさまこれまでの出来事がよみがえる。


「あ、あの、助けてくれて、ありがとうございます!」


 そう言って少年は勢いよく頭を下げた。その頭上から優しい声が降ってくる。


「気にしないで、それよりもちゃんと横になっていなさい。おなか…まだ痛いでしょ?」


 その少女はそう言うと、優しく少年の体を横たえた。こんなに強くて、こんなにやさしい人がいるなんて…少年は驚きと感謝の気持ちを込めてその少女を見つめた。







「だれだありゃ?」


「さぁ、だれだろ?」


「だれだ?」


 順番にフレア、アオイ、シュウの言葉だ。場所は彼らが滞在している宿。その一室で行われてたアリシアと助けた少年のやり問いを彼らは扉越しに眺めていた。そしてアリシアに対して抱いた感想がこのセリフだった。するとそれに、三人の背後から苦笑交じりの声が答える。


「あれは正真正銘うちの隊長であり、僕の姉だよ」


 姉をあれ呼ばわりするエンジュだった。


「姉はああ見えて結構子供好きでね、面倒見も割といいし、子供に対しては大概あまい。ま、今見ている通りだよ」


 そういうとエンジュは腕を組みさらに続ける。


「ああしてると、将来はなかなかいいお嫁さんになるんじゃないか~なんて思うんだけどね~ただ…」


「相手がいない?」


「そう、それなんだよね~」


 そう言って考え込む素振りを見せる。弟としてはやはり心配だったりするのだろうか…ちなみに絶妙なタイミングでの合いの手はフレアだ。そしてそれが致命傷となる。


「…二人とも? ちゃんと聞こえているわよ?」


 そう言って部屋の中からアリシアが微笑む。子供の前用の声音と表情は保ったまま。それがなおさら恐怖心をあおる。


「え、いや、あの…」


「いや、僕は…その」


 言いよどむフレアと、エンジュ。フレアも懲りないな~というより何度目だろう?などと考えながら、シュウはそういえばエンジュ先輩の慌てるところも珍しいな。などと考える。やはり先輩も姉は怖かったりするのだろうか?などと所詮他人事と傍観していたシュウや、アオイに対しても被害は広がる。


「シュウ君? アオイちゃん? 二人とも同罪だからね?」


 そう言ってこの上なく美しく微笑むアリシア。


「はい?」


「ええ?」


 固まる二人。なぜ?二人の顔にはそう書いてあった。止めなかったから?否定しなかったから?どちらも無理だったのではないか?二人はいまいち納得できない。しかし…


「みんな、覚えておいてね?」


 そう言って優しく微笑む隊長を前に、ただただうなずくことしかできない隊員達であった。







「へぇ、シュウ君っていうんだ」


 外がだいぶ暗くなってきた頃、ようやく弟のほうも目をさまし、軽い自己紹介が行われていた。兄のほうがユウキ・イザナギ、弟のほうがシュウ・イザナギという名前だった。その弟の名前が、小隊の某黒髪の一年と同じだったため、面々は大きく盛り上がっていた。そんな中、


「それで、ユウキ君は襲われたことに何か心当たりはある?」


 アリシアが気遣うように、けれどもはっきりと問いかける。


「いえ、特には…ただ、」


「ただ?」


「神遺物がどうのって男の一人が…」


「神遺物!!」


 驚く面々。無理もない、ここでそんな言葉が飛び出してくるとはだれ一人として想像していなかった。


「まさかユウキ君、神遺物持ってるの?」


 驚きを隠せずに問いかけるアオイ。だがそれに対して、ユウキは首を横に振ることで答える。


「となると奴らの勘違いか…あるいは狙いはこの子たちの周りにいる誰かか…」


 フレアの呟きにはっとなる第二小隊の面々。


 事態は思ったよりも深刻だった。事実であれ、勘違いであれ神遺物が絡んできた以上、最悪の場合死人が出てもおかしくはない。過去にはそれを巡って戦争まで起きたのだから。


「とにかくまずはこの子たちの家に行って、親なり知り合いになり話を聞くべきだろう」


 エンジュが今後の方針を決める。アリシアはそれに黙ってうなずきを返した。これにより隊の活動方針が決定した。すぐさま活動に移す第二小隊の面々。呆気にとられる子供二人を伴ってすぐさま宿を後にする。向かうはこの子たちの住む家。







 暗くなった道をフレアを先頭にして第二小隊の面々が急ぎ足で通り過ぎる。フレアが先頭なのは彼が炎の神霊術を操り、足元を照らしているからだ。そして一行は目的地にたどりつく。そこではこの時間にもかかわらず、明かりが灯され人だかりができていた。


「しまった、遅かったか…」


 思わずそうつぶやくフレア。他の面々も顔をこわばらせる。しかし事態は彼らが想像したものとは違っていた。


 人ごみの中から二人の男女が走り寄ってくくる。


「ユウキ、シュウ!!」


「とおちゃん! かあちゃん!」


 ユウキと、シュウの兄弟は口々にそう叫ぶと両親の元へと駆け込む。


「これはいったい…」


 抱き合う家族を見ながら首をかしげ、顔を見合わせる第二小隊の面々。すると、抱き合っていたユウキがこちらを指し示し、父親に何かを告げる。父親もこちらに顔を向けると、家族を伴ってこちらに歩み寄ってきた。


「子供たちを助けていただいたそうで、本当になんてお礼を言ったらよいか…」

そう言って深々と頭を下げる。その頭は白いものが混ざり始めているが黒い。そしてその隣で頭を下げる母親はきれいな緑の髪をしていた。兄弟もまた髪の色は緑。母親の色を受け継いだのだろう。その子供たちも両親にならって頭を下げる。その肩にアリシアがそっと手を添える。


「子供たちも、そしてご両親も無事でよかったです。……事情を話していただけますか?」


 父親は母親と一瞬顔を見合わせるが、すぐにうなずき一同を家へと招き入れる。母親は子供たちを連れて集まっていた人たちへ声をかけに行く。おそらく無事を報告しているのだろう。迎え入れる人々も次々に子供たちの頭をなでている。危険はなさそうだと判断し、父親の後に続き一同は家の中へと足を踏み入れた。







 父親はコテツ・イザナギと名乗った。この家で刀や包丁等を打つ鍛冶師をやっているそうだ。彼が鍛冶場にいた時、弟子の一人が駆け込んできて子供たちが連れ去られたことを知った。その場は大騒ぎとなり、人々が集まってきた矢先に子供たちが戻ってきたということだった。


「それで、子供達が襲われたことに何か心当たりはありますか?」


 アリシアがコテツに問いかける。


「いえ、特に思いつくことは何も…私は一介の鍛冶師ですし、妻も。誰かに恨みを買うようなことも…身に覚えはありません……」


 エンジュは男のしぐさ、言葉、表情を注意深く見つめる。しかし嘘をついている様子は見られない。本当に心当たりがないようだった。エンジュはそれを確認するとアリシアへと目を向けうなずいてみせる。するとアリシアもかすかにうなずきを返し、再び口を開く。


「では、神遺物に心当たりは?」


「な!……ぜ?」


 コテツの変化は明らかだった。


「あるんですね」


 エンジュがすぐさま念を押す。


「はい………」


 コテツはどうにかそう言うので精いっぱいだった。







 しばらく無言の時間が過ぎた後、おもむろにコテツが口を開く。


「取り乱してしまい、申し訳ありません。ただ、驚いてしまって」


 そういうコテツからは何かを隠そうといった素振りは見られない。コテツは続ける。


「しかしあなた方はなぜそれを?それは誰も、子供たちも知らないことのはず…」


「実は襲ってきた男の一人が言っていたそうなのです。神遺物がどうのと」


「な!」


 アリシアの言葉に再び驚きをあらわにするコテツ。とその時、母親が子供たちを連れて家の中へと入ってきた。母親はすぐさま家の中の雰囲気に気づき、子供たちを寝室へと促す。アリシアは夫婦に許可を取り、シュウ達一年三人も寝室へと促す。そして彼らに子供たちの相手を命じる。少人数のほうがコテツも話しやすいのではという判断、母親もこの場にいたほうがいいのではという勘、そしてあんなことの後で子供二人きりにさせるのは忍びないという配慮からだった。コテツはそのアリシアの配慮を敏感に察知し、静かにただ頭を下げた。


 四人きりになり、母親がいれたお茶を前に再び話し始めるコテツ。


「これからお話しすることは、ここにいる妻も知らない私一人が知っていることです」


 そういった夫の言葉に妻は少し驚いた様子を見せたが、しかし何も言わなかった。


「我が家は代々刀を打つ刀鍛冶でした。そして我が家には一つの家宝が代々伝えられてきました。その家宝こそが、かつての超文明の遺産、神遺物です」


 再び驚きをあらわにする妻。それとは対照的にエンジュとアリシアはただ黙って聞いている。話の流れから、そして今までの経緯からなんとなくだが想像していたことだった。


「知っている人は本当にあなただけなのですか?」


 アリシアが静かに問いかける。


「はい、それは確かです。このことは家を継ぐ者にのみ密かに伝えられてきたことです。私も先代である父親から密かに告げられました。決して人に漏らすなと」


「しかし漏れていた…そう考えるのが妥当かと」


 エンジュがそうつぶやき、アリシアがうなずく。


「いま、その神遺物はどちらに?」


「それは………」


 アリシアの問いかけに言葉を詰まらせるコテツ。無理もない代々先祖が守り通してきた家宝だ。おいそれと人に見せられるものではないだろう。しかしコテツは、


「……こちらです」


 そう言って自ら案内しようとし始める。これには聞いた本人も驚く。


「いいのですか?」


 アリシアの問いに、静かにうなずき、微笑みさえ浮かべるコテツ。


「私は、長年鍛冶だけにいそしんできました。そんな私のもとに嫁いでくれたのがこいつです」


 そう言うとコテツは隣に座る妻へ視線を向ける。そのまなざしは暖かい。


「一緒になった後も、私の目は常に鍛冶場へと向いていました。けれども、こいつは嫌な顔一つせず、ずっとここにいてくれた。そしてこの年になってようやく授かった子供がユウキとシュウです。今の私には刀より、鍛冶より大切な宝です。それこそ家宝よりも……」


 そういって微笑むコテツの目にはうっすらとだが涙が光っていた。そしてその隣に座る妻の瞳にも………そしてコテツは再び頭を下げる。


「その宝を、あなた方は守ってくれた…」


 妻も涙をぬぐい頭を下げる。


「私からも、お礼を申し上げます。本当に……本当に……」


 その後は言葉にならないようだった。アリシアが静かに口を開く。


「顔を上げてください。……案内していただけますか?」


「はい…」


 コテツは顔を上げうなずいた。







 コテツの妻が子供たちのもとへと向かい、代わりにシュウ達三人が合流する。そしてコテツの案内でまず向かった場所は家の隣に立つ鍛冶場だった。


「うわぁ、広い…」


 そうつぶやくアオイ、他の者たちも興味深そうにあたりを見回している。鍛冶用の炉がいくつも並び、そのうちのいくつかはまだ火が入っている。そしてそこでは鉄を打つ音が響き渡り、真っ赤に焼けた鉄を槌で打って伸ばす作業が行われていた。


「お弟子さんたちですか?」


「ええ。みんな腕も気もそこそこいいやつらです」


 アリシアの問いかけに答えるコテツ。その顔はどこか誇らしげだった。


「そこそこってそれ褒めてるんですか?」


 すると、そう言って笑いながら話しかけてくる人物がいた。


「おお、紹介しましょう。スグル・アリシマ。私の一番弟子で、小さいころからここにいる…まぁ、息子みたいなもの…でしょうか」


 そう言ってコテツが一人の男を紹介する。


「はじめまして、スグル・アリシマといいます。シュウ達を助けてくれた方たちですよね?彼らは僕にとっても弟みたいなものなんです。僕のほうからもお礼を」


 そう言って男は微笑む。


「シュウ君?」


 そう言ってフレアはシュウのほうを見て笑い出す。


「ちょ、やめなよ、失礼だよ」


 アオイがあわてて止めようとする。そして―


「ぐぉほ…」


 フレアが腹を押さえて屈みこむ。それを冷ややかに見つめるシュウ。


「シュ、シュウ何を……」


 そう言ってフレアがついに倒れた。


「……?」


 それをわけがわからないといった風に眺めるスグル。そしてアリシアは、


「お気になさらずに、行きましょう」


 そう言ってコテツを促す。


「どちらへ?」


 あっけにとられつつも、コテツにそう問いかけるスグル。コテツは


「少しな…」


 そう言うに留めて、後を頼むとスグルに伝えると、再び歩き始める。そしてそれに続く一向。その時、エンジュは見逃さなかった。ほかの者たちは倒れるフレアを避けて、あるいは飛び越えていく中、ただ一人アリシアだけが、何気なく誰にも気づかれないように、フレアを踏みつけて歩き、彼にとどめを刺したのを。


 ………姉よ、そこまでやるか? 普通………


 そうため息をつく弟。なんだかアリシアのフレアに対する態度はますます遠慮がなくなってきているように感じる。そしてフレアも何も言わない。…………いや、言えないのか。そう結論を出し、ひそかにフレアに同情するエンジュだった。


 この時、エンジュも、アリシアも、そして他の誰一人として気づかなかった。彼らをずっと眺め続ける視線があったことに。







 鍛冶場から扉を開けて入った先、そこは保管庫だった。打ち上げた刀などが整然と並ぶ姿は、どこか静謐な雰囲気をもたらす、神聖な場所。そんな雰囲気を感じ取り、自然と口数が少なくなる。


「昔から、打ちあがった刀には神が宿るとされ、神への捧げものとされてきました。一度も血を吸っていない刀は神の憑代。我々刀鍛冶は敬意と信仰を持って、打ちあがった刀をこうして祀っております」


 そのコテツの言葉通り、入り口から一番遠いところに祭壇のようなものが設けられている。そしてそこに一本の白木の刀が祀られていた。


「もしかしてこれが?」


 そうつぶやくアリシア。


「いいえ、この刀ではありません。しかしこの一刀もまた我が家に代々つたわる物。これは我が一族の護神刀なのです」


「きれい……」


 その護神刀をみて、誰ともなくつぶやきが漏れる。刃は鞘に隠れて見えないが、鞘から柄まですべてが白い。神々しくすらあった。


「いつごろ作られたのかは私も知らないのですが、守り刀として、私たち家族を見守ってくださっている。そう信じられています」


 刀鍛冶故の、刀に対する信仰なのだろう。この国ではそういった物に対する信仰も多いと聞く。


 そうこうしているうちに、コテツは護神刀の前にひざまずき、深々と頭を下げる。そして懐から白い布を取り出すとその布越しに護神刀を持ち上げ、別の場所へと移す。そして再び護神刀へと頭を下げると祭壇の前に戻ってきた。そして祭壇の扉を開く。するとそこには人一人通るのがやっとといった穴があいていた。


「どうぞこちらへ」


 コテツはそう言うと、自ら先頭に立ってその穴の中へと進む。黙ってそれに続く一向。穴の中は緩やかな下り坂となっていて、それが遥か先まで続いている。どれほど進んだだろうか。暗く狭いため、時間の感覚が麻痺してくる。そんな時、急に地面の感覚が変わった。今までの土の地面から、人の手が入った石畳へと。


「このすぐ先です」


 そう言って進んだ先に、一つの扉が見えてきた。


「な…」


「これはまた…………」


「すごい…」


 口々に感動が漏れる。その扉は雄大で、荘厳で思わず立ち止まってしまう。そんな扉だった。そしてその扉はまるでつい先ほど作られたように汚れひとつなく、輝きを放っていた。


「私の父のころも、そして祖父のころもこの扉は変わらず、美しいままだそうです」


 その言葉に皆理解する。この扉は……


「超文明テノアール…」


「おそらくは」


 そう呟きを返し、コテツは自らの指に刃を当てる。


「コテツさん!?」


 驚く者たちをよそにコテツはゆっくりと刃を引く。そして指先からあふれてきた血を扉の一部に押し付けた。すると変化が訪れる。コテツの血が付いたところから静かに光があふれだし、そしてその光は瞬く間に扉中へと広がり複雑な文様を描き出す。


「わぁ…」


「なんて……」


「はは……」


 一同が受けた衝撃、そして感動は先ほどまでの比ではなかった。この世のものとは思えない幻想的な光景。その光は何処かはかなさも感じるし、同時に力強さも感じる。紅のようにも見えるし同時に蒼のようにも見える。多くの矛盾を秘めた光だった。そして光は突如明かりを増す。まぶしさに皆が目をつむり、そして次に開けた瞬間。目の前に扉は存在しなかった。扉があった場所はぽっかりと穴が開き、さらに先へと続いている。一同無言で進む。もはやだれ一人として口を開く者はいなかった。そして最後の一人が先ほどまで扉があったところを超えた時、再び扉が現れる。そして続いて内部が明るく照らし出された。


「……………………」


 さらに無言が続く。もはやだれ一人、この光景を、この感動を、この衝撃を言葉にできるものはいなかった。


「何泣いてんだよ?」


「フレアだって……」


「アオイもだよ……」


 あるのはただ涙。それは上級生二人も変わらない。


 そこは不思議な空間だった。何の素材かすらわからないなめらかな壁。触るとひんやり冷たい。そして近づくと勝手に開く扉。昼のように明るく照らす光。そこはまさに未知の領域だった。


「これが…超文明テノアール」


 先ほどと同じ言葉を、先ほどよりも深い感動と感慨を込めてシュウは呟く。そして彼は目に焼き付ける。初めて見た光景を。これから先忘れないように……







「こちらです」


 ひと通りの感動が過ぎ去ったころを見計らってコテツが再び声をかけた。そして進む先は広場の真ん中にある湖。その湖は決して大きくはないがどこまでもどこまでも澄んだきれいな水をしていた。


「おいしい…」


「ほんとだ……」


 水を手に掬い口をつけるアオイ、そしてアリシア。他の者たちも二人に習う。


「なんて…」


 またもや言葉が出てこない。胸を通り、腹の底へと浸み込む心地良さが何とも言えない。よく冷えていて、けれども冷えすぎていない。絶妙な温度。驚く面々にコテツがある方向を指し示す。その先にあった物は一振りの片刃の直刀。その刀身は血のような赤。あやしく、けれどの美しい輝きを放っていた。その直刀は湖のちょうど真ん中あたりに沈んでいた。


「もしかしてあれが?」


「はい、神遺物として我が家に伝わるものです」


 コテツの声は何処か畏怖を含んでいた。


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