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黒の騎士・白銀の王  作者: hiko
第二章 諸島連合
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第一話

「う~ん。気持ちいいね~。暖かくてポカポカして眠くなりそう…」


 そう言ってアオイは盛大にあくびをする。

外は盛大に雪が降っている。しかしこの部屋は適度に暖められ快適に過ごすことができた。シュウは苦笑しつつもう一人の友人の容体を訪ねる。


「どうだ?フレアの様子は?」


「ん?船室でうんうん唸ってるよ。寝れれば楽だと思うんだけど……」


「一度酔ってしまうとなかなか寝られないものだからね…」


 そう言って会話に加わるのは短髪紅髪に大きな体躯を持つ二人の先輩エンジュだ。彼は動きやすそうなゆったりとしたズボンをはき、上着も同様にゆったりとしたシャツを着ている。外にいた時はこの上から毛皮のガウンを羽織っていた。一方シュウとアオイも私服姿だ。アオイは白のセータに下は短めのズボン。そして長めのソックスといった出で立ちだ。そしてシュウはというと、黒の長ズボンにこれまた黒のシャツ。髪や瞳も含め全身黒で統一している。外にいるときに羽織っていたコートもまた黒色という念の入りようだ。よく見るとボタンやチャックなどが多めでファッション性も多少はあるようだが。シュウのその恰好を見た時、フレアが思わず、何の自己主張だ?―と突っ込んだのが記憶に残っている。そのフレアはというと現在絶賛船酔い中だ。そう、今第二小隊の面々は船旅の真っ最中だった。





 きっかけは少し前へとさかのぼる。蒼の節四月に入ってすぐ、学校は休暇へと入った。この蒼の節四月は年の締めくくりにあたる月で、学校だけでなく町や都市中が休養へと入る。そして年が明けて翠の節一月を迎え、その翌月緑の節二月からまた一斉に始まる。


 シュウ達三人は無事試験等を終え間もなく休暇だという時に、アリシアから呼び出された。


「まずは試験お疲れ様。いよいよ休暇が始まるわけだけど、予定とか立ててる?」


 何時もの小隊室へと集まった三人にアリシアが問いかける。


「いえ、俺は特には」


「同じく」


「僕も」


 三人とも特にこれといった予定は立てていない。というより、これから立てるつもりだった。まずは試験ということで、ここ数日はひたすら試験対策。実技、理論、学問…やることは多かった。それもようやく終わり、これから三人で計画を練ろうかとした矢先にこの召集だった。


「それは好都合」


 そう言ってにっこりほほ笑むアリシア・ルイス。


「え?」


 なぜか寒気がした。何か良くないことが起こる予感が…それは三人とも感じたことだったらしく、初めに焦ったようにフレアが口を開く。


「あ、あの…そういえば俺たち……」


「なぁに?ふれあくん?」


 そして、


「えっと、その僕たち…」


「どうしたのかなぁ?あおいちゃん?」


 さらに、


「あの、たいちょ―」


「なぁに?」


「……何でもありません…」


 肩を落とし屈服するシュウ。もはや笑みが笑みでなくなっていた。いつの間にか定着しつつあるアリシアの恐怖政治であった。





「合宿ですか?」


「ええ、そうよ」


 アリシアの提案は休暇中に合宿をするといったものであった。もっとも、拒否することも、異議を唱えることも許されないものを提案と呼ぶのなら……であるが。しかし提案自体は至極真面目な、そしてまともな話だった。


「この休暇が終わるといよいよ本格的に小隊活動が始まります。すでに小隊同士の模擬戦闘もいくつか日程が決まっていますし、なにより休暇明けには学年別の小隊対抗試合が開催されます」


「学年別の小隊対抗試合……そういえばどこかで聞いたような…?」


 首を傾げる某赤髪の1年生。


「フレア…」


 ため息交じりにつぶやくアオイ。アオイは続ける。


「この前担当教官が説明してたよね? 覚えてないの? ってかちゃんと話聞いてた?」


「聞いてたような…聞いてなかったような…」


「どっちだよ!」


 盛大に突っ込みを入れるアオイ。いつの間にかフレアがボケで、アオイが突っ込みというのが定着している。実に平和だ……などと考えていたら、今度はシュウに矛先が向かう。


「シュウもなんか言ってよ! ってかシュウはさすがに聞いてたよね? ね?」


「……アオイ。まずは落ち着け」


 肩に手をやり落ち着かせようとするシュウ。主に自分の為に。


「僕は落ち着いてるよ! ってか、シュウ、き・い・て・た・よ・ね?」


 一語一語はっきりと発音するアオイ。


「…………」


 無言で目をそらすしかないシュウであった。





 説明の途中で漫才を始めた後輩三人組を面白そうに眺めていたアリシアの元にエンジュが近づいてくる。


「何とも今年の一年は元気でにぎやかだな」


「そうね。いい傾向……なのかしら?」


「そうなんじゃないか? 少なくとも今のところはな」


 エンジュの目から見ても最初から仲は良かった三人。しかし、アオイやフレアに比べてシュウは人との間に壁を作ろうとする傾向があった。それはアオイやフレアに対しても変わらない。ある意味ではそれは仕方がないことだし、時間とともに解決していく問題だったかもしれない。しかし、それを強引に解決させたのはエンジュとアリシアだ。シュウが衆人の前で―アオイと、フレアの前で戦うように仕向けた。アリシアならば大事にせずとも収める方法はいくらでもあったにもかかわらず。今回はうまくいった。だが……


「少し、強引だったか……くそ、焦ってるのか?」


 そうつぶやくエンジュ。アリシアは何も言わない。なぜならそれは彼女も、いや彼女こそが感じていることだから…


「迷っていても仕方がない、私たちには時間がないのだから」


 そう彼女たちには時間がない。アリシアが学生でいられるのは残りあとわずかなのだから。そして彼女にはどうしても学生のうちにやっておかなければならないことがあった。





 そんなこんなで合宿が決定した。参加者はアリシアとエンジュのルイス兄弟にアオイ、フレア、シュウの三人。それとシュウ達にとっては今回が初顔合わせとなる二人が参加することになっているらしい。らしいというのは二人は現地で合流するらしく同じ船には乗っていない。その二人に関しては名前も性別も年齢も三人は知らない。一切が謎となっている、謎の人物…………というわけではもちろんなく、単に教えてくれないのだ、アリシアが。曰く。


「だってそっちのほうが面白いでしょ? 会ってからのお楽しみ」


 ということらしい。何がどうお楽しみなのかはいまいちよく分からないが、これでようやくアリシアやエンジュ以外の小隊員と会えることになる。結局この日まで何故かこの二人以外の隊員と会っていない。そのことに多少の疑問を覚えつつも、船に乗り込む一同であった。

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