7.告げられる形―12
殴り、殴られ、殴り。また殴られの攻防が恐ろしいばかりに続く。互いとも相等なダメージを負いながらも、止まる事を知らない。
そうして、余りに長い数分間が過ぎてやっと、次へと移る。
アギトがギルバに掴まれ、投げられた。だが、アギトはそれとて容易くいなし、体勢を立て直すそのタイミングで柄へと戻っていたアクセスキーを取り、一度振って刀の形へと変える。だが、その間にギルバも剣のアクセスキーを取り戻していて、互いとも、睨み合うために一時停止したのだった。
「ふざけやがって」
口元の張り付いた血の跡を拭って消して、アギトは吐き出す。
「ギヒャハハハハハ。お前こそそのふざけた強さは何々だァ。久々に燃えてるぜェ、俺ァ」
そして、ギルバも興趣の笑みと共に返す。
「いい加減、終わらせるぞ」
「いいぜェ、終わらせてみろよォ」
そして、再び、二人は刃を交わすのだった。
21
「アンタ……!!」
アヤナ、エルダの前に姿を見せたのは――プライドだった。両手に刃の付いたトンファー型のアクセスキーが握り締められていて、エルダはすぐに警戒する。
「アクセスキー!? 敵なの!?」
「こいつが例の反逆者よ!」
アヤナの説明で二人ともアクセスキーを構え、大きく後ろに下がって距離を取り、警戒した。アヤナもまさかプライドがアクセスキーを所持しているとは思っていなかった様で、頬に冷や汗をつたわせていた。
そんな二人を前にしたプライド。彼もまた、アヤナの様に焦燥を感じているのだった。当然だ。一人中央塔から逃げ出し、ギルバと合流しようと考えて出てみれば既にアクセスキーを使い慣れたアヤナ、そしてプライドからすれば未知の存在ともいえるアクセスキー所有者エルダとの遭遇。二人のアクセスキー所有者を前にしただけで不利な状況ともいえるのだ。尚更プライドには分がない。
プライドはその自身の立場を理解した上で、表情を渋く歪ませる。
「くっ……!! こんな時に……」
プライドは忌々しげにそう吐き捨てて、辺りを見回す。何か、ないか、と。だがここは森の中。木々以外に大したモノがないのは明白であり、この場を逃れるために使えるモノがない事など分かりきっているも同然。そんな光景にプライドは更に眉を顰めるのだった。
(とにかく、ヴェラに報告入れないと)
そう思ったアヤナはプライドに気付かれないように携帯を展開。不可視状態のまま操作し、ヴェラへとプライドと接触した事を告げるメールを送ったのだった。
「で、どうするのかな? こっちはアクセスキー所有者二人だけど?」
エルダが、脅すようにそう吐く。右手に構えたハンドアックスの先をプライドへと指すように向けて、脅しの笑みを浮かべる。当然これはハッタリにも近い虚勢だ。相手のスキルが分かっていない以上、余り下手に動く事は出来ないのだから当然だ。
「見逃してくれるなれば先を急ぐのでな。先に行きたいが」
分かってはいながらも、プライドはそう言って、アヤナとエルダの隙間からその先の薄暗い道を見る。それで、アヤナは気付いた。
「アンタもしかして……ギルバの所にいくっての?」
怪訝に眉を顰めて疑ったアヤナの態度にプライドは忌々しげに舌打ち。そして、観念したとばかりに首肯した。
「そうだが。当然だろう? 立場を考えてみろ」
「開き直っちゃって。けど、私達がここを通すと思う? 今、アギトがギルバと戦ってる最中だからね。邪魔させるつもりはないよ」
「そうよ。それにアンタの身柄は中央塔に引き渡すつもりでいるから。反逆者としてね」
「面倒な事を」
そして結局、対峙する以外の選択肢は場に残らない。アクセスキーを持つ者の性か。対立する者は殺し合う以外にないのかもしれない。
「いいだろう」
プライドはそう吐き出して、両手に構えるアクセスキーを握りなおした。
「貴様等二人が我が相手になるなどと思うているならば、その考えを改めさせてやろう」
「上等だね。君のその言葉、そのまま返すよ」
「裏切り者が良く言うわ」
そして、三人の動きが始まるのだった。
まず、飛び出したのはアヤナだ。巨大な鎌を持って一瞬で加速、疾駆しれプライドの懐へと飛び込む。
(早い……!!)
プライドの動体視力はそれを追従するので精一杯だった。当然だ。プライドは今まで元老院の権力に縋り、中央塔にてデスクワークで生計を立てていたのだ。実際現場に出ているアヤナ達とはまず、動きが違う。ヴェラとその配下の軍隊に囲まれた時の様なハッタリも当然聞かない。
「くっそ!」
プライドは自身の力のなさに嫌気がさし、自然とそう吐き出して、両手を胸の前に構えて防御の体制を取った。そして、そこに落ちるアヤナのアクセスキーの鎌の刃。
激しい衝突音と共に眩しすぎる火花が炸裂。そして、アヤナがプライドを、圧しきる。
アヤナの強烈な一振りでプライドは防御こそ成功させたが、蹴り飛ばされたサッカーボールの様に大きく、真っ直ぐ後方に吹き飛んだ。プライドの身体は屹立する木々の幹にぶつかってやっと止まるのが限界だった。
「ぐう……」
戦闘経験もろくにないプライドにとって、それは大ダメージだ。全身を掛ける衝撃はプライドの想像以上に大きく、防御を取った手が痺れている事に恐れてしまいそうだった。だがまだ、両手にはアクセスキーがある。
木に寄りかかるようにして止まったプライド。すぐに体勢を立て直そうとするが、身体は脳の命令をディレイさせていた。
そしてそこに、エルダが続く。
ハンドアックス型のアクセスキーを掲げて飛び込んできたエルダ。そのまま、着地と同時にハンドアックスを振り切る。その瞬間にハンドアックスは巨大化。縦一閃がプライドを襲う。
「ッう!」
最早プライドに考えている暇等ない。プライドはエルダの攻撃に反射的にトンファーを装備する両手を突き出していた。




