7.告げられる形―11
「その時はね、アタシとさっき言った数十名が実験台になってた。何の意味があるのか、拷問されたり、訳の分からない薬に漬けられたりね。そこに、……ギルバもいたの。ギルバも同じような実験をされてた。だから『白い』のよ。アタシ達は。アタシは元々色白で髪も明るい方だったから対してイメチェンにもならなかったけどね。……いろんな実験をさせられた上で、力を持つ人間が出てきた。アタシは違ったけど。それが、ギルバ。ギルバは異常なまでの力を得た。そして、人間性を失った。セオドア・クラークみたいに、人間性がなくなったわね。そして、強大な力を手に入れたギルバはたった一人で反旗を掲げた。一人拘束を解いて、研究所を破壊して、外の世界に出た。見てはいないけど、セオドア・クラークを殺したのも多分、ギルバね」
「そ、そんな事があったんだ……。なんか、ごめんね」
アヤナの長広舌に、エルダは謝る以外になかった。過去を聞いてごめんなさい。嫌な事を思い出させてごめんなさい、と。
「気にしないでったら。大丈夫だから」
そうしてアヤナは笑う。本当に、大丈夫だから、と。
「ん? でもなんで、アヤナはあんなにギルバに食って掛かるの? アヤナはギルバのお陰で脱出できたわけでしょ?」
エルダはふと気付いて、申し訳ない気持ちを見せながら、問う。
対してアヤナは、そうね、と説明を始めた。
「それは研究所にまだ捕まってた頃の話しになるわね。……イロイロあった、って言ったらそれまでなんだけど、とにかくアイツはアタシをいじめてね。アタシはその頃まだ十代だっただろうし、相手は男でしかも力がある。何が気に食わなかったのかは分からないけど、とにかく、アイツはセオドア・クラークの真似をするかのようにアタシを散々弄んだ。それだけよ」
「……そう」
余りに酷な話しを聞いて、エルダも大分気持ちが沈んだ。ここまで聞かされて、最早、アヤナを止める事は出来ない、と思ってしまった程だった。既に、エルダの手は離れている。そして、アヤナは振り返る。
行くのか、そう思ったと同時、だった。
「おう?」
二人を囲むように生えていた木々の隙間から、一つの影が覗いたのだった。
20
それは、剣だった。それも、純白に輝く、アクセスキーだと主張しているような。
「これで、対等だァ」
ギルバの手に、その剣は収まる。まるで、アギトのアクセスキーがの刀と対をなすような形状の剣。ギルバはそれを右腕に収め、掲げ、そう言った。
「次から次へと面白いモノを出すな。道化にでもなったかよ」
アギトがそう挑発した頭上で、あの穴は歪み、消滅した。
「ギヒッ。まぁ、これで楽しくなるだろッ!!」
そして、始まった。一番手はギルバのスタブだった。その予備動作が全く見えない程に速いアギトの顔面を抉る様な突きの攻撃。アギトはそれを条件反射で、僅かに身を横に動かして避けた。そこからが、開戦。
アギトの刀が持ち上がり、顔の横にあったギルバの剣を圧すように弾く。キン、と甲高い音。そして続行。
「シッ!!」
アギトの横一閃。それをギルバは剣を縦にしてそれを受止める。
「楽しいねぇ!!」
ギルバはアギトの剣を受止めたと同時、それを回転させるように動かし、アギトの刀の切っ先を下へと向けた。だが、アギトもそれで負けやしない。巻き込まれた事で自身の刀の上にギルバの剣がのった形となっている。そこに、アギトはブーツを置いた。踏みつけ、その隙間から自身の刀だけを引き抜き、スタブを返す。
だが、ギルバはそれを首だけを動かす動作で避けてみせる。そのまま、ギルバも跳ね退き、再戦。
互いの刃が互いを弾き合う。甲高い金属音が連続して炸裂し、派手な火花が純白の刃から放たれる。空気が衝突点で生じた衝撃派に揺れ、互いの身体を揺らすかのように響いたのだった。
そして斬り合い、鍔迫り合いが掛ける。
固い、だが鋭利な動きが継続して流れる。
弾き、押し、押され、引き合い、ちぎり、切る、斬る。
そして、決着はまだ、つきそうにない。
鍔迫り合いが始まる。火花が眼前で弾けるが、互い共気は止めない。それよりも、刃、火花越しに見える互いの目を捉えている。アギトは睨み、ギルバはニタニタと笑んでいる。
鍔迫り合いが暫く続き、そして、事態はやっと動く。
ガキリ、と鋭利な音。それと同時、ギルバの手の中から剣が弾かれた。アギトが、鍔迫り合いにて圧し勝ったのだ。
「終わりだ!」
アギトの怒声が響き渡る。
だが、ギルバの笑みは崩れない。
「ギヒッ、」
アギトの刀が切り上げの軌道を描く。だが、そこに、ギルバの足が抑止に入る。
「ッ!」
ギルバの靴は半分近くまで切り込みを入れられるが、決して、断ち切られはしなかった。ギルバの靴が、アギトの刀を弾いた。
そして、ギルバの剣も、アギトの刀も、宙を舞った。
だが、戦いは終わっていない。
「オ、オォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
アクセスキーはなくなったが、拳と拳の打ち合いになったのは事実。アギトは右拳を掲げ、ギルバの顔面へと向けて拳を放った。それは確かにギルバの鼻面を打つ。だが、ギルバは怯みすらしなかった。仕返しだ、と言わんばかりに右拳を放ち、アギトの頬を抉る。
「ッ、」
「グウ!!」
互いがノックバックする。振り切られる程の衝撃に耐え、互いともまだ、その場から離れない。
「オォラッ!!」
アギトが上体を引き戻す形で、思い切った拳をギルバに放つ。それは丁度体勢を立て直そうとしたギルバの水月を突き上げる。
「オア、」
急所を突いたからか、流石のギルバも、その一撃には一瞬ながら表情を歪めた。だが、ギルバはそれでもまだ、笑いを取り戻す。
ギヒ、と笑んで、ギルバはまた打ち返す。左拳が伸び、アギトの胸元を打った。
「ッ、くっそ!」
そこからは、ただの殺し合いもとい喧嘩だった。




