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7.告げられる形―5

 そうして、アギト達は次に、エルドラド大陸へと戻る事となったのだった。




   15




「フ、フフフ……ハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 真っ暗闇とも言える真夜中のどこか森林地帯の中で、悪魔の様な高笑いが響いた。声は木々に反響して森の奥底まで響いている。

「いいぞ……予想以上だ。『ギルバ』の力ッ!! あれ程までに強ければきっとアギトをも殺してくれるに違いない……!」

 そう、呟く様に吐きだしているのは――元老院右席を位置するプライドだった。中央塔から一人抜け出し、自身の携帯からその情報を引き出し、興趣に浸っていたのだった。

 プライドはどうしても、アギトが気に食わないのか、それとも何か考えや信念、作戦でもあるのか、『アギトの邪魔』をしようとしているのだ。

 実はギルバにアクセスキーを渡したのはこのプライドなのだ。元老院の力を利用して何処かからアクセスキーを奪い取り、ギルバへと『アギトの抹殺依頼』と共に渡したのである。フレミアでも、ギルバの危険性は理解していたのか、ギルバにフレミアのアクセスキーは渡っていなかったのである。

 プライドは不気味な笑みを浮かべたまま、右手首の上に出現させている空中投影モニターを眺めている。そこには、新聞記事が浮かんでいた。ユートピア大陸からエルドラド大陸へと渡ったおぞましい力を持った人間が、暴れ、街を、国を、大陸を破壊しようとしているという記事。既にゼータだけでも数十の街が破壊されているという記事。

 当然軍隊や土地に属する傭兵集団がギルバ抑止のために現地へと赴いて対抗しようとはしているのだが、逆に殲滅されてしまっているという事実の文。

「世界等運命のままに滅びればよい。……アギトのような糞ガキが力を跋扈させるような世界等必要ない! 俺は『技術者アーキテクト』と接触して、『このディヴァイド』とはおさらばだ。それで全部が上手く行く……! ふ、ハハアハハハハッハアアアアア!」

 そう一人吐き出して、また、プライドは興趣の高笑いを上げた。声は風さえも押し退けて辺り一帯に響き渡る。

 木々が笑い声に圧されるように揺れ、辺りは荘厳とした雰囲気に包まれる。

 だが、その時だった。


「アナタだったのですね。エルドラド大陸を危機に瀕させていたのは」


 静かな、透き通る様な声が、プライドの高笑いを掻き消した。

 プライドは声を認識したその瞬間、動きを止めた。緊張なのか、それとも恐怖なのか、プライドの咽喉は干上がり、嫌な汗が全身から噴出してしまう。

 ギギギ、と錆び付いたロボットの様なぎこちない動きでプライドが振り返ると、そこには赤い瞳をもった、ウェーブがかった黒髪を揺らす――元老院最高官ヴェラだ。

 ヴェラの瞳は冷めている。恐ろしく冷たい視線は間違いなく、プライドへと落とされていた。

「くっ……! ヴェラめが! どうしてここが分かったか!?」

「あれだけ高笑いを上げていれば誰とて気付くモノでしょう?」

 そうは言うが、当然皮肉である。ヴェラは少し前からプライドに影を感じ、部下に調査をさせていたのだ。

 そして、その証拠に、とでも言わんばかりに、森を作る木々の隙間から、元老院配下にある軍人達が、プライドを囲む様に姿を現した。その数、数え切れやしない。プライドが辺りを見回すが、どこまでもその影が支配している様に見えた。

 状況に気付いたプライドは糸切り歯をむき出しにして、忌々しげに雄叫びを上げる。

「ヴェラ、貴様……ぁああああああああああああああああああああああああ!!」

 雄叫びが轟き、そして――止まった。声は勿論、雄叫び、風のさえずり、梢が揺れる音、全てが、止まった。

 そして、プライドは告げる。


「で、『人間を殺す事の出来ない』雑魚が複数集まって、どうするというのだ?」


 ニヤリ、とプライドの表情に不気味な笑みが貼り付けられた。

 そして手には、いつのまにか『純白に輝く』、刃が身をなぞる様に付けられたトンファーが、装備されていた。挙句、両手に、である。

「ッ! アクセスキー……だと、」

 ヴェラは思わず身を引いた。

 そうだ。プライドはギルバに渡すアクセスキーを準備した際に、念を押して自身の分もアクセスキーを手に入れていたのだ。その際に、出た死人の数は計り知れない。だが、そこの報道規制も元老院の立場を利用し、プライド独自で掛けていたのだった。

 して、プライドはアクセスキーを振るう。

「ッ!!」

 反射的にヴェラはバックステップで下がり、なんとかそれを交わす。その光景が、軍人達をも脅したのだった。

 して、余裕が出来たプライドは下舐めずりをわざとらしく見せ、

「正直、この世界ごと滅ぼすつもりでいるのだ。ここで貴様達元老院を殺してもよいが……数が数だ。このアクセスキーの能力では、まとめて殺す事にはならない。数に圧され、再出現リポップさせられる可能性があるからな……身を引かせて頂く」

 そう捨てて、プライドはアクセスキーを掲げ、主張しながら走り出した。当然、軍人達がその道をふさいでいたのだだが、アクセスキーを前に攻撃を仕掛ける事も出来ず、ただ、道を空ける事しか出来なかったのだった。

「くそ……」

 ヴェラは苛立ちと共にそう吐き出した。だが、どうしてもまだ期ではなく、追いかける事は出来なかったのだった。




   16




 エルドラド北東に位置する国、ゼータ。そこは今、壊滅状態にあった。どこを見渡せど、崩壊の一文字。

 そしてその中心に立つのが、全てが『白い』男。まるでアヤナの写し身の様なそんな男はスラッとした身長が印象的な、男だった。男の手にはアクセスキーと呼べる影はない。だが、右手首に純白に輝くガントレットが装備されている。

 これが、この男『ギルバ』に渡ったアクセスキーだ。

「うぅ、あぁ……」

 全てが崩壊し、更地となって視界が開けたこの場所。ギルバの視界の隅で、一つの影が動き出した。

 ギルバは鋭利かつ、怠惰を感じ取れる視線を遥か遠くに見えるその生き残りに突き刺して、吐く。

「まぁだ生き残ってたってか」

 そう吐き出して、向き直り、右手を掲げるように、上げた。

 すると、だ。ギルバの頭上、遥か上空の空が――穴を開けた。それは、エラーをはまた違う、空間をひずませる穴。

 空間自体が歪み、別の空間と繋がったような、そんな不気味さを感じ取る事が出来る。おぞましく、恐ろしく、見ただけで戦慄してしまうそんな異常事態が、ギルバのアクセスキーの力だった。

 当然、これはフレミアが作ったアクセスキーなのだが、フレミア自身がここまでのスキルを付加したわけではない。これは、プライドからアクセスキーを受け取ったギルバが、『独自に調整した』スキルなのだ。

 何故、そんな事が出来るのか。

 そして、その力を表現するように――、

「俺ァ一匹相手でも楽しく殺すぜぇ……」

 ――そこから、『何かが覗いた』。 

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