6.女尊男卑の国―21
当然だろ? とアギト。その言葉に諦めを付けたか、フレミアはアギトの眼前で大袈裟なまでな溜息を吐き出して俯く。して、次に表情を上げた時、フレミアはまた疑問を残す。
「私は特別どうも出来ないけど……。オラクルが言う『もう一つのデヴァイド』は、きっと私がいる、私が指すその場所ではないはず」
「ん? ……どういう事だ?」
アギトは本当に「分からない」といった様子で眉を顰め、問うが、フレミアは応えない。それどころかアギトを無視して話しを別の方向へと捻じ曲げる。
「時間が一気になくなった」
フレミアの目は真剣そのもので、アギトは不満げにピクリと眉の端を吊り上げるが、今、フレミアから吐き出された言葉にも疑問は残る。それに、フレミアから言い出した今、答えは期待できそうだ。仕方なしに、アギトは問う。
「時間って……やっぱり、この世界の限界って事か?」
アギトの問いにフレミアは僅かにパーマが掛かった真っ白な毛をフワリと揺らしながら、首肯。
「そう。……、魔王が、アギト達の存在に気付いの。面白がった魔王は『最期の時』までの時間を短くした。それに、今、魔王はアクセスキーの出所を探ってる。私の策略がバレるのも時間の問題だと思う。そうしたら、もう、会えなくなるかもしれない」
言い終えたフレミアは機微な反応だが、俯き、落ち込んだ様子を見せる。そこに、何があるか、とアギトは言葉に模索する。
(……俺は、どう行動しろって言うんだ)
フレミアの真剣な言葉は率直だ。意味は理解できる。時間がない、ただそれだけの事。その背景を理解し、掌握した上でアギトは思案する。自身がこれから、どうすれば良いか、と。
もしかしたら、オラクルを訪ねる時間さえ惜しいのかもしれない。
そして、まてよ、と気付く。
「オイオイ、今の言葉からすれば、魔王がこの世界を『守ってる』ってなるじゃねぇか?」
「そう」
フレミアの首肯は早かった。だが、アギトも即座に反撃する。
「現実世界の機械共がこの世界を滅ぼそうとしてんじゃねぇのかよ」
「そう。でも、魔王はその『中間』にいるから。機械共の攻撃を阻止してる。それを調整するなんて、魔王には容易い事なんだよ」
「……魔王は何がしたいんだ?」
「楽しみたいんだと、思う」
「はぁ? 楽しみたい?」
「そう、素直に、楽しみたい。魔王が今の気まぐれを起こしてる理由は多分そう」
フレミアから聞かされた恐らくな真実にアギトは呆れる。そんな馬鹿な、と嘆息して、
「そんな奴の気まぐれの相手してんのか、俺等はよ」
僅かに声色が変わったアギト。低く、怒るような声色が唸った。
その変化を察したか、フレミアは僅かに辟易しつつ、若干震える声で応える。
「……、でも、そうしないと世界は滅びる。消滅、言葉通りに」
対してアギトは「はぁ」と大袈裟な溜息を吐き出して空を見上げる。何か、思い馳せるような仕草は苛立ちを諫めるようにも見え、先の事を考えている様にも見えた。
どうしたの? とフレミアは問おうとしたのだが、あえてそこは押し黙った。アギトを見上げ、そのまま、何も言わずに消える。アギトはフレミアが消えた事にも気付いたか、静かに視線を下ろす。
「まぁ、……時間についてはなんとかする努力はしてやるよ」
アギトは独り言でそう吐き出して、踵を返した。




